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電子と魔法のカケハシ  作者: ゼニ平
第3章
4/6

ライちゃんの襲撃

 1

 「やーいやーい役立たず! 役立たずのリーシア!」

 放課後、学校から帰る途中、偶然会ったクラスメイトの男子達数人に絡まれた私は、ムスッとした表情を隠しもせず、そんなクラスメイト達を無視して歩いていた。

 こんな事は日常茶飯事だ。一流の魔法使いの家系でありながら、私は全然魔法を使うことができない。今日も魔法学の授業では、私の手から火も水も出なかった。

 火を使える子は料理や暖を取るのに役に立つ。水を使える子は洗濯に役に立つ。傷を癒せる子は病気や怪我の治療ができる。

 だが、私にできるのは、解析魔法だけ。冒険者にでもなって、ダンジョンの探索をする時には役に立つかもしれないが、解析魔法なんて簡単な魔法、わざわざ私が使わなくても大抵の魔法使いは使うことができる。

 要するに、私が解析魔法を使う意味なんて、ほとんど無い。

 そりゃ、役立たずだって言われても仕方ない。

 「やっくたったず! やっくったったず!」

 だからと言って、バカにされて嫌な気持ちにならないわけが無いのだ。

 我慢の限界を迎えた私は、思わず足を止めて叫んでしまった。

 「うるさいですね! あなた達、魔法以外では私に勝てないくせに!!」

 こう見えて、算数も理科も得意なのだ。体育と魔法以外の成績は学校でもトップクラスだったりする。

 「あ?」「なんだと?」「役立たずのくせに!」

 そう言って、私を囲んだクラスメイト達は口々に私を威圧してくる。

 「こりゃ、お仕置きだな」「お仕置きだ!」「お仕置きだべ!」

 クラスメイト達は、呪文を唱えだすと、手の平に火や水や風を作り出してきた。

 さすがの私もこれには顔が青くなる。万事休すかと思われたが、

 「こらぁぁぁ!! あんた達やめなさい!!」

 クラスメイト達の周りに、小さな雷が落ちた。

 私も含めて、全員が声のした方を振り向いた。

 「げぇ!! ライカだ!!」

 「ライちゃん!」

 後ろから走ってきたのは、私の幼馴染で唯一の友達、ライちゃんだった。

 ライちゃんは男子の一人を体当たりでぶっ飛ばすと、私を庇うように立って、手をビリビリさせながら周りに向ける。

 「あたしの友達に手出ししたら、許さないんだから!」

 さすがにクラスで一番の魔法使いであるライちゃんには勝てないからか、男子達は捨て台詞を吐いて逃げて行った。

 「くっそ! 親なしの施設育ちのくせに!」

 「なんですってーーー!?」 

 ライカは雷を逃げる男子達に投げつけていた。

 小さな雷は悪ガキ達の背中に命中して、大きな焦げ目を作っていた。

 「まったく、これだから男子って嫌いなのよ! ……リーちゃん、大丈夫だった?」

 「うん、ありがとう。ライちゃん」

 私はぺこっと頭を下げた。ライちゃんは、綺麗な金髪のツインテールの頭を横に振って、

 「ううん、お礼なんていいのよリーちゃん。だって、友達は助け合わないと、ね?」

 とひまわりの様な眩しい笑顔で言った。

 この笑顔は私にはちょっと眩しすぎる。ちょっぴり卑屈な気持ちになってしまう。

 「でも、私、ライちゃんの事助けられてないよ?」

 と、困った顔をして言ったのだけれど、ライちゃんは全然気にした風では無さそうに、

 「えー? そんなこと無いよ! リーちゃん、解析魔法を使うのすっごく上手じゃない! この前の授業、リーちゃんと同じ班だったおかげで、先生に褒めて貰えたし!」

 この前の授業というは、いくつもの箱の中から、中身を見ずに当たりが入っている箱を見つけるという物だった。私とライちゃんの班は、普段は私が足を引っ張っていて、クラスで一番魔法が得意なライちゃんがいるにも関わらず成績は良くないが、その時だけはダントツで一番だった。

 「だから、リーちゃんの解析魔法だって、きっと何かの役に立つよ! ね?」

 そうニコニコ笑って慰めてくれる。だが、私の気は晴れない。

 「でも、解析魔法なんて、さっきみたいに、魔法で襲われた時には、何の役にも立たないよ?」

 いじけた私の言葉には、さすがのライちゃんも少し困った様子だったが、少し考えると、私の手を握って、

 「ううん、絶対、リーちゃんの力は何かの形で役に立つよ! 魔法なんて、使い方次第だもの!」

 そう言って、手を繋いだままぶんぶん振り回していた。

 気分は晴れなかったけど、ライちゃんの優しい気持ちは伝わってきた。

 「ありがとう、ライちゃん……ずっと友達だよ?」

 「もちろん! ずっと友達だよ! リーちゃん!!」


 2

 話が違う。

 俺はリーシアの手を掴んで後ろから飛んでくる雷撃から走って逃げ回りながらそう叫びたかった。

 ライちゃんってのは「綺麗な金髪で、元気いっぱいですっごく可愛い子」じゃなかったのか?

