転移魔法?いいえ瞬発力が良いだけです。
魔力が発見されてから1000年、何年も研鑽を重ねられた事で多くの不思議な現象を魔力を用いて実現する魔法が溢れる世の中に俺は障害を持って産まれた。
人体臓器の1つに魔蓄器と呼ばれる、体外の魔力を集積し、自身の魔力として蓄える器官がある。
この魔蓄器は個人によって性能に差があり、この魔法社会では魔蓄器の差がそのまま才能の差となる事が多い。
俺の場合、他人よりも魔蓄器の体外魔力を集める性能が良かった…いや、良すぎた。
自身の魔力を体外に出した瞬間魔蓄器が全て吸収してしまう為、折角集めた魔力を体外に出す事が出来ず、魔法を使う事が出来ない、所謂「過集積魔蓄器症」と呼ばれる障害で、世界でも発症例が少なく、研究が進んでいない症状である。
研究が進まない要因として、ただでさえ発症例が少ないのに発症者の殆どが幼少期に迫害に近い虐めを受け殺害又は自殺してしまうからだ。
かく言う俺も虐めを受けた。
と、まぁ俺の身の上話をした訳だが、それは何故かと言うと…
「ゼロ様、何度も申し上げておりますが、当ギルドは見込みのない方への仕事の斡旋を行う事は出来ません。」
ハンターギルドでの何度目かのお断り。
魔物討伐や素材採取など商人などのニーズに合わせて、ギルドに登録している人へ仕事を斡旋する組織にとって、魔法を使えない俺「ゼロ」には、ニーズに応える能力が無いとして仕事を斡旋して貰えていない。
鉄仮面の如く無表情で同じ言葉のリピートを繰り返されて早30分、流石の俺も心が折れそうだ。
「いや、だけど…」
「ゼロ様、何度も申し上げておりますが、当ギルドは見込みのない方への仕事の斡旋を行う事は出来ません。」
もう心が折れた、確かな魔法は使えないけど、そんな俺にも出来る事はあると思ってた。
けど…門前払いでここまで徹底的にお断りされるとこれ以上は、辛いだけだ。
「分かりました…もうギルド員になる事を諦めます。」
「お分かり頂けて助かります、他にご用件が無ければ、ご対応を終了させて頂きますが、よろしいですか?」
他用件は、何かあったような…
あ、そうだ此処に来るまでに道端で倒した蜥蜴の魔物から取れた宝石が売れるか聞くのを忘れてた。
「すいません、最後に一つだけ…此処に来る途中で倒した魔物から綺麗な宝石が出てきたんですけど、これって売れますか?」
「はい、その宝石の様なものは恐らく魔石と思われます。
宜しければこちらで買取させて頂きますよ。」
そうか、魔物から出てくる宝石は、魔石と呼ぶのか。
さっきまでは死んだ目でリピート再生の如くお断りを続けていた受付嬢が今度は愛想良く答えてくれる。
きっとギルドにもある程度の利益があるのだろう。
「では、この石の買取をお願いします。
まあ、石というよりも玉って感じですけどね。」
そう言うって俺は真紅の輝く宝石の様な玉を腰のポーチから取出して受付嬢へ手渡す。
「そうですね、球状に丸いのは初めて見ましたがこの大きさなら銀貨500枚位が妥当かとおもいます。
それで宜しいですか?」
銀貨500枚か、この街には家は無いから宿台で殆ど消えてしまうな。
けど、背に腹わ変えられないし、買取ってもらおうと。
「はい、結構です。
その金額でお願いします。」
こうして、俺の華々しいハンターデビューの幕は開かれる事なく終了した。