出鼻をくじかれる。
新作です。
定期更新を行っていけるよう頑張りますので、何卒宜しくお願い致します。
ダンジョン。
それは、未知の金銀財宝が眠る夢の場所。
それは、未知の生物が生きる未踏の場所。
それは、全てが謎に包まれた神秘の場所。
正直、一つ目以外はどうでもいい。何事も金があれば大抵どうにかなる。逆に言えば金でどうにもならないこと以外をどうにかするために金が必要なんだ。
だからこそ、ダンジョンは魅力的だ。夢の場所と言ったのは言葉のままで、およそ金を稼ぐという意味ではダンジョン探索は理想的な仕事と言える。
何せ、無から有を生み出すのだから。
大人や教師どもは命の危険がどーとか探索のためにかかる費用がどーとか阿呆みたいなことを言っているが、費用なんてまともに社会人になるだけでも相当かかるはずだ。
高校を卒業して、大学に入って、就職して。
学費だけでも目玉が飛び出るほどの金がかかるし、実際には部活動や予備校通い、在学中の生活費まで考えたらどれだけ馬鹿臭いことか。
初期投資の時点でこうで、社会人になれば給料と維持費と交際費、そして将来に対するリスクヘッジ(貯金と投資)のバランスで生活を考える。
そのくせ生涯賃金は下がり続けてるんだから笑えない。
全うに生きるというのは少ない給料のためにどれだけ切り詰めることが正しいというのか。
そんなわけがないじゃないか。
政府が既に年金だけで老後を暮らすことは不可能と言っている時点で昔ながらの生活設計は破綻したんだ。
企業に入って上司に媚びへつらって、顧客へ頭を下げる。それだけで定年後の生活も保証された時代はとっくに終わったんだ。
これからは自分で働き方を決め、自分で稼ぐ。
おれはそうやって生きていくと決めたんだ。
だから、
「だから、おれは冒険者になります!」
おれは高らかに宣言した。
ふっ、沈黙が心地良いぜ。
周囲から注ぐ熱い視線に応え、おれは堂々と胸を張った。
いよいよだ。
いよいよ、おれの冒険者としての人生がはじまるんだ…!
胸にたぎる熱い思いを抱え、おれは目の前にいる担任のマホちゃんの瞳を見つめた。
「いや、だからだめだって。ハチ、お前は、ダンジョンにはいけないよ」
と。
マホちゃんは呆れたようにため息を吐いて言った。
「いやいやいや、マホ先生。そりゃないでしょ。おれの熱い思い聞いてました? 先生に言われたとおり将来のことも考えた上での宣言だったでしょ?」
「ああ。随分と世間を舐めた男の世迷い言だったな。お前はもう少し人生を勉強した方がいい」
「だからそういうのが向いてないんですよ。ほら、おれってクソ生意気で素行不良っしょ? このままダンジョンに放り込んだ方が世のため人のためじゃないですか?」
「ふむ。毎日学校に通ってさぼりゼロ。当然補導歴もなし。成績は中の下だが、ついこの間までサッカー部で部活動を三年間やり通した男が素行不良というなら私も一教師として生徒への対応を考えなければならんな」
「あー、どうでもいいからおれを冒険者にしてくださいよっ!」
「だめだ。お前には向いていない」
おれの熱い抗議にもマホちゃんは淡々とした態度を崩さない。
いつもこれだ、この人は自分の意見を決して曲げないのだ。
こちらがいくら熱意を見せても筋が通らなければ容赦なく拒絶される。
ましてや、今は生徒の進路相談なのだ。
職員室で向き合っての会話だったため、周囲から好奇の目が向けれている。
数十人の教師とたまたま居合わせた生徒達の視線。
この状況下で堂々と自分の将来を宣言した生徒の心情くらい汲んでくれてもいいだろうに。
無言のにらみ合い。
先に折れたのはマホちゃんだった。
「お前がどれだけ熱意ややる気があっても承認するつもりはない。もちろん専門学校への受験も推薦もなしだ。大人しく公立を受ければいいじゃないか」
「それが嫌だって言ってるんじゃないですか!」
とんだ横暴、職権乱用である。
いくらなんでも生徒の進路を決めるなんて教師の仕事の範疇を越えている。
それをわかっているのかいないのか、マホちゃんはわざとらしくため息を吐いた。
物分かりの悪い子供に対して諭すように言う。
「いいか。人間に向き不向きがある。出来ること出来ないことがあるんだ。中学三年生にすべき話じゃないが、ダンジョンが関わるなら別だ。あれはまともな人間が行くべき場所じゃない」
そんな世間一般論は聞き飽きた。
業界の勉強はしているし、それでなくとも地元出身の冒険者なんて先輩にだって大勢いる。三年も部活でスタメン張ってたんだからその程度の人脈はあるのだ。
なにより近場のダンジョンのことは生態系まで頭に入っているのだからそんじょそこらの奴よりもずっと役に立つ自信がある。
そうマホちゃんに訴え続けたがマホちゃんは決して承諾しなかった。
とどめに、
「お前にはスキルがない。私個人の意見じゃなく世間の意見としてお前はダンジョンに入ることは出来ないんだよ」
そんなことを言ったのだった。
おれこと、坂上八郎。中学三年生。男。身長170センチ、体重65キロ。
スキル判定試験、適正なし。
それが十五歳の夏に下った、残酷すぎる現実だった。