 あの危険な少女と比較すると金髪ってところしか合ってなかったと思うぞ。

 「昔は、あんなんじゃ、なかったん、ですよ!」

 リーシアは息を切らしながら叫んでいた。

 「ぼっちの私にも優しくて、すっごく可愛い子だったんですよ!」

 それが今じゃクレイジーサイコサンダー少女だ。

 「そんな優しくて可愛い子が、なんで俺達を襲ってきてるんだ!?」

 「私が聞きたいですよ!!」

 叫んだ途端、俺達のすぐ後ろに雷が落ちてきた。正直生きた心地がしない。

 大通りの方へ逃げるか?

 さすがに人通りが多い所だと向こうも魔法を使うのを躊躇するかもしれない……。

 「あはははははははは!! 鬼ごっこ楽しいねぇ!! リーちゃん!!」

 高笑いをしながらライカは建物の上をピョンピョン飛びながら俺達の上から雷を落としてくる。なんて身体能力だ。

 ……向こうの良心には期待しない方がよさそうだな。あの様子だと人が何十人集まっていようが雷を落としてきそうだ。

 「リーシア、あの子の魔法について何でもいい、知ってることを教えてくれ!!」

 今は少しでも情報が欲しい。自称落ちこぼれの魔法使いでも、魔法世界の出身者のリーシアなら何か知ってるかもしれないと思って尋ねてみた。

 リーシアは少し考えて、

 「ライちゃんの魔法、雨雲も無いのにこんな大きな雷を落とすだなんて、たぶん雷属性の超上級魔法です! 消費する魔力の量が半端じゃないので、一日にそんなに大量に撃てないはずなんですよ!」

 つまりどういうことだ?

 「消費MPが滅茶苦茶多いからMP切れしやすいんです!」

 「わかりやすい!」

 そんなゲーム的な理解でいいのかは置いといて、それならば対策は考えられる。

 「じゃあ、時間を稼いで相手の魔力切れを待てばいいんだな?」

 相手の使える魔法の数が限られているなら、それを全部使わせちまえばいい。

 魔法使い、MP切れたらタダの人、だ。魔法を使えない状況まで持っていったら、こちらも戦うなり逃げるなりしやすくなる。

 「ええ、今まで4発撃っていますから、普通の魔法使いならあと1,2発で魔力切れになるはずです」

 「よし、それまで死ぬ気で逃げるぞ」

 「は、はい!」

 リーシアはだいぶ息が上がっていた。インドア派なだけあってそろそろ体力がまずそうだった。

 「た、食べすぎたせいで気持ち悪い……」

 と、思ったらそんな事を言っていた。自業自得じゃねぇか。

 とは言え、こんな所で倒れられても困る。いくらリーシアが小さくても、おぶってあの雷から逃げられる自信は無いぞ。

 「あと1,2発耐えればいいんだろう? もう少しだけ頑張ってくれ」

 「わ、わかってます!」

 バチッ!! と音がした。思わず走りながら後ろを振り返ると、電線に雷が落ちたのか、切れてだらっと垂れ下がっていた。

 ライカはすっとビルの上から飛び降りてきて、切れた電線をじっと見ていた。

 何しているのかはよくわからんが、今のうちに逃げよう。

 そこから約5分ほど全力で走って、追っ手がいないことを確認してようやく一息ついた。

 「はぁ、はぁ、はぁ……もうダメですー……」

 狭い通りのビルの影になっている所でぺたんと尻餅をついて座り込むリーシア。

 俺もさすがに疲れていたので隣に座り込む。

 「しかし……あの子、リーシアを連れ帰るって言ってたけど……一体何が目的なんだ?」

 確かリーシアは魔法使いの組織から追い出されたんじゃなかったのか?

 あの子がその組織の人間だとしたら、何で今さらリーシアが必要なんだ?

