魔法少女リーシア
1
それから3日ほど経って日曜日になった。俺はいつも通り朝早くから家族を起こさないように、できるだけ静かに用意をし、制服を着て鞄と竹刀袋を持って家を出て学校に向かった。
日曜日なのにわざわざ学校へ行くのには訳がある。俺は剣道部に所属しているが、放課後の練習にはなかなか参加できていない。理由は姉絡みで、普段から3日前と似たようなことを色々やっているからだ。
おかげで半分幽霊部員状態で、試合なんかにもほとんど出れていないが、先生に無理を言って早朝に道場を開けて貰い、自主練習をしているのだ。
眠い目を擦りながら早朝の冷たい空気を味わいつつ20分ほど歩き、学校に到着して守衛さんの前を通り裏門から構内に入り、グラウンドの隅のほうにある剣道場に辿り着くと、俺より先に一人で素振りをしている人がいた。
「おはようございます、星川先輩」
先輩はこちらに気付くと素振りをやめて振り返った。
「おはよう、タクミ。夜空でいいといつも言っているだろうに」
星川夜空先輩。剣道部の部長であり、マオ姉の一番の親友でもある。俺とも中学の時からの付き合いだ。長い黒髪をポニーテールにしていて、スレンダーな体型で美人だが、立ち振る舞いや言動がとことなく侍っぽい。今日みたいに剣道着を着ていると、尚更そう見える。
そこがいいと評判で校内では1、2位を争う人気だ。争っているもう一人はもちろん、生徒会長で文武両道、おまけに美人の俺のマオ姉だが。
「そういや夜空先輩、最近マオ姉から連絡ありませんでしたか? 3日前に連絡してから返信来てないんですよね」
3日前というのはもちろんリーシアの件の報告をした後のことだ。
先輩は首を少しかしげると、
「マオなら仕事で海外に行くと言っていたぞ。しばらくは戻らないんじゃないか?」
それを聞いて俺はガックリと肩を落とした。
「マジかぁ……マオ姉、次の休日は映画デートの約束だったのに忘れてるのかなぁ……」
マオ姉が見たがっていた恋愛映画を見に行く予定だったのだが。正直俺はあんまり恋愛映画には興味は無いが、マオ姉とデートできるならどこにだって行く。
へこんでいる俺を夜空先輩は何とも言えない顔で見ていた。
「長い付き合いだが、相変わらずお前達の関係性は良くわからないな……」
関係性も何も、ただの姉弟である。別に血は繋がってないし当然家族でも無い。ただ、お互いに姉弟だと思っているだけである。俺達はそれで構わないのだ。
ほら、三国志にも桃園の誓いという、有名な英傑3人が義兄弟になる話があるだろう。あんな感じだ。
「正直見ていて心配になるがな……。今のお前は、マオに言われたら何でもするんじゃないかとな」
夜空先輩は難しい顔をしてそう言ったが、俺はあっさりと答えた。
「俺はマオ姉を信じてるから、マオ姉の言うことなら何でもしますよ」
まぁ、そのおかげでマオ姉から無茶なお願いを大量にされることになっているのだが。
「じゃあ、人を殺せと言われたら殺すのか?」
まるで子供が、「誰々が殺せって言ったら殺すの?」と冗談で言うような内容だったが、夜空先輩は真面目な表情をしていたので、さすがに俺も真剣に考えて答えた。
「……マオ姉がそうしろと言うなら、それ相応の理由があると思うんで……きっと殺しますよ」
俺はマオ姉を信頼している。マオ姉なら間違ったことを言わないだろう。
「それは信頼とは違う物だと思うんだがな」
先輩は少し呆れたような顔をしていたが、俺にはよくわからなかった。
なんとなく空気が重くなってしまったので、俺は話題を変えた。
「それはそうと夜空先輩、昨日の大会はどうだったんですか?」
昨日は確か大会があったはずだ。例によって俺は色々やっていたので応援に行けなかったが。
夜空先輩は何とも言えない表情で、
「2位だった」
と簡潔に結果だけ伝えてきた。なんだかあんまり空気が軽くならなかったぞ。
「それは……お疲れ様でした」
長い付き合いの俺は素直に「おめでとう」とは言いにくい。夜空先輩の実力は本物で、全国でも指折りの実力者だ。ただ、大きな大会で1位を取ったことは一度も無い。
そんな俺の気持ちを察したのか、
「気を使わなくていい。私が最後まで勝てないのは、私の実力不足だ」
と少し笑って言った。
実力不足、と本人は言うが俺はこの人の強さをよく知っている。勝てなくて本気で悔しい思いをしている事も知っているので、俺はなんと言っていいかわからなかった。
その後、昼近くまで二人で練習していたが、ふいに俺の携帯が鳴った。マオ姉からの連絡かと思って急いで取ったが、聞こえてきたのは意外な声だった。
「もしもーしタクミさんですよね?」
