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昔から何でも出来る男だった。勉強は僕と同じで苦手だったが、走らせたら学年でもトップクラス、水泳の時間などはまるで飛魚のごとく泳ぎまわる男で、何より手先がとても器用だった。
「将来は自分の店を持ちたいと思っててな」
「そうなんや。凄いな。リーチの店か」
「ずっと先になりそうやけどな。それよりもさ、ちっかんには言っておいた方がよいと思って」
さっきまで流れていた有線は切られており、店内は鎮まりかえっていた。同じ空間のはずなのに、違う場所のような感覚を覚えた。
「めっちゃ気になる。何なん?」
「お前の前の彼女がこの間来たわ」
少しびっくりしたが、彼女関連の事ではないかと心のどこかで感じていた。
「……そうなんや」
「男2人、女2人やったな」
「……そっそうか」
「お前の事を聞かれてな。どうしてるんみたいな感じで」
どうしてるもこうしてるもない──君のおかげで成長させてもらったと言いたかったが、まだまだそこまで人間が出来ていなかった。
「元気でやってるんとか聞いてきたが、最後にストレートに聞いてきたわ」
「何て?」
「彼女とかおるんかって」
「はっ? 意味わからんわ」
怒りがこみ上げてきた。自分は新しい彼氏が出来たから、僕にも新しい彼女が出来ていて欲しかったのか──。頭に血がのぼってクラクラしてきた。
「だから聞いたんや。そっちこそ大学生らしき奴と付き合ってるんやろと」
「その一緒に来てた男かな」
「かなり強く否定してたよ。彼氏はいてないと」
「えっ?」
新学期の初日、見上げた桜の木を思い出した。鮮やかなピンク色のはずがモノクロに見えたあの日。絶望の真っ只中だったあの季節を──。
「スポーツカーの男の話しもしたよ」
「……何て?」
「従兄弟の兄ちゃんらしいわ」
「……悪い。ちょっと分からん」
リーチの話しによると、従兄弟は彼女の両親に言われて送り迎えをしているらしい。悪い虫が付かないようにだそうだ。
「従兄弟の兄ちゃんに監視されてるって事?」
「平たく言えばそういう事になるな」