窮地Ⅲ
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100ポイントを超えることができました!
今後とも少しでも楽しんでいただけるように精進しますのでよろしくお願いします!
またか…!
さすがにこう何度も後出しされれば、うんざりはするが驚きはない。
今はとにかくマホちゃんだ。
もうもうと上がる煙は明らかに人体からのそれとは思えない。近づくにつれ、その異常性をありありと見せつけられた。
「…何だよ、これ」
真っ黒い固まり。
そうとしか言いようがない。衣服どころか肌も煤けていていてなにがなんだかわからない。
頭部と思われる部分の髪が縮れていてあまりにも無惨すぎた。
「…ハチ、か?」
掠れてしまっていて、何を言っているのかよく聞き取れない。
けれど、そこでようやく目の前の物体がマホちゃんだと確信する事が出来た。
「マホちゃ…っ!」
臭い。
肉が焼ける臭いで胃から吐き気がこみ上げてきた。我慢することもできない。せめてもの抵抗として三歩下がってから背を向けて、胃の中をぶちまけた。
『ほらほら、全部吐いちゃいなさい。ったく、やわなんだから』
ルシエルの声が頭の中に優しく響く。
おかげでいくらか気分が楽になった。が、それだけだ。
目の前の現実はそれ以上に深刻だった。
「どうなってんだよ…、一体なにが」
もう一度マホちゃんに近づいた。
異臭に吐き気がぶり返す。けれどこれ以上マホちゃんを放っておけるはずもなく、気合いで抱き上げた。
その拍子に、ぼろりと腕がとれた。
「うあああああああああっ!」
喉から絞り出せる限界の声を吐き出した、と思う。
とれた腕を拾おうとしたが、落ちた拍子に崩れてしまった。
崩れた。
それが本当に現実に起きたことなのか、一瞬わからなくなった。
『だから落ち着きなさいっての。いいの? その女死ぬわよ』
それで正気を失わなかったのはルシエルが絶妙なタイミングで声をかけてくれたからだ。狼狽も同調もなく、ただ柔らかい響きが目の前の現実を受け入れるための準備をしてくれる。
それも気休めにしかならなかったが。
「だめだ。くそ、なんだよ、これ。腕だけじゃない、脚も…!」
『大丈夫よ。元から義手義足なんだから』
「義…っ?」
言われて気付いた。
確かに、残った腕も脚もどこか質感が違う。けれど実際におれが見ていた限りでは普通の手や足と動きをしていたように思えた。
違和感なんて欠片もなかったし、そもそもそんな重大なことを知らない間柄でも付き合いの長さでもないはずなのに。
『意識はあるみたいね。でもだめね、気管が焼けてる。内蔵もいくつか駄目になったかも。背骨も折れてるし、死んでないのが不思議なくらい』
おれの肉体を通して、ルシエルはマホちゃんの容態を確認している。だからこそルシエルの言葉に嘘がないことだけは確信出来ていた。
確信出来ていたからこそ、おれはただマホちゃんを抱きしめることしかできなかった。
「なんで、こんなぼろぼろに…」
『あの銃ね。スキルもないのに無茶するから。…まぁ、あの状況じゃ仕方ないか』
なにが仕方ねえんだ…っ!
先輩を抱いてなければ怒鳴り散らしていたところだ。
おれの怒りを感じ取ったのか、ルシエルはさきほどよりもゆっくりとした口調で語りかけてきた。
『それだけあのモンスター達が凶暴だったってことよ。下手に放置して、地上に上がられたらそれこそ町一つ壊滅してたかもしれないし』
スタンピード。
ダンジョン関連の情報誌やニュースでは必ず取り上げられる最も恐ろしい現象。ダンジョン内に生息するモンスターが地上に進出し、周辺の生態系を壊滅させる。当然、生態系には人間も含まれ、そのせいで地図から消えた町がいくつも存在している。
だからこそ、マホちゃんは命を懸けたのだ。
『悲しいのはわかるけど』
ルシエルの声が響く。
呼吸もままならないマホちゃんを抱えたおれに、
『このままだと台無しになるわよ』
そんなキツい言葉をかけてきた。
わかってる。
遠くで聞こえていた騒音が悲鳴に塗り替えられたことも。普通ではあり得ない地響きが鳴り、その度に悲鳴が強く、強く上がることも。
見れば。
そこに三メートルを越える巨体を晒した化け物がいた。
オーク。
化け物は誰とも知らない首を掲げて、下卑た笑みを浮かべていた。




