見なかったことには出来なかった。
一瞬だった。
唇の感触を記憶する暇もない。
強烈な光と共に腕の中にいたマホちゃんから蒸気が上った。
熱い。
必死で抱えようとしたが、蒸気の熱と勢いで思わず手を放してしまった。
視界を埋め尽くす白煙が肌をちりちりと焦がしていく。その痛みに思わず這うように移動して距離をとる。
「あっちちちち…っ!」
ひりひりとした痛みがまるでとれない。
うずくまってようやく痛みが収まったが、それでもかゆみのようなものが襲ってくる。
そのかゆみがまるでとれる様子がなくて、
「…信じらんない。ほんとにやっちゃった」
思わずへたり込んだ。
白煙が徐々にはれていく。強烈な光も一瞬だけ。全身を燃やされるかと錯覚した熱量は完全に消え去った。
その中心に立つ人物は、堂々と。
己の脚で立ち上がっている。
「ハチ、いろいろ言いたいことはあるが」
「まずは化け物退治からだ。話は、またそれからにしよう」
四肢をゆらゆらと感触を確認するように揺らし、マホちゃんはそう言って不敵な笑みを浮かべた。
全裸で。
「……あの」
なにを言えばいい。
言い訳考えるために脳味噌をフル回転で回し、眼球にその姿を必死に焼き付ける。
いや、ここは素直に謝る方が負け何じゃないのかと思い始めてきた。あるいは、ここまで堂々とされると逆にお礼でも言った方がいいんじゃないだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると、
「ハチ、脱げ」
そんな男らしい一言で、おれはパン一にさせられたのであった。
※
目の前の光景は、凄惨の一言に尽きた。
地上へと至る道の途上。
さっきまで観光客や新人冒険者、おれみたいに見学に来た学生で活気づいていた場所が廃墟と化していた。
「ここまで、やるかよ」
思わずつぶやいた。
無数の人たちが床に倒れ、例外なく人体の一部をつぶされて原型を保っていない。
ここに来るまで生きている人は一人もいなかった。
あいつだ。
あのにやけ面を見せつけてきたオークの仕業に違いなかった。
オークはなぜかおれ達から離れていったが、今なお殺戮の限りを尽くしているのだろう。
奥から時折聞こえる悲鳴が事態の深刻さを明確にしている。
「中層のモンスターの凶暴性は上層のそれとは比較にならん。実力もな。あれ一匹で私たちの町は壊滅させられるだろうな」
「それを、おれたちだけで倒すんだよな」
「ああ。嫌か?」
突然の問いに思わずマホちゃんを見た。
冗談かと思ったが、真剣だったらしい。
「嫌とかいってる場合じゃないでしょ。それに」
誰とも知らない首を掲げた化け物が脳裏によみがえる。
けれど、これは正しくない。言葉が足りなかった。
実際には首をつかんでいただけでその人物は死んではいなかったのだ。女性だった。涙を流し、絶望に歪んだ表情は今でもはっきりと思い浮かぶ。
その彼女を、おれは見捨てたのだ。
自分のわがままのために。
「けじめはつけさせてやらねえと」
これだけのことをやらかしてくれたんだ。
絶対に見逃すわけにはいかねえ。
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