窮地
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どん、と一際強い衝撃が走った。
それがどこから来たのか、考える前に身体が反応していた。
視線の先には化け物がいる。
体長、というか体積と言えばいいのか。半透明な膜を持った透明な物体。地下への入り口から溢れるように徐々に姿を見せている。
マホちゃんがいくら銃弾を叩き込もうとまるで応えていない。というか、内部に取り込まれた時点で消化されているのか。
スライムだ。
ダンジョンでもっともポピュラーな存在が、その姿をはじめて見せた。
延々と響いていた銃声が消え、マホちゃんがはじめて距離をとった。
「 !」
銃を構えなおしながら、マホちゃんが必死の形相で何かを叫んだ。
耳当てのせいで何を言っているのかわからなかったが、何をいいたいのかはわかってる。
わかってるけど、目の前の光景に現実感が追いついていないせいで何をしたらいいのかがわからない。
クソガキに何を言えば、この状況を変えられる?
できないとこいつは言った。
なら、できることをやらせるしかない。時間がないんだ、せめてここにいる人間を逃がさなくちゃ。
「おい、クソガキ! せめて結界を解け!」
「わかった」
あっさりと。
クソガキはそう言って手を掲げた。
直後、遠くで何かが砕ける音が聞こえた。金属音にも似たそれは、音を遮断する筈の耳当てを越えてきた。
それが合図だと勝手に思ったおれは、思い切り叫んだ。
「逃げろッ!」
空気が変わった。
周囲の視線がおれに向かって集まったのがわかった。さっきまで平然と雑談していた連中が目を丸くしておれを見ている。
おれは続けて叫ぶのではなく、ただ化け物を指さした。
視線が流れていくのがわかる。
そこからの展開はあっという間だった。
驚愕、呆然、逃走。
数十、あるいは数百の人間が走り出す。この状況下で当然の反応。だが、直後におれは後悔した。
結界を張った意味。
そして、マホちゃんがおれに何を言いたかったのかがわかった。
そうだ。
結界を解いちゃいけなかったんだ。
マホちゃんはあの穴を塞がせたかっただけだ。
銃声と衝撃音で音が消えていた空間が悲鳴と怒号に溢れる。他人を踏みつぶしてでも前に進もうとする人間の集団。
何の統率もない集団がパニックになるとどうなるかなんて、それこそ映画だろうがなんだろうがよくわかっていたはずなのに。
マホちゃんの表情が強ばっている。
おそらくは他人よりも優れた目を持つおれは、彼らの行く先に待つ絶望にいち早く気付いた。
ダンジョンの入り口が、いつの間にか大岩によって塞がれていたのだ。
決まっていたこと。
これで、おれたちは逃げることもできないことがわかった。