3日振りに聞いたが相変わらず能天気な声だ。
「……リーシア。俺、携帯番号教えたっけ?」
世界最強のハッカー、ホワイトアリスこと、リーシアだった。
「電話番号って色々なとこに載ってるもんですよねー。学校とか病院とか役所とかピザ屋さんとか」
俺の連絡先を知るためにわざわざハッキングしたらしい。とんでもない奴だ。
「それで、何の用なんだ?」
「そうそう、タクミさんにちょっとお願いがあるのでこれからすぐ店に来てくれませんか?」
これからすぐって。俺に予定があったらどうするんだ。
「今日は学校で剣道の練習する以外に、特に予定は無いはずですよね?」
と思ったら俺の予定まで把握されていた。やれやれ、仕方ない。
「……わかったよ。今から行くよ」
「待ってまーす♪」
まったく面倒な奴と知り合いになってしまったものだと思う。思わずため息が出る。
「マオ……ではなさそうだったな」
「ええ……姉さんよりやっかいな女の子に目をつけられてしまったようで」
先輩はかわいらしく首をかしげて、
「そんな人間が実在するのか?」
と真顔で答えたのだった。
2
「どうもストーカーされてるみたいなんですよねぇ。師匠にもよく言われてたんですよねぇ。お前の容姿は特定の層には人気だろうから注意しろって。まぁ私が魅力的なのが悪いのかもしれないですけど。でもやっぱり犯罪じゃないですか。何かあったら怖いのでどうにかしたいいんですよねぇ」
「帰ってもいいかな?」
すぐに来いということだったので、家に帰らずに学校から直接来たのだが、店に入れてもらい、カウンターに着いた途端、隣に座ったリーシアからこんな事を聞かされたのでさすがにげんなりした。ちなみにまたしても俺は制服に竹刀袋を持ったままである。
一方のリーシアは、上下ともに紫色のジャージ姿とかなりラフな格好をしていた。一応客であり男である俺と会うってのにその格好はどうなんだ?
「きっと自意識過剰だよ。思春期の女の子には良くあることだ」
「いや、私もう17歳なんですけど!?」
そういやそうだった。見た目は小学生だから忘れそうになる。まぁこの子の師匠とやらの言うとおり、世の中には変わった性癖の人もいるそうだから小学生みたいな見た目の外国人少女をストーカーする人もいるのかもしれない。それはそれで需要もあるのだろう。それで納得しよう。
「なんか失礼なこと考えてません?」
「いや?」
そういや、今日は一人なのか。
振り返って薄暗い店内を見渡したが、ひげ面のマスターの姿が見当たらない。
「今日は買出しだそうで、私はお留守番です」
ふーん。ちなみにマスターにはストーカーの事、言ったのか?
「あの人、意外と過保護なんでストーカーされてるなんて言ったら、しばらく家から出させて貰えませんよ……」
あの白い熊みたいな見た目で、そんな事するのか。ちょっと想像しづらいな……。
まぁ、それはともかく。
「それで、ストーカーって言うけど具体的に何されたんだ?」
ストーカー被害と言っても色々あるからな。隠し撮り写真でも取られたか、郵便物でも漁られたか。SNSで粘着されているケースもあるかもしれない。
「よくそんなに事例がポンポン出てきますね」
全部、マオ姉が高校に入ってから被害にあったことだからな。ちなみに、こいつらは全て俺と夜空先輩が残らず犯人を突き止めて叩き潰している。
「最近、どうもつけられてるみたいなんですよね。私。出かけるたびに誰かが後ろから着いてきてる感じがするんですよ」
いわゆるつきまとい行為というやつだな。ストーカーと聞いて大抵の人が一番最初に思い浮かべるやつだ。実際に付きまとっている所を捕まえて警察に突き出すのがいいんだろうが……。
「ほら、これ見てくださいよ。店の前の監視カメラの映像なんですけど」
と言って脇に置いてたパソコンの画面を見せてきた。そこには頭にニット帽子を被り、口にはマスクをし、目にはサングラスをかけ、極めつけにロングコートを着込んだ、あからさまに怪しい格好をしている男が店の前にいる様子だった。
しかしそれとは別に気になることがあった。
「え、この店、監視カメラなんてついてたのか?」
今日で2度目の来店だが、店の前にそれらしき物は無かった気がする。
「ハッカーなんて裏の仕事ですからねー。トラブル防止のために、念のためドアにわからないようにカメラを仕込んでるんですよ」
最初にこの店に来た時に、視線を感じると思ったのだがそういうことだったのか。
「この人、ここ最近私が外出した時に後ろをつけてるんですよ」
「ふむ。それで、警察には通報したのか?」
っていうかそもそも何で俺を呼んだんだ。俺より先に警察に相談した方がいいんじゃないか?