 「やっぱり、これ、ですかねぇ……」

 と言ってリーシアは例の鍵を取り出した。

 まぁ、俺もそれぐらいしか思いつくものは無いが。

 「カケハシの人間も欲しがってたんだよな。その鍵。一体何の鍵だっていうんだ?」

 「いっそのこと捨てちゃった方がいいかもしれませんねー」

 あの掛橋弦間の遺品で、重大な価値を持っていそうな物をあっさりと捨てようとするリーシアだった。気持ちはわからんでもないが。

 「その鍵が向こうの目的なら、持っておいた方がいいと思うぞ。いざという時はそれを差し出したら助かるかもしれないしな」

 「たしかにそうですけどねぇー。なんだかこの鍵を手に入れてから、ストーカーさんだったり魔法使いだったり、色々問題に巻き込まれてるので……」

 はぁ。とため息をつくリーシアだった。

 そんな彼女に向かって俺は頭を下げる。

 「悪いな」

 「はい?」

 「俺があんな事を依頼したせいで騒動に巻き込まれちまったようだからな」

 「あ、いえいえいえ」

 彼女はぶんぶん首を横に振った。

 「タクミさんのせいじゃないですよ。依頼を受けることを決めたのは私ですし。そもそもこの鍵が原因かどうかまだ決まってないですし。ね?」

 …………。

 バカでちょっとむかつくロリだと思っていたが、意外と気遣いができるロリだったようだ。

 「誰がバカでむかつくロリですか!?」

 ぷんぷんお怒りの幼女はスルーして、立ち上がる。

 「さて、そろそろ移動するか。もう追ってこない所を見ると、あの子は魔力切れになったみたいだけど、別の追っ手が来ないとも限らないしな」

 そう言った途端。

 凄まじい轟音が鳴り響いて横の道路から車が吹っ飛んできた。

 幸い俺たちに当たることは無かったが、車が飛んでいった方を向いて呆然としていると。

 「あ、いたいたぁ~。リーちゃん見っけ」

 反対側から満面の不気味な笑みを浮かべたライカが現れたのだった。


 3

 「話がちがーーう!!」

 再び後ろから飛んでくる雷を避けながら、今度は全力で叫んでいた。

 「あの子魔力切れなんじゃなかったのか!?」

 「私に言われてもわかりませんよ!!」

 ライカと再会した途端、俺達はまたしても背後に落ちる雷から、全力で走って逃げ出すことになった。

 「魔力って、あんな短時間で回復するのか?」

 「しません! 普通は睡眠を取ったりして十分休まないと回復しないんです!」

 そこもゲームっぽいんだな。なら、ゲームで他のMP回復方法はと言うと……。

 「MP回復アイテムでも使ったのか?」

 「何言ってるんですかタクミさん。そんなものあるわけないじゃないですか。ゲームと現実をごっちゃにしちゃいけませんよ」

 途端に馬鹿にしたような顔でたしなめてきた。非常時で無ければぶん殴ってたぞ。

 ともかく、この5分ちょっとの間で魔力が回復してしまったのには何か理由があるはずだ。が、それを考えようとした瞬間。

 「ねぇリーちゃん、あたしそろそろめんどくさくなってきたから、もう終わりにしなーい?」

 今度は俺たちの前の電線に雷が落とされた。

 垂れて来た電線が地面に触れてバチッと音を立てる。危なくて近寄れない。このままだと横にあったラーメン屋が営業できなさそうだな。かわいそうに。

 なんて悠長な事を考えている場合じゃなかった。慌てて足を止めると、ライカが俺たちの前に回り込んできた。

 「ライちゃん、一体何が目的なんですか!?」

 リーシアは叫びながら尋ねる。

 「えー? あたし知らなーい。ただ、先輩にリーちゃんを連れて来いって言われただけだしぃ?」

 先輩? 一体何者なんだそいつは。

 「リーちゃんみたいな、役立たず、何に使うのか知らないけどねぇ」

 「……!!」

 その言葉を聞いてびくっと震えるリーシア。

 「や、役立たずって……」

 ライカはこっちを見もしないで、垂れ下がった電線を掴んで遊んでいた。

 「えーだって役立たずでしょ? 昔からそう。魔法もロクに使えなくて、授業でも、遊びでもみんなの足を引っ張ってばかりだったじゃない」

 「でも、ライちゃんは遊んでくれてたじゃない!! 私達、ずっと友達だって言ってたのに……!!」

 リーシアの声は今にも泣きそうだった。だがライカは無情にも、

 「先生に言われたから遊んであげてただけよ? そんな事も分かってなかったの? 私は友達だなんて思ったことなかったよ? おまけにあたし達に紛れてこっちの世界に来て、あげく捨てられて……本当にどうしようもないわよねぇ」

 リーシアは絶望したようにガタガタと震えていた。

 「リーちゃん、こっちで解析魔法でハッキングしてるらしいけど……それが、戦いの役に立つの?」

 ようやくこちらを向いたと思ったら、ビュンッと音がしてこちらに電撃を飛ばしてきた。当たりはしなかったが、思わず身を竦める。

 「やっぱり、役立たずのリーちゃんなんか、本当はいらないんじゃないかな? たぶんそうだよね? じゃあ、ここで殺しておいた方がいいんじゃないかな?」

 ライカは一人でうんうん頷くと、

 「じゃあ、そろそろお終いにしようか? リーちゃん」

 そう言って、両手をこちらに向けて、雷を飛ばそうとしてきた。その時。

 「どりゃああああああああああああ!!!」

 俺は、隣のラーメン屋の横に積まれていた小麦粉の袋に竹刀袋で一撃をぶち込んだ。

 ラーメン屋さん、悪い。今度食べに来るから許してくれ。

 俺も含め辺りが一面小麦粉だらけになる。

 「んー……? あなた何やってるの?」

 ライカはさっきから俺のことはほとんど視界に入ってなかったようだが、ここに来てようやくこっちを見た。

 彼女もちょっと小麦粉がかかって白くなっていた。

 俺はにやりと不適に笑って、

 「おっと、ここで雷魔法は使わない方がいいぜ。周りが小麦粉だらけだろ?」

 「……? だから?」

 ライカは首をほとんど90度傾ける。ちょっと怖い。

 「粉塵爆発って言ってな。小麦粉なんかが辺りに大量にある時にちょっとでも火花が散ったりしたら大爆発が起きるんだ」

 「うーん? なんか先輩に聞いたことあるような気がする……?」

 ライカはうんうん唸って首を右に左にと傾げまくっていた。

 今のうちだ。

 「逃げるぞ。リーシア!!」

 まだ放心状態のリーシアの手を掴んで俺はまたしても全力で逃げ去るのだった。

 

