君を愛している
気持ちが高ぶっていたせいか、全く眠れなかった。元々、不眠症だがそれに輪をかけたほど眠っていない。1人作戦会議が楽しくなってしまい、まるで遠足に行く前日の夜みたいだった。『愛している』これは本当にそう思っているから、絶対に伝えたい言葉だが、よくよく考えてみると言った事がないかもしれない。『好きだ』とかは言った事はあるが、『愛している』は流石にない。まず、いつ使う言葉かも分かっていない。ベッドの中ですら、相手から言われて『好きだよ』と答える程度だった。とにかく、いきなり面と向かって言うのは引かれるかもしれない。だけど、どうしても『愛している』と彩乃に伝えたいのだ。レプに相談したら、『愛していると言っている自分が好きなんだろ?』と瞬殺されそうだが、今回はそんな“ナル君”ではない。本当に、心から彼女に伝えたいのだ。
日が暮れ、どうやらその時が来たようだ。早めにお風呂に入り、全身を綺麗に洗った。特に下半身は念入りに泡立てた。
準備を怠ってはいけない──成功者はみな口を揃えてそれを言う。本などはあまりというか、全く読まないが、ある日テレビを見ていて、好きなプロ野球選手がそう言っていたから僕も真似しようと思っていた。その事と下半身を念入りに洗う事が当てはまるかは分からないが。
東京で断髪式を行なったが、少し伸びてきた。根本の黒色が目立ってきたが、今のこの全体に立たす感じの髪型が気に入っている。前の耳がすっぽりと隠れてしまうほど長い髪よりも、立たせてある分だけ身長も高く見えると思っているからだ。彩乃の身長は170を超えるほどだ。少しでも上積みが必要である。いつも履いているシューズに中敷きを入れ、これまた少しだが身長の低さを補っている。彼女も自分より身長が低い男は、本音では好んでいないはずだ。だが、こればかりはどうしようもない事だ。それよりも、付き合って良かったと思われるように大事にすればいい。無いものはどうしたって無い訳だから。
地元の駅から彼女のバイト先の駅前までバスが通っている事は確認済みだ。僕は、なるべく汗をかかないように、ゆっくりと自転車を漕ぎ駅からバスに乗った。