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ざまあみろと彼は思った('Д')

ブックマークありがとうございます!

明日も投稿するので是非また見てください!

 早い。


 手甲の伸縮する速度よりなお早く迫る巨体に焦る。


 あんな細い八つの脚でどうやって跳んだのかはまるでわからないが、それよりも早く移動する事だけを願った。


「ぶねえ…っ!」


 間一髪。


 鉄の巨体を交わし、手甲を伸縮して速度を上げる。

戦車はそのままロケットのような勢いで上昇し、ありえないことに天井に張り付いた。


 …うわ、マジで張り付いてる。


 点にしか見えない。あり得ない脚力と吸着力が可能にした現象。


『おい、あれどうなってんだよ?』


『あたしが知るわけないでしょ』


『標的から熱源を関知。どんどん上昇しています!』


 スカーレットが急に伝えてきた。


 その意味を理解した瞬間全身に鳥肌が立った。


 目の前で起きた出鱈目っぷりに意識を持って行かれていた。


 やばいと思いつつもできることはない。とにかく速い速度で移動して照準をずらすことだけを考えて、

 

『来ますっ!』


 直後、世界が揺れた。


 衝撃と爆風に全身を吹き飛ばされた。


 ものすごい勢いで移り変わる視界。錐揉みに吹き飛ばされるのいい加減慣れてきた。


 直撃はもちろんしていないし、負傷もなし。あれが連射可能なのかはしらないが、とにかく速度だけは落とさないようにしなければ。

 

 そう思ったときには、鉄の巨体が目の前にあった。


 分厚い装甲で覆われた車体の底が迫り、そのまま押し潰された。


 肺から空気が押し出され、全身に激痛が走る。


 骨の軋む音と割れる音。


 血流が無茶苦茶になって頭が妙に熱くなる。内蔵を全部吐き出したと錯覚するほどの吐き気に意識が飛びそうになった。


 

               ※


 やられた。

 

 はじめからこれが狙いだったか。

 

 完全に裏をかかれた。てっきり、あの主砲でおれを狙い打つつもりだと思っていた。

 

 実際は囮程度にしか考えていなかったのだ。いや、人間一人を大砲で狙うことの無意味さを考えれば当然かもしれない。

 

 いや、でも八本脚はやりすぎだ。あんなもんどうやって避けろってんだ。

 

 そんなどうでもいいことが頭の中に浮かんでは消える。我ながら意外と余裕があるらしい。その理由について考えようとして、考えるまでもないと気づいた。


「ルシエル、スカーレット…助かった」


『しゃべらないで。まずい、内蔵がやられてる』


『骨もだめになってます。手足は無事ですけど胴体が…肋だけじゃなく胸骨や鎖骨も』 


『いい、絶対に寝るんじゃないわよ。深呼吸…いえ、ゆっくり息を吸いなさい。苦しくても、絶対に息をすることをやめないで』


 痛みはほぼ感じない。かわりに全身の感覚もなかった。


 それがどのくらいやばいのかわからなかったが、少なくとも生きるか死ぬかの状態だってことだけはわかる。


 だから、


「おい、スカーレットやるぞ」

 

 このチャンスを逃すわけには行かない…!


 視線を右手の指先へ。


 鉄と地面で光もない状況だったが不思議と視界は明るかった。


 押しつぶされていても指一本動かす程度の隙間はある。だから、ただ動かすことだけに意識を集中した。


 思い通りに、指先は反応した。


 なら、後は簡単だ。


『ちょっと、待ちなさいって! まだだめよ! 今のままじゃ装甲を貫けない! 今は逃げることを考えなくちゃ』


 ルシエルの必至な声が脳裏に響く。


 やかましかったが頭がまともに機能していないせいか響きが鈍い。それだけが救いだと思う。さすがに、今説教を食らう気分にはならなかった。


『落ち着いて下さい、ハチ! ルシエルの言うとおりです。今はまず体勢を整えて』


「貫くんだろ?」


『え?』 


「ようやく目の前にチャンスが来た。あとは掴むだけじゃねえか」

 

 指先の感覚を掴むと全身の感覚がわかる様になってきた。痛みはまだない。けれど油断すれば一瞬で意識が失いそうな予感がある。


 だから、叫んだ。


「とっとやれ、スカーレット! てめえが貫くっていったんだろうが!」

 

『だから、そんなこと無理だって…! ちょ、スカーレットっ? あんた、まさか』


 おれの言葉に呼応するように胸元に熱を感じた。


 全身から力が抜ける。今更気づいたがルシエルやスカーレットを使っている間も体力は消耗しているらしい。


 これが最後の一発だ。

 


「ぶちかませぇっ!」


 胸元から赤い光が瞬いた。


 光はその強さを瞬間的に増して熱い鉄板を押しのける。


 ぐんぐんと伸びた赤光はそのまま戦車の車体を食い破った。


 あっさりと。


 そこまで見て、おれは意識を手放した。

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