 4

 しばららく夢中で走っていたが、突然リーシアが話しかけてきた。

 「あの、タクミさん」

 「さっきの話か? あんなの嘘に決まってんだろ。あんな開けた場所で、あの程度の小麦粉で爆発が起きてたらラーメン屋やパン屋は毎日爆発しとるわ」

 粉塵爆発は密閉された空間で、目の前が見えないレベルで粉塵が空気中に舞っていなければ起きないらしいからな。あれで爆発が起きるのはラノベかアニメだけだ。

 「ああ、いえその話ではなくて」

 リーシアが気になっていたのはその話では無かったらしい。

 彼女は言いづらそうに、だがはっきりと、

 「タクミさん、私を置いて逃げてください」

 何言ってんだこのロリ。

 思わずを足を止める。

 「ライちゃん……敵の狙いは、私一人です。タクミさんが襲われる理由はありません。だから、私のことは放って置いて、逃げてください」

 確かにリーシアの言うことは間違っていない。

 俺がリーシアに着いて行く理由は……無い。だが。

 「一人で、どうする気なんだ?」

 「……ライちゃんと一緒に行きます」

 俺は呆れてため息をつく。

 「あいつ、めんどくさいから殺すとか言ってたぞ?」

 「……あんな事言われても、やっぱり友達ですから」

 役立たず。友達だと思ったことない。だったか。

 「そんな事を言う奴が、友達なわけないだろ」

 俺はだんだん腹が立ってきた。

 「でも!! それでも!!」

 リーシアは涙目になってこちらに向かって叫ぶ。

 「……私にとっては、たった一人の友達なんです……」

 そう言うとクルッと反対の方を向いてうずくまってしまった。

 俺は何と声をかけるか悩んでいた。

 俺とリーシアは別に何の関係でも無い。

 出会ってまだ3日で、友達と呼べるような関係でも無い。

 強いて言うなら、依頼主と依頼を請け負った人間。それだけの関係だ。

 俺がこれ以上この子に関わる理由は無いのだ。

 だが、ここで女の子を一人で置いて行けるほど、冷たい人間でも無いつもりだ。

 悩んでいると、ふいに携帯が鳴った。

 あわてて携帯を覗くと、ここ数日音信普通状態だった姉からのメッセージが来ていた。果たしてそこには。

 『早く逃げなさい。邪魔になるならその子を殺しなさい』

 そう、書かれていた。


 『俺はマオ姉を信じてるから、マオ姉の言うことなら何でもしますよ』

 『じゃあ、人を殺せと言われたら殺すのか?』

 『……マオ姉がそうしろと言うならそれ相応の理由があると思うんで、殺しますよ』

 今朝、夜空先輩とした会話がフラッシュバックした。

 俺は姉さんを信頼している。

 だから、姉さんの言うことなら、俺は何でもする。

 『これからは、私があんたの姉さんになってあげるわ! だから、姉の言うことには絶対服従だからね!』

 中学の時、マオ姉が、俺の姉さんになった時の事を思い出した。

 そうだ、俺は姉さんの言うことは何でも聞いてあげるんだ。

 なら、迷う必要は無いな。

 俺は再びリーシアの方を向く。まだ震えてうずくまっていた。

 竹刀袋から竹刀……ではない。真剣を取り出した。

 それをリーシアの方に向ける。

 元々、何の関係も無い少女だ。

 この子が生きていようが、死んでいようが俺には関係無い。

 姉さんが言うなら、姉さんが言うなら、姉さんが言うなら……。

 『それは信頼とは違う物だと思うんだがな』

 夜空先輩の言葉ごと斬り捨てるように、俺はリーシアに向けて、刀を振り下ろした。

 

 5

 ゴオォォン!!