「私ハッカーですよ? ばれたらストーカーより先に私が捕まっちゃいますよー」
確かに。言われてみりゃそうだ。犯罪者が都合のいい時だけ警察に頼るというのも変な話だしな。
「それに、タクミさんを呼んだのにはちゃんと理由があるんですよ」
「理由?」
「あのストーカー、3日前の夜から私に付きまとってるんですよ」
3日前……なるほどそういうことか。
「あの人、こいつ関連なんじゃないかなと思いまして」
そう言うとリーシアは平らな胸元から鎖で繋がれた小さな銀色の鍵を出した。
その鍵は3日前、あの屋敷で金庫から出てきた、掛橋弦間の遺品だった。
「色々調べてみましたが、結局何の鍵かわかってないんですけどねー」
「それに関しては俺も調査したけど謎のままだ」
リーシアは目線をパソコンの画面に映っている怪しい男に移すと、
「あのストーカーさんなら、何か知ってるかもしれませんねー」
ととぼけた口調で一人言のように呟いた。まったく、食えないロリだ。
俺は苦笑しながら頷く。
「だな。……まだ表にいるのか?」
パソコンの画面を見ると、怪しい男はまだ少し離れたところから店の入口を見張っているようだった。
「ええ、こちらの様子を伺ってますねー」
「よし、ちょっと行ってくる」
そう言って俺は鞄は置きっぱなしにし、竹刀袋だけを持って何食わぬ顔で店を出た。
俺はその男に気付いていないフリをして店から離れようとする。
横目で男の方を見ると、俺の方を見ながら、少しずつ店の方に近寄って行っていた。男が扉の付近まで来たところで、俺はダッシュで男の方に駆け寄る。
「オイ! 何してんだお前!」
怪しいストーカー男はビクッとしてこちらを見たかと思うと、物凄い速度で反対方向に走って逃げ出して行った。
「チッ! 逃がすか!」
俺も急いで追いかける。2,3分ほど狭い路地を走ったが、大通りの方に逃げられてしまい、人ごみに紛れて見失ってしまった。
走りながらどうしたものかと考えていると、そこに突然電話がかかってきた。急いで取ると、
「タクミさん、右の東急デパートです! 通り抜けて駅に行く気だと思いますよ!」
リーシアだった。それを聞いて急いでデパート方面に走り出した。しかし何でそんなことがわかったんだ?
