担任から失望され、友人から裏切られ。
定期的に更新していきます。
何卒宜しくお願い致します。
スキル。
これはダンジョンが発見された時と同時期に世界中で[発表]された。
発表とは文字通り全世界で声明として布告されたのだ。
ある国は国王が、ある国は女王が、ある国は首相が、ある国は大統領が。
人間の評価の基準としてスキルが誕生した瞬間である。
それから三十年。
おれたちは十代のうちに自分のスキルを知り、その先の進路を選択する事が出来るようになった。
…まぁ、実際のとこスキルってのはそこまで人生を決めるってほど重大なことじゃない。
なぜなら大抵の人間がろくなスキルを持っていないからだ。
暗算、検算、珠算、暗記、記憶力、読解力、応用力。
驚くなかれ、上記の言葉は全てスキルとして発現したクラスメート達の能力なのだ。
もちろん、剣術、拳法、魔法、法力なんてものもあるが、そういうスキルが発現するの
は稀だ。しかも、大抵は部活でやってたり、何年もその類の競技や修行をした結果発現したものだったりする。特に勉強関連のスキルはそれこそまじめに勉強したやつであればみんな持っているものだ。
スキルとは能力を示すが、決して万能じゃない。
ある意味、努力した結果が目に見えるようになっただけとも言える。
だから、それがないからといって卑下する必要はない。
人間は努力次第でいくらでも変わることができるのだから。
「なんてくだらねえ言葉で煙に巻かれるとか、マジねーわ」
落ち込むおれに追い打ちをかけるように対面に座るクソ野郎は言い放った。
見下す視線までくれるもんだから、おれは無言で水の入ったコップを投げつけた。
ファミレスでの出来事である。
店内にはおれらと同じように学校が終わってダベる奴らや参考書なんか開いて勉強してる奴、スマホをいじるおっさんなど多種多様の人間が居る。
その中でも目立つのはおれらみたいに部活が終わった連中だ。どこかしらけた雰囲気が漂った空間は共感するものがある。
そいつらを極力無視しながらおれは対面に座るバカが水浸しで激怒する瞬間に備えた。
が、
「なんだよ、危ねーな」
それも無意味に終わった。
全力で投げつけたはずのコップはバカの手のひらに収まり、周囲に飛び散ったはずの水がコップの中で静かに揺れている。
それを見てため息を吐きたくなった。
これが、才能の差なのだ。
「お前、ほんとずりーな」
「…そういうコメントに困ること言うなよ」
スキル「勇者」。
…まったく世の中は本当に不平等だ。
滅多にお目にかかれないレアスキルを対面のバカは持っている。
「ミキオの奴が来週潜るんだって。ほら、あいつ剣士のスキル持ってるだろ? ミサキちゃんとクミちゃんとパーティーを組むんだって」
「はぁ? あいつハーレムじゃねーか? 刺されて死ぬんじゃね」
「…僻みって否定できないところがなんと言えねえな」
ミキオとミサキちゃんとクミちゃん。
みんなクラスメートだ。それぞれ剣士、魔法使い、武道家のスキルを持っている。
その上、三人とも幼なじみだってんだから世の中は本当に不平等だ。
「とにかく、だ。どうにかして潜り込む方法を考える。いっそのこと夜中に忍び込むってのもいいな」
「すぐ見つかるよ。捕まったらそのまま刑務所行きだよ?」
「んなのわかってるけどよぅ」
「いいか、ハチ」
対面に座るバカは呆れたようにため息を吐いた後、諭すように言う。
「お前はダンジョン諦めろ」
「うるせーよ! 死ね!」
投げつけるコップがなかったので怒鳴り散らす。
だが、目の前のバカは全く動じなかった。
「冗談じゃなくてさ。お前、このまま行っても死ぬだけだぜ?」
「…! それは」
「おれは、まぁたまたま良いスキルが手には入ったからさ。このまま飛び込んでも死なないと思うし、喰っていけるとも思う。だから言うけどさ」
「悪いけど、お前と組む気はもうない」
「……ッ!」
「おれから提案したことだけどさ、やっぱ忘れてくれ」
ばっさりとした物言いに、何も言い返せない。ぶん殴ってやりたい思いもあったが、それ以上に自分自身が惨めだった。
能力が、才能がないと判断された。
それがここまで心にくるとは思わなかった。しかも友人に見限られたのだ。
おれは黙って席を立つ。
財布から小銭を取りだそうとして、「出さなくていい」の一言で気が変わった。
一万円札を叩きつける。
おれは相手の顔も見ず、そのまま店内から出た。
あいつとは、もう話すこともない。