 「いたぁ!? いとぉ!?」

 振り下ろした俺の刀の一撃をモロに食らって、リーシアは頭を抱えて地面をごろごろ転がっていた。

 なかなか滑稽な光景だな。

 「な、何するんですか!? 死ぬかと思ったじゃないですか!?」

 「安心しろ。峰打ちだ」

 「……いや何で峰打ちしてきたかって聞いてるんですけど!?」

 寝転がりながら涙目で俺に抗議してくるリーシア。

 「あんまりバカなことを言ってくるから、叩いたらバカが治るかと思ったんだが、治ったか?」

 昔から、バカと壊れた機械は叩いて治すに限るって言うからな。

 「な、何がバカですか!! 私は……!!」

 「あ、夜空先輩? まだ学校にいます?」

 「聞いてない!?」

 愕然としているバカは放って置いて、俺は夜空先輩に電話をかけていた。

 先輩はすぐに電話に出てくれた。

 「まだいるが、何か用か?」

 よかった。まだいてくれたか。

 「学校に、どれくらい人が残っているかわかりますか?」

 「日曜のこの時間だからな。もう私と守衛さんぐらいしか残っていないと思うぞ」

 時刻は既に夕方を過ぎていて、そろそろ夜になるかといった所だった。

 「じゃあ夜空先輩、すみませんが今すぐダッシュで帰るか、もしくはしばらく道場から出ないか、の、どっちかでお願いします」

 下手なタイミングで出てこられたら、夜空先輩まで危険が及んでしまうかもしれないからな。もし彼女に何かあったら、マオ姉に何言われるかわからない。

 「やっかい事か? 近くで雷が異常に落ちていると聞いたが」

 妙な頼みごとなはずだが、この人は相変わらず察しが良くて助かる。

 「ええ、まぁ。それも無関係ではないです」

 「一人で大丈夫か?」

 そうだな、一人だと無理かもしれない。だが。

 「大丈夫です。頼りになる相棒がいるんで」

 「そうか。わかった」

 素っ気無い言葉だったが、夜空先輩は最後に笑っていたような気がした。

 まったく、マオ姉と同じぐらい、あの人には敵う気がしない。

 電話を切ると、まだ頭を押さえてうずくまっているリーシアに向き直る。

 「相棒、行くぞ」

 驚いた顔をしたリーシアは、何を言うか迷っているようだったが、

 「あの、私役立たずですし……ライちゃんの言う通り、ハッキングなんて戦いで役に立たないと思うんですけど……」

 後半はほとんど消えるような声だった。

 いつもとは違う意味でうざい態度だな。

 ここははっきり言ってやった方が良さそうだ。

 「役立たず? 何言ってんだ。お前の力が必要だ。手伝ってくれ」


 6

 「はい、そうなんですよぉ。なんか、小麦粉が爆発するって聞いたんですけどぉ。あ、やっぱり爆発しないんですね。そっかぁ。よかったぁ」

 小麦粉まみれのライカは電話を切ると、辺りをキョロキョロ見渡した。

 いつの間にかリーシア達がいなくなっているのには気付いていたが、特に慌ててはいなかった。

 「えーとぉ、あっちかぁ」

 ビュンッと音を立てて一瞬でビルの屋根の上に跳躍する。

 ライカは同時にこちらの世界に来た、いわゆる同期の中でも、特に優秀な魔法使いだった。

 一番得意な魔法は雷属性の魔法だが、簡単な跳躍や追跡などの魔法も使うことができる。

 特に、今回は先輩がリーシアにマーカーを着けているため追跡は簡単だった

 もっとも、リーシアは魔法使いでありながらそんなことにすら気付いていなかったが。

 あの子はこの世界に来るべきでは無かった、と今でも思っていた。

 ライカは、向こうの世界では戦災孤児で、養護施設で育った。

 ライカだけでは無い。同時にこちらの世界に渡ってきた同期達も、同じ施設出身だった。

 あの施設は、表向きは孤児を集めて育てていたが、実際は優秀な魔法使いの子供達を集めてこちらの世界に売り飛ばしていたのだった。

 別にそれ自体は恨んでなどいなかった。

 どうせ、向こうの世界でも帰りを待つ者などいないのだ。

 こちらの世界では食べる物にも着る物にも困らないし、住む家も綺麗だった。

 実験だと言って薬を飲まされたり、頭に電極を繋げて何やら実験されるのも、別に大した苦痛では無かった。

 ただ、あの子は……リーシアは自分達とは違う。

 優秀な魔法使いなどでは無かったし、そもそも同じ施設の子供では無かった。

 自分達と違って、彼女には帰る家があったのだ。

 だが、たまたまあの場所に居合わせたせいでこちらの世界に来てしまった。

 あたしがいたから、あの子は巻き込まれてしまった。

 あの子を、元の世界に返してあげたい。

 ずっとそう思っていたはずなのに……。

 「リーちゃぁぁぁん!!! すぐに、殺してあげるからねぇ!!!」

 ライカの心は、本人の気付かない内に壊れかけていた。


 7

 俺達は学校のグラウンドでライカを待ち構えていた。

 日も落ちかけていて、照明が校庭を照らしていた。

 「来たぞ!」

 「はい!」

 刀を構える俺と、その後ろに立つリーシアの前に、土ぼこりを立ててライカは着地した。

 「見つけたぁ!! もう、リーちゃん逃げちゃだめじゃなぁい」

 ケタケタ笑ってるが、相変わらず笑顔が怖い。

 身奇麗にして、普通に笑ってくれたら可愛い女の子になるだろうに、勿体無い。

 「ライちゃん。鬼ごっこはもうお終いだよ」

 俺の後ろから、リーシアは勇ましく言う。

 「ふうん?」

 ライカはキョロキョロして辺りを見回した。

 「ははは、ここ、学校、だよね?」

 そう。ここは俺の通う学校、庭園高校のグラウンドのど真ん中だ。

 「なんでこんな所に逃げてきたのかなぁ? かなかな?」

 「わかってるだろ?」

 ここで俺が口を挟む。

 「お前に魔力を回復されないためだ」

 「ふぅん。へぇん。ほぉん」

 俺のことを馬鹿にしてるかのように、ニタニタ笑うライカ。

 「お前、電線から電気を吸収して魔力を回復してたんだろう?」

 ライカは俺達との追いかけっこの途中、2度電線を切っていた。

 その後、しばらく切れた電線に手を当てていた。

 普通そんなことをしたら感電死一直線だが、彼女は平気な顔をしていて、その後はまた雷魔法を使っていた。

 あれが充電……つまり魔力回復をしていたとしたら説明がつく。

 電線なんで今の時代、全国どこにでもある。普通の魔法使いは魔力切れを気にして、ある程度は力を温存しながら戦わなければならないが、この子はこちらの世界ではそんなことをまったく気にせず、強力な魔法をバンバン使えるわけだ。

 リーシアと同じく、この子もこちらの世界の方がより有効に魔法を使える魔法使いということなのだ。

 「ははは、すごいねぇ君!! おめでとう!! 大正解だよぉ!!」

 ぱちぱちと拍手を送ってきた。別に嬉しくもないが、とりあえず推理は当たっていたようで何よりだ。

 「……で、それがどうしたの?」

 急に冷めた声を出すライカ。テンションの温度差激しいな。

 「だから、電線が無い学校のグラウンドなら、お前はもう充電できないわけだろ?」

 「ははは、ははは、はははははは!!!」

 渇いた笑いをあげていた。

 「ここに来るまでに、あたしはフル充電してきたんだよ? もう充電なんかしなくても、さっきまでとは違って、本気であたしがあなた達を殺そうとしたら、あなた達なんか一瞬で真っ黒焦げだよ?」