「周辺のカメラを全部ハックしました!」
まったく、ストーカーを追いかけるぐらいで、やることが一々派手な女だな。
だがこういう時は頼りになる。買い物中の奥様方にぶつからない様に、大急ぎでデパートを通り抜けて、駅の周辺に辿り着く。
「見つけた!」
ストーカーは人ごみにまぎれて、地下鉄の改札の方に向かって階段を降りていた。この駅は地下鉄が5本も通っている。違う電車に乗られたら追うのも一苦労だ。人通りも多くて今にも見失いそうだった俺は少し考えて、
「リーシア! 今から一番早く電車が出る路線はどれだ?」
「副都心線! 1分後です!」
一瞬で返事が来た。どうやらリーシアもその質問を予想していたらしい。やるじゃないか。
「よっしゃ!」
向こうもちんたら電車を待ったりしないだろう。おそらく一番早く出る電車に乗るだろうと考えて一か八か副都心線のホームに向かって走った。
人にぶつかりそうになりながらも、長い階段を降りてホームに着くとちょうど電車が来るところだった。
「タクミさん! 後ろです!」
正面の人ごみの中を探していた俺は慌てて回り込んで反対側に走る。
「いたぞ!」
男は止まりつつある電車と併走しながらホームの一番奥の方に向かって走っていた。おそらく電車が止まった所で飛び乗るつもりなのだろう。ホームの奥の方に行くにつれて人がだいぶまばらになっている。これならいけるかもしれない。
俺は走りながら背負っていた竹刀袋を肩から外して手に持ち、
「うおりゃーー!!!」
槍投げの要領で、逃げる男に向かって投げつけた。
バコッ! っと音がして、男は後頭部を思いっきりうちつけて、前のめりにぶっ倒れた。
「ええ……そのために、わざわざ竹刀袋を持っていったんですか……」
咄嗟にポケットに入れた携帯から、リーシアのドン引きした声が聞こえた気がしたが無視する。
さすがに周りがどよめいてこちらの様子を伺っていたので、俺は急いで男の方に近づき、後頭部を抱えてうずくまっていた男の顔を上げさせ、サングラスとマスクを剥ぎ取った。果たしてその顔は、
「渡さん?」
その男は、3日前に掛橋弦間の屋敷で会ったばかりの、技術者の渡さんだった。
3
「あーファミレスのポテトってファーストフード店とはまた違ってソースとか
ついてて特別感あっていいですよね。タクミさんも遠慮せずに食べていいですよ。あ、渡さんこのデザートも頼んでいいですか?」
うざいテンションでリーシアはファミレスで豪遊していた。
「……どうぞ」
「いや、ちょっとは遠慮しろ」
既に1万円近く注文されていて、追加で3000円もする巨大なパフェを頼もうとするリーシアを見て顔を引きつらせる渡さんだった。てかよくファミレスでそんなに頼めたな。
俺と渡さんは、周りに不振な目で見られながらも駅を出て、ジャージから前と同じガールスカウト風の服に着替えてきたリーシアと合流して、駅の近くのファミレスに向かうことになったのだった。
ちなみに会計はお詫びということで、全て渡さんの奢りである。
「それで、なんでこの大食いロリをストーキングしてたか聞いてもいいですか?」
「誰が大食いですか」
俺の横に座るリーシアがハンバーグを頬張りながら文句を言ってきた。
え、気にするのそっちなの?
「師匠がよく言ってたんですよ。『奢ってもらう時は限界まで奢ってもらえ』って。だから胃袋の限界に挑戦しようかと思いまして」
迷惑な師匠だな。
渡さんは正面に座るリーシアの言葉に絶望しつつも、俺の質問に目を泳がせながら答える。
「部長の……宗田さんの命令でね。申し訳ないとは思ってるよ」
「宗田さんが?」
技術部門の責任者である宗田さんが、技術者の渡さんに命令する内容としてはかなりおかしい気がするが。
「具体的な命令の内容は?」
「それは……」
答えに詰まっている渡さんだったが、
「あ、答えないんでしたら監視カメラの映像と一緒にストーカーとして警察に突き出させていただきますねー」
マルゲリータピザを摘みながら無慈悲に切り捨てるリーシアだった。
鬼かこの女。社会人男性がそんなことされたらこの先生きていけないぞ。
まぁリーシアは被害者側なので俺も強くは言えない。
さすがに渡さんもこれには観念したのか、言いづらそうに語りだした。
「鍵……例の弦間様の金庫から出てきた鍵を手に入れろって言われたんだ。何で僕にそんな命令をするのかはわからないけど……」
鍵か。結局、そこに行き着くのか。
「この鍵、結局何なんですか?」
