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僕は、キンキンに冷えたオレンジジュースを飲み干した。この3か月、眠れない夜を何日も過ごしたし、体重も落ちた。今でも後遺症と言えば言い過ぎだが、大切なものを失う怖さに怯えている。誰もが通る道だと言われてしまえばそれまでだが──。
「監視とか何でされてるんや。怖すぎるやろ」
「何でやろうな。そこまでは聞いてないけど」
僕と付き合っている時は、そんな事はなかったと思う。いや、ないはずだ。だが、彼女を昼夜問わず連れ回していた。その事で両親から監視されるようになったかもしれないし、別れる事へと繋がったのかもしれない──。
「いずれにしても、お前、好きな女いてるんやろ?」
「うん。明日、告白しようかなと」
「それをカウンター越しに聞いてしまったから、ちょっと迷ったんやが、立場が逆なら先に言っておいて欲しいからさ」
「それはそう思う。それかずっと言わないかやな」
「いや、言わなくても、いずれこの店で鉢合わせする可能性もあるやん? かなり高めの確率で」
この店には、たてや江戸やん、安奈も来た。おそらく、事あるごとにこの店を利用するだろう。彼女もかなりの頻度でこの店に来ている訳だから、再会するのも時間の問題だろう。そして、その事をイメージしても、心が踊らない自分がいた。もう僕の中では完全に終わった話しなんだろうと思った。
「だいぶ痩せてたわ。お前も足とか枯れた枝ぐらいやもんな」
それは枝の太さによるだろうとツッコミたくなったが、久々に会う人には必ず言われるぐらい痩せた。以前、彩乃にも同じような事を言われた。『一緒にいると私の方が足太い』とか言っていたから、『どんなんか見せて』と言ったら、軽く頭を叩かれた。
「揺らがんのか?」
「こういう話しをしてても、彼女の事でいっぱいやな」
「流石やな。俺ならグラグラやわ」
僕のせいで監視付きの日々を送っているのかもしれない──確かめた訳ではないが、仮にそうだとしたら、申し訳ない事をした。彼氏もいないみたいだが、今となってはどうしようもない事だ。時は流れている。間違いなく、今までの人生ので1番辛い時期だった。自分の力だけではどうする事も出来なかったし、彼女に戻るという事は、歩んで来た道、乗り越えた壁をあっさり引き返す事になる。それだけはどうしても出来ないし、そんな気もない。残酷なようだが、今は彩乃以外は女として見れないのだ。