 バカにしたように笑うライカだったが、

 「うだうだ言ってないで、とっとと来いよ」

 俺はあえて挑発する。

 「お前は、魔法使いでも無い俺と、ロクに魔法を使えない魔法使いのリーシアに、負けるんだよ」

 「……ははははははははははははははは!!!!!」

 ライカは全力で手を叩いて大笑いする。

 そして。

 「殺す!!!!」

 全力の雷を俺達に向けて飛ばしてきた。

 垂直に落ちる雷ではなく、正面に飛んでくる雷だ。マンガやアニメで見た事のある、ビームとかレールガンに近い物みたいだな。

 俺はその雷を正面で構えた刀で受け止めた。

 「ぐあっ!」

 凄まじいエネルギーに吹っ飛ばされそうになりながら、俺は後ろを支えてくれているリーシアに声をかけた。

 「絶対俺の後ろから離れるなよ!! リーシア!!」

 「はい!!」

 雷の直撃の恐怖もあるだろうに、リーシアは懸命に俺を支えてくれている。

 よっしゃ、気合十分だ。

 「でりゃぁ!!」

 気合で刀を振り、雷のエネルギーを弾き飛ばす。なんとか、受けきることができた。ちょっと腕がビリビリするが。

 「……どういうこと?」

 さすがにライカは驚きを隠せないようだった。

 「なんでそんなちっぽけな刀で、あたしの雷魔法を受け取ることができるの?」

 「不可能じゃないだろ? 昔、雷を刀で切ったことがあるっていう戦国武将がいたそうだぞ?」

 嘘か本当かはわからないが、その武将はそのせいで下半身不随になったらしい。

 「それに、お前の魔法なんて、本物の雷に比べたら大したことないみたいだしな?」

 「!!!」

 俺の挑発に顔を真っ赤にしたライカは上に大きく跳躍して、腕を振り下ろして雷を上から下へと落としてくる。

 ドカッ!! と大きな音がして後ろのリーシアがビクッと震えるのがわかったが、雷は俺達の右5mほどの場所に落ちて、地面が黒く焦げただけだった。

 動揺しているのか、狙いがめちゃくちゃだ。

 「どうした? よく狙った方がいいぞ?」

 「クソッ!! クソッ!! クソッーー!!」

 今度はしっかり俺達の方に向かって、連続で3発も雷撃を飛ばしてきた。

 「でりゃああああ!!!」

 だが、1発目に比べると、明らかに弱くなっている。

 俺は全力で振りかぶって、全てを一撃で叩き斬って見せた。

 「なんで……どうしてそんなことができるの!?」

 「剣道やってるからかな」

 「!?!?」

 ますます混乱するライカだった。

 まぁ剣道をやってるだけでこんな芸当ができるのなら、世の中には雷切りだらけになってしまうだろうが。

 「ライちゃん……タクミさんの刀は、ミスリルでコーティングされてるんだよ」

 リーシアがここでネタ晴らしをする。そう、ミスリルだ。

 「ミスリル!? どうして、そんな物がこの世界に!?」

 「私も解析して驚いたけど……間違いないよ。これなら、確かに剣術で魔法を弾くことができてもおかしくない」

 この刀は、以前マオ姉から貰った物だ。

 出所は聞かなかったけど、リーシア達の世界から持ってきたミスリル鉱石をこっちの世界で加工した物なんだろう。

 「そろそろ魔力切れじゃないか?」

 今までの充電の間隔から考えると、もう十分に魔法は使わせたはずだ。

 「もう充電できないんだろう? そろそろ諦めたらどうだ?」

 「はは、ははははは!!」

 ライカは高笑いをする。

 「あたしが、本当に、ここなら充電できないと思った!?」

 そう言って、ライカは大きく後ろに跳躍する。

 数秒空を舞い、着地した地点は。

 「照明!!」

 グラウンドには、辺りが暗くなっても、運動部が練習できるように巨大な照明が設置されている。

 ライカはそのうちの一つ、ここから約10mほど離れた位置にあった照明の電球部分に飛び乗った。

 「別に電線じゃなくても、こんな大きな電力を使う物なら、直接充電できるのよ!! あははははは!! 当てが外れちゃったね!?」

 そう言って、ライカは照明に手を当てようとする。

 当てが外れた? 冗談はよしてくれ。

 「リーシア!! 今だ!!」