リーシアが鍵を取り出して尋ねた。
渡さんは鍵に反応して一瞬身を乗り出しかけたが、直ぐに座り直し、首を振って、
「あいにく、僕も知らないんだ。ただ、部長はうちの会社にとって重要な物だからなんとしても手に入れるように、と」
やはり、カケハシ絡みだったか。連絡が取れないマオ姉にとってもかなり重要な物だということは間違いなさそうだ。今日のことはきっちり報告しておこう。特に宗田が悪巧みしていることについては、きっちりと。
渡さんはふとテーブルの下に目をやり、体を屈めて手を伸ばした。
何をしてるのかと思ったら、しばらくすると渡さんはリーシアに向かって、
「リーシアさん。手袋落ちてたよ」
「あ、どうもどうも」
と、手袋を手渡していた。リーシアが食事をするために外していた手袋が、いつの間にか落ちていたようでそれを拾ってくれていただけだった。
「じゃあ、悪いけどお先に失礼させてもらうよ」
と言って渡さんは立ち上がり、財布を取り出すとちょっと余裕を持って2万円を置いていってくれた。
財布の残りを見てちょっと暗い顔をしていたのが悲しい。
ちなみに俺が注文したのはカルボナーラとドリンクバーで1000円もしない。渡さんはドリンクバーだけだったので、残りが誰の分かなど言うまでもない事だ。
別に俺が悪いわけではないのだが、ちょっと申し訳ない気持ちになった。
「分かったのは宗田が鍵を欲しがる余り、渡さんを使ってリーシアをストーカーさせたって事だけか」
「そうですねー。苦労したのに得た物は少ないですねー」
でっかいステーキを頬張りながら言うリーシア。
いや、マジで食いすぎだろお前。得た物っていうならお前が一番得しているからな。胃袋的に。
「一応マオ姉にも報告しておいたけど……あの人、海外にいるみたいでいつ返信がくるかわからないしな」
メッセージの履歴を見たが、俺の報告には既読がついているが、返信はまだ無い。
ちなみにマオ姉からその前に送られてきたのは、ソシャゲでSSRを引いたというどうでもいいスクリーンショット画像だった。
「ふぁーふぉうふぁんでふふぁ」
「物を食べたまま喋るな」
小学生の妹に躾をする高校生の兄みたいな図だったがこれでも同い年らしい。信じられないことに。思わずため息がこぼれる。
「まったく、どういう教育されてきたんだ」
「うちの親は放任主義でしたからねぇ。特にできの悪い末っ子なんてほとんどほったらかしだったのですよ」
遠い目をしてそんなことを語るリーシアだった。
「今は、親と一緒に暮らしてないのか?」
過去系で語るのが気になったので、そう尋ねた。
「ええ、今はザックと……あのバーの無愛想なマスターですね。あの人と2人暮らしです」
あの髯のマスターか。店を手伝ってるだけだと思ったら一緒に暮らしていたとは。
「あの人とはどういう関係なんだ?」
「私が行くとこ無くて困ってた時に助けてくれたんですよ……あ、エッチな意味じゃないですよ?」
誰もそんな事考えとらんわ。
「それ以来、2人で暮らしてるんですがあんまりバーの売り上げもよくないのでたまにネットで依頼を探してこなしてるんですよねー。こないだはソシャゲで目当てのSSRを一発で出してくれって依頼が来ましたね」
ロクでもない依頼だなー。そんなことしたら運営会社が可哀相だろうに。
そもそもそれってハッカーに頼んでなんとかできる物なのか?
疑問に思った俺はごく自然に尋ねた。
「それも魔法を使ったのか?」
「ええ、そうでもしないとガチャの結果操作なんてできないです……から……」
喋っている途中でリーシアの表情が固まった。自分が何を言われたか、言ったかに気付いて、顔が見る見る青くなっていく。
反対に俺の顔は険しい物になる。やっぱり、そうだったんだな。
「やっぱりお前、魔法使いなんだな」
4
長い沈黙が場を支配していた。氷のような表情でリーシアを見つめる俺と、氷のように固まるリーシア。先に沈黙を破ったのはリーシアの方だった。
「ち」
「ち?」
「ちちちちちちちちちちちちちちちちががががががががががががががががががが
ちちちちちちちちちがががががががが」
氷が解けたと思ったら、今度は壊れた音楽プレイヤーみたいになった。
「とりあえず、水飲め」
手元にあった水を渡してあげたが、あんまり手が震えてる物だから、ほとんどこぼれていた。
「ああああああありりりりがががががが」
