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3時間ほど3人で色んな事を話した。最初の頃は安奈率いるグループと対立していたが、今では遠い昔のように感じる。この3か月の間に、目まぐるしく状況は変わり、僕のこれまでの人生の中で最も濃密な時間となった。メガトン級の失恋から立ち直る事が出来たし、親友と呼べる友達が4人も出来た。たては微妙だけど、彼は彼でなくてはならない存在だ。
全てが愛おしく感じる──そんな事を思った事もなければ、感じた事もなかったこれまでだった。友達の大切さを失恋から学び、新しい恋が前の恋を優しく包んでくれた。生きていると納得のいかない事や、どうにもならない事に遭遇する。自分の意思とは無関係に。そんな時は自分の大切な人を想い、より大切にしていこうと決意した。何せ、人は1人では生きてはいけないのだから──。
「近ちゃん、今日は楽しかったし、1番に報告できて良かったよ」
「ありがとう。江戸やんの事よろしく頼んます」
「この人と友達になってくれてありがとう。じゃないと、こうして付き合えてないと思うし」
恋愛とは人をこんなにも変えてしまうものなのか──安奈から、感謝する気持ちが溢れでているように感じた。そして、それを受け止め合える関係って本当に最高で幸せな事なんだと思った。
次は僕の番だ。間接的ではあるが、彩乃の事をとても傷つけてしまった。繊細で寂しがり屋な彼女の事を、柄にも無く守りたいと思った。上手く気持ちを伝えられないかもしれないけど、この溢れ出る感情を彼女にぶつけたい。
「近ちゃん、そろそろ行くよ。またベル鳴らして」
「分かった。2人でよろしくやってくんなはれ」
「言い方がちょっとだけたてみたいになってるから」
江戸やんと安奈は2千円ずつ置いて店から出て行った。
「お疲れ」
リーチが、オレンジジュースを持ってきてくれた。
「ありがとう。客もおらへんな」
「そろそろ暖簾片付ける時間や。今日は暇やったわ」
話しに集中していたせいか周りの様子に気づいていなかった。もう一人いたバイトの姿もない。
「平日やしな。俺ら学生は夏休みやけど」
リーチは毎日ここで働いている。オーナーさんからの信頼も厚く、ほぼこの店を任せているらしい。高校を卒業したら直ぐに正社員として働くそうだ。