 「わかりました!!」

 リーシアは待ってましたと言わんばかりに元気よく返事をすると、携帯端末を懐から出し、お得意の解析魔法を使う。

 バンッ

 そんな音がして、辺りは突然完全な暗闇に包まれた。

 「え? ええ? えええ?」

 姿は見えないが、声からするにライカは何が起きたかわからないようだった。

 さすがのライカにも、送電所をハッキングして、町全体を停電させたなんて、すぐにはわからないだろう。

 俺達は別に電線だけからしか充電できないだなんて本気で思ってたわけじゃない。

 ただ、町全体から電気を奪ってしまえば、すぐには充電できないだろうと考えたのだ。

 リーシアの能力あってこその作戦だ。

 そして俺は。刀を鞘にしまって。

 「せやああああああああああ!!!」

 思いっきり振りかぶって、照明の場所めがけて刀を投擲した。

 辺りは暗闇だが、ライカが照明の位置に跳躍した時から、ずっと狙いを定めていたので、問題なく投げることができた。

 「え? ……うわああああ!?」

 ゴンッ!! と大きな音がした。続いてドサッという音も聞こえてきた。外れるのも覚悟していたが、あれは間違いなく人に当たった音だ。そして、その後の音は照明からライカが落ちた音だろう。

 そのまま俺はライカの元へ全力で走る。そろそろ目が慣れてきた。

 暗闇の中で刀の投擲をモロに食らい、その後落下したものの、ふらつきながら立ち上がっていたライカに

 「でりゃあああああーーー!!」

 走るスピードを全て拳に乗せて、全力で顔面をぶん殴ってやった。

 俺の渾身の男女平等ストレートパンチだ。

 刀の直撃と、落下の衝撃と、俺の拳の3つを食らったライカは、目を回してドサッと音を立てて倒れた。

 「あー……いてて」

 慣れないことはするもんじゃないな。全力で殴ったせいか、こっちの拳も痛い。

 っていうか今日は走り回ったせいでもうクタクタだ。

 フッと力が抜けるのを感じると、俺は大の字になって、空を見上げながらグラウンドに倒れてしまったのだった。

 あー町中の電気が消えてるから、星が物凄く良く見える。

 「タクミさん!! 大丈夫ですか!?」

 携帯端末を明かり代わりにして、リーシアが俺の元に寄って来て顔を覗き込んでくる。

 「よう……ご苦労さん。助かったよ」

 俺は相棒に労いの言葉をかける。

 俺一人だったら、ライカの充電を止める方法は無かった。

 リーシアがいなければ、勝つことはできなかっただろう。

 役立たずなんてとんでもない。そう、言ってやろうと思ったのだが。

 「あの、タクミさん。私どうしても、あなたに言いたいことがあるんです」

 リーシアは少し涙を目に浮かべながら真剣な顔をして俺のことを見つめてきた。

 なんだ? どうした?

 俺は上体を起こして居住まいを正した。

 リーシアは少し言いづらそうにしていたが、意を決したように、

 「タクミさん、また刀を投げてましたけど、刀は斬る物であって投げる物じゃないんですよ? 剣道なんかやめて槍投げでもやった方がいいんじゃないですか?」

 俺は黙って、座ったままリーシアに足払いをかけてやった。

 「ふんぎゃっ!! 何するんですか!!」

 散々走らされた後、ライカの攻撃を受ける時に俺の体をずっと支えていたため、こいつももうすでに足がガタガタだったのだろう。

 何の抵抗もなく無様にすっころんだリーシアだった。

 ざまあみやがれ。

 

 8

 「ライちゃん……」

 リーシアは起き上がってライカの元に駆け寄って行った。

 「リーちゃん……」

 ライカは意識が朦朧としているようだった。

 「ごめんね、リーちゃん……」

 さっきまでとはだいぶ雰囲気が違う。壊れかけの人形のようだった彼女が、本来の優しい少女に戻ったような、そんな印象を受けた。

 「あたし、あなたにずっと謝りたかったの……」

 倒れる少女の目から涙かこぼれた。

 「あたしがいなければ、リーちゃんはこの世界に来ることはなかった……あなたには帰れる場所があったのに……あなたは、この世界に来るべきでは無かったのよ……ごめんね……」

