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8時5分発に間にあった。車内にはサラリーマン風のおじさんと、白髪のおばあちゃんが前の席に座っていた。僕は1番後ろの4座席の右端に座った。滅多にバスとかタクシーには乗らない。バス特有の独特の匂いが充満している。扉が閉まり、運命の恋バスが発車した。
とにかく、今日はバイトの日であって欲しい。そうだと話しがかなりスムーズにいく。だが、バイトではなかった場合が少しややこしくなる。とりあえず江戸やんのポケベルを鳴らして、安奈に連絡を取ってもらうしか方法はない。何故、家の電話やポケベルの番号を聞いておかなかったのかが悔やまれるところだ。というより、ポケベルを持っているかどうかも知らない。自分の中で彼女に対してブレーキをかけていたから、肝心な事をわざと聞かなかった。どんどん事が進むのが怖くて、心が追いついてこなかった。だが、そんなチキン野郎だった事も過去の話しだ。今は自分でも怖いぐらい落ち着いている。多少のドキドキはあるが、むしろ心地よく、バスの振動とシンクロしている。七恵さんの事や、前の彼女の事、色々あったが心から彩乃を愛している事を再確認する証となった。あとは、その証を彼女に言葉に変えて伝えるだけだ。
自転車だと1時間ぐらいはかかるが、20分ぐらいで彩乃のバイト先近くの駅前に着いた。いつも自転車で来るから、景色が少し違って見えた。僕はバスから降りて、まっすぐバイト先へと向かった。車内はクーラーが効いていて快適だったが、降りた瞬間、げんなりするほどの暑さに襲われた。とりあえず、あまり汗をかきたくない。
彩乃のバイト先の駐輪場に着いた──彩乃の自転車を確認したが何処にもない。ないという事は、バイトの日ではなかったという事だ。僕は、喉が渇いたのでとりあえずコンビニの中へ入った。薄く汗が滲んだ黒のポロシャツを乾かす事も出来るし、今日バイトの人に、彩乃はいつバイトに入っているか聞く事も出来る。
僕は、彩乃が好きなスポーツドリンクのペットボトルを2つ冷蔵庫から取り出した。運良く会えたらそれを渡そうと思う。店内は普通にお客さんが行き交い、レジ前には2人ほど並んでいた。