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「何か惑わすような事言ってごめんな」
「いや、かまへんよ。教えてくれてありがとう」
これが4月の話しならノコノコと彼女の家の前まで行って、無理矢理にでも問いただしていただろう。別に面と向かって、『別れよう』と言われた訳ではない。言われたのは、『間を空けよう』だった。まだ、お互いが好きなら、9月5日に、僕が彼女に告白した公園で会う事になっていたが、来るはずないと思っていたし、あの最後に会った日が終わりの日だったと今でも思っている。今回の事も、僕に彼女がいるかどうかを聞いただけで、まだ僕を好きだとは思えない。何故なら、あんなに毎日会っていたのに、間を空けようなど僕なら口が裂けても言えないからだ。それを言えた彼女は、単純にその程度の気持ちでしかないのだろうと。
「あと、俺、亜紀と付き合ってんねん」
「マジ?」
「お前の事気に入ってたみたいやが、相手にされてないって嘆いてるとこを口説いたら直ぐOKやったわ」
「でも、お似合いかも」
「お客さんにも言われる。夫婦なれやて」
「そうなんや。また亜紀ちゃん入ってる時に来るわ」
「その噂の彼女と一緒にな」
「明日、告白してくるわ」
「お前なら大丈夫やろ」
お会計を済ませて店の外に出た。半端なく蒸し暑い。外灯の灯りに蝉が昼間と勘違いしているのか、シーシーと鳴いていた。僕は駅前の広場に向かい、噴水の前にあるベンチに腰掛けた。一応、準急が停車する駅のはずだが、僕と犬の散歩をしているおじさんしかいない。考え事をするにはもってこいである。いつもならスケボーや、マウンテンバイクのような自転車で縦横無尽にこの広場を走っているから運が良かった。
今や、彩乃の親友となった安奈にも告白すると言ってしまった。もう何処にも逃げる場所などない。凄く不安だが、1週間先、2週間先の話しではない。明日決行なのだ。僕はバッドエンドのパターンは一切考えず、ポジティブなイメージで明日の作戦を練った。
1、自転車だと着くなり汗だくになり、江戸やんではないが、汗の匂いが気になって任務を遂行できない恐れがあるので、バスで彩乃のバイト先に向かう。
2、バイトではない場合、江戸やんにベルを鳴らして安奈に自宅に電話してもらう。
3、とにかく、会えたら無駄話しはせず、気持ちをストレートに伝える。男らしく、『愛している』と言う。