 力無いその言葉を聞いて、リーシアはぶんぶん首を横に降った。

 「私、元の世界では誰からも必要とされてませんでした。ずっと、役立たずだって、思ってました。でも、私の力、この世界では誰かの役に立つって教えてもらったんです」

  リーシアはニコっと笑って言った。

 「私、この世界も、悪くないと思っていますよ」

 その言葉を聞いて、ライカは嬉しそうに微笑みながら目を閉じた。

 俺は何と声をかけていいか迷ったが、

 「よかったな」

 と言ってポンとリーシアの頭の上に手を置いた。

 「ええ、やっぱりライちゃんは、私の友達でした」

 彼女はそう言って嬉しそうに笑っていた。


 9

 バラバラバラ……

 と空から音がしたと思ったら、ちょうど俺達の上に一機のヘリが飛んできた。

 「タクミーーー!! 生きてるーーー!?」

 と、拡声器で俺のことを呼ぶ声が聞こえてきた。

 こ、この声は。えらく聞き覚えがあって、通りのいい素敵な声は。

 「せやっ」

 ヘリからロープが落ちてきたと思ったら、そこからラペリングで女の人が降りてきた。いや、危ないから着陸するの待てよ。

 「ただいま! タクミ、元気だった?」

 「いや、マオ姉何やってんの」

 こんな無茶をする人物は他にいない。茶髪のボブカットで、身長はだいたい165dm。お嬢様のような見た目とは裏腹に破天荒な性格。

 掛橋真桜。俺の姉だった。

 「いや~アメリカなんて行くもんじゃないわねー。ハンバーガーとホットドックはおいしいんだけど、やっぱり日本食が恋しいわ。はやく白米と味噌汁が食べたい気分よ。あ、これお土産ね」

 そう言って渡してきたのはずっしりと重い自由の女神の置物だった。いらんわ。

 マオ姉がくれるものはだいたいこういう意味のわからない物ばかりだからな。

 国内旅行した時も、ペナントとか提灯とか木刀とか、竜のキーホルダーとか、ともかく色んな物を買ってきて俺の部屋に置いていくせいで俺の部屋はカオスなことになっている。

 「あ、あなたがリーシアちゃんね! ようやく会えたわね!!」

 マオ姉は俺の後ろに隠れていたリーシアを見つけて、思いっきりハグした後、手を握ってぶんぶん振っていた。リーシアは目を白黒させていた。

 ……あれ? そういやマオ姉はリーシアを殺すようにメッセージを送ってきたんだった。まずい。

 「あ、えっとその、姉さん、実は……」

 どう誤魔化した物かと俺が悩んでいると。

 「あ、あの、いいんですタクミさん。大丈夫ですから」

 と俺以上に焦った口調でそう言うリーシア。

 えっ? 大丈夫? 何が?

 「そうねー。リーシアちゃんには後でお話があるとして」

 意味ありげな顔をして姉さんはリーシアと目配せする。

 本当に大丈夫か?

 俺がハラハラしていると、姉さんは俺なんかにはお構い無しで、傍で倒れているライカの元に歩み寄る。しばらく脈を測ったりと身体検査をしていたが、

 「この子、ひとまずヘリまで運ぶわよ」

 マオ姉さんは上に向かって手を振って合図をすると、ヘリは地面に向かって

ゆっくりと降りてきていた。

 この子、あれに乗せるのか。しかし。

 「その子、電気を吸い取るんだけどヘリに乗せて大丈夫か?」

 「ああ、大丈夫。対策はしてるわ」

 と自信満々に言うマオ姉。まぁこの人がそう言うんだから大丈夫だろう。

 俺達がヘリに乗り込もうとした時、そこに暗闇の中から新たな人物が音も無く現れた。

 「タクミ、もう終わったか?」

 後ろから声がしたと思ったら、夜空先輩だった。胴着から制服に着替えていて、鞄と竹刀袋を持っている。どうやら俺の言った通り、事が終わるまでずっと道場にいたようだった。

 「あ、夜空。ちょうどいいわ。手伝ってちょうだい」

 「わかった」

 そう言って夜空先輩はライカを肩にかついでぱっぱと運び込んでしまった。

 この二人は幼馴染だけあって、本当に息ぴったりだ。

 「ほら、二人とも乗って乗って!」

 マオ姉もヘリに乗り込んで、俺達を急かしてきた。

 しかし、本当にこのままリーシアを連れて行って大丈夫なのか?

 俺が悩んでると。

 「タクミさん、私なら大丈夫ですよ」

 そう言って俺の手を掴んで引っ張っていく。

 ……まぁ、なるようになるか。

 いざという時は、なんとしても逃がしてやらないといけないな。

 そう決意を固めて俺達はヘリに乗り込み、闇夜に飛び立つのだった。

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