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窮地Ⅱ

展開が遅く申し訳ありません。

ここから展開を早めていく予定ですので何卒宜しくお願いします。

「ルシエルッ!」


 叫ぶ。


 とにかく、あのでかぶつだけはなんとか…っ!


 全身を晒したスライムは、そのゼリーのような肉体をぷるぷると震わせている。


 だが、それだけだ。


 だからこそ、今、叩かなきゃいけない…っ!


 全身を覆う装甲がおれの意志に応えるように形状を変えていく。スキルの恩恵とルシエルに課せられた地獄の特訓の成果がおれの肉体を正確に運用した。


 跳躍。


 全身に浮遊感を覚え、それと同時に視界が目まぐるしく移り変わっていく。


 回転。


 自分の中に軸をイメージ。そこから回転を加えて遠心力で蹴りを振り抜いた。


 肝心なのは蹴りを叩き込むのではないこと。あくまで振り抜くことで蹴りすらも動作の一部に組み込むこと。


 飛燕とは字が如く。


 飛ぶ燕のように素早く幾度も蹴りを放つッ!


「マホちゃん、逃げろっ!」


 一撃、二撃、三撃。


 蹴った感触がない。


 けれど、その度にスライムは爆ぜ、その体積を減らしていく。正直効いているのかはわからなかったが、少なくとも銃撃よりはいくらかマシな筈だ。


 少なくとも取り込まれることはないのだから。


「ハチッ! しばらく持ちこたえろ!」


 マホちゃんの声。


 見れば、マホちゃんは銃口をこちらへ向け、姿勢をうつ伏せに変えていた。


 わかりやす過ぎるるほどの自己主張。


 なにより、あの意味不明な銃ががしゃんがしゃんと質量保存だったかなんだかの法則を無視してそうな変形を繰り返している。


 その銃口の巨大さに一瞬動きを止めそうになった。


 てか、あれどう考えてもおれも巻き込まれるんじゃ…ッ!


「ば、いくらなんでも、それは…!」


「いくぞっ!」


 話を聞けってっ!


 おれの心の叫びすら意に介さず、マホちゃんはその引き金を引いた。


              ※


「やったかっ?」


 マホちゃんの叫び声で自分が生きていることにきづいた。


 そうだ、おれはマホちゃんに撃たれたんだ。


 怪我はしていない。


 というか、撃たれたことにすら気付かなかった。


 不思議なことに銃声はなかった筈だ。猛烈な光が銃口から放たれたと思った時には尻餅をついていたのだ。周囲にいたはずのスライムは消え、群衆の怒号と悲鳴が未だに響いている。


「ハチっ!」


「あ、ああ。生きてる…じゃない、スライムはいなくなった!」


 優に十メートルは越える巨体が完全に消え去った。


 ふらつく脚を引きずって階下への階段を覗き込む。モンスターの姿どころか迫る気配も感じない。


 ようやくこれで打ち止めらしい。


 思わず膝に手を付いた。


「なんとか、なったぁ」


「あんたほとんどなにもしてないじゃない」


 ルシエルの言葉を無視し、背筋を伸ばして深呼吸。


 未だに群衆は騒ぎ立てているがすぐにおさまるはずだ。あとはダンジョン内のスタッフか誰かがどうにかするはずだ。


 …さっきまで踏みつぶされていた人達の姿ももうない。軽傷だったのか、引きずられたのか。とにかく、後はもう大丈夫だ。


 無駄なことを考えられるほど優秀な頭じゃない。


 あとはすべきことだけを考えればいい。


 と、なれば。


「なんじゃ」


 スカーレットに抱き抱えられたままクソガキはおれを見上げている。


 言いたいことも聞きたいことも山ほどあった。だが、それ以上にすべきことがある。


 おれはクソガキをぶん殴った。


 頭頂部をげんこつで。


「いっだああああっ!」


 クソガキは頭を抱え、おれは拳を押さえた。


 クソガキが、どんだけ石頭なんだこいつ…!


「何するんじゃ、貴様!」


「うるせえ! お前のせいでとんでもねえことになるとこだったんだぞ!」


 涙目で睨んできたクソガキを涙目でにらみ返す。


 クソガキは訳が分からないと言った様子でごちゃごちゃ言い出した。


「なんじゃ? あれか、いきなり始めたことか? まだ食い終わっておらんかったからか? 仕方ないじゃろ。ぶっちゃけぎりぎりまで引き延ばしとったんじゃぞ! 本当ならワシが出てきた時点で開始じゃったが、お前弱っちいし、せめて事情くらいは把握させてやろうと思ったワシ偉くない? 偉いじゃろ!」


「やかましい! 誰もそんなこと言ってんじゃねえ!」


 おれは、クソガキの目を真正面から見つめ、


「お前、あれだけ人が行る場所でおっ始めたんだぞ! 下手すりゃ死人が出てた!」


 泣き叫ぶ人達、罵り合う人達、他人を蹴落としてでも逃げようとした人達。


 あの場所に居たのは普通の人たちだ。冒険者ではなく、ただの観光としてここへきた人達。


 そんな状況でのモンスター襲来。


 モンスターに襲われるだけじゃなく、パニックで人が死んでもおかしくなかった。その意味を理解しているのか問いただしたが、


「死ぬじゃと? 当たり前じゃ。ここはダンジョンでいつ死ぬかもわからぬ場所ではないか」


 と。


 クソガキは心底不思議そうにそう言った。


「ここはそういう場所じゃ。確かにお主等人間が時間をかけて整備し、環境を変えた。じゃが、それはあくまで一時のこと。ここはそんな甘い場所ではない」


「そりゃ、そうだけど」


「なにより知らぬ人間の命より身内の命を大切せい。あの娘、死ぬぞ」


 娘?


 一瞬、何を言っているのかわからなかった。が、身内と言われて思いつく。


 マホちゃん。


 そういえば一度も会話に参加していない、というかこの場に居ないことに今更気付く。さっきまでマホちゃんが居た場所を見て、


「マホちゃんっ!」

 

 叫ぶ。


 マホちゃんはスライムを撃ったときと同じ姿勢のまま固まっていた。いや、ぴくりとも動いていなかったのだ。


 あの馬鹿でかい銃もそのままだ。


 ただ、その銃身から白煙が吹き出し、気のせいでなければマホちゃん自身からもそれが立ち上っているように見えた。


 走る。


 マホちゃんのもとへ向かおうとして、


 階下からこれまで以上に大きな咆哮が轟いた。

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