これ、叩いたら直るだろうか。壊れた機械は叩いて直すに限るって言うしな。俺が物理的手段に訴えるか真剣に悩みだした頃、ようやく水を飲み終えたのか、リーシアの震えが収まっていた。
「……落ち着いたか?」
「……ええ、なんとか」
まだだいぶ目は泳いでいたが、とりあえず普通に話せるようにはなったようだ。彼女はすぅと息を大きく吸い込むと叫んだ。
「違うんです!!」
コップが割れるかと思った。それぐらいの大声だった。
「うるさい」
周りの迷惑になるだろうが。周りのお客さんも何事かとこっちを見ているし、店員さんも何か言いたげにこちらを見ている。これ以上騒ぐと追い出されかねない。
「わ、私が魔法使いだなんて、しょ、証拠はあるんですか!?」
滅茶苦茶つっかえながら、推理小説で追い詰められてる真犯人みたいな事言い出した。証拠か。もちろんある。
「手」
「手!?」
思わず手を後ろに隠したがそれは意味無いと思うぞ。
なぜなら、大事なのは手そのものではなく、今は脇に置いている、手袋の方だからだ。
「手袋、魔法を使う時に光るのを隠すためだろ? あと魔力が溢れた時に手を火傷するのを防ぐためなんだっけか」
「なんでそれを!? じゃなかったえっと……て、手袋してたからって魔法使いだって証拠にはならないですよね!? お洒落で着けてるだけかもしれないじゃないですか!!」
まぁ、それはその通りなのだが。しかし証拠はそれだけではない。
「あとそのスカーフ」
俺が首元のスカーフを指差すと、リーシアはものすごい速度で外そうとしていた。
だが慌てたせいか逆に絡まってしまい、自分の首を絞めてゲホゲホ言っていた。
「魔法の詠唱をする時に口元を見せないように着けているんだろう?」
首を絞められてるからか図星を付かれたからかは分からないが、顔が真っ青になっていた。
「それに、3日前の金庫といい、今日の監視カメラのハッキングといい、ついでにガチャの操作といい……」
とりあえず、まだ自分で首を絞めてたのでやめさせてやった。
「そんなの、魔法でも使わないと不可能だろ」
いくら機械に詳しくない俺でも、そんな事が簡単にできないことぐらいは知っている。それこそ、魔法でも使わない限り。
再び長い沈黙が場を支配した。
リーシアは俯いてしまって、表情がよく見えなかった。
「……タクミさん。あなたは……」
やがて、小さな声で尋ねてきた。
「あなたは、知ってるんですか? 魔法の存在する世界のことを……?
俺はコーヒーを一口飲む。
「俺が知ってるのは、この世界とは別に、魔法が使える世界……まるでRPGみたいな世界が存在してるってこと。それから、その世界からこっちの世界にやってきて悪さをする連中がいるってことぐらいだな」
数十年前から、この世界には不可思議な事件がいくつもあった。
出火元の分からない放火事件。見えない刃物で殺されていた殺人事件。何の前触れもなく起こった爆発事故。
それらは魔法を用いて行われた、と仮定すれば全てが解決する。
「……わ、私は違います」
声が震えていた。
「私は……彼らとは違います」
顔を上げた彼女は、悲しげな顔をして、自嘲気味に笑っていた。
「私は、火も起こせないし風も吹かせられないし傷も癒せない、落ちこぼれの魔法使いなんです」
5
私のいた世界は、こっちで言うRPGみたいなファンタジーな世界です。
魔法があって、魔物がいて、ミスリルなんかの魔法金属もあって。
私の家はそんな世界ではごく普通の家庭でした。
父さんと母さんがいて。
兄と姉がいて、私は末っ子でした。
一族みんな魔法使いでした。
ただ、私は魔法がまったくと言っていいほど使えなかったんです。
使えたのは解析魔法、『アナライズ』だけでして。
ほら、宝箱の中にトラップが無いかとか確かめる奴です。
だから学校のクラスでもバカにされてたんです。
え、学校ですか?
この世界の学校と大して変わらないと思いますよ。
算数だったり国語だったり、音楽の授業もありました。
ただ、魔法の授業だけは向こうにしか無いと思いますけど。
そんなわけで、私はよく一人で遊んでたんです。
いわゆるぼっちでした。
あ、でも一人だけ友達はいたんですけどね。
ライちゃんって言ってすごく優秀だったんです。
綺麗な金髪で、元気いっぱいですっごく可愛い子だったんですよ。
すみません話が逸れましたね。
私がよく遊んでいた浜辺に、ある時大人が何人かと子供たちがいっぱい来たんです。
その中にライちゃんがいたんで、近づいていったら突然海が光だしまして。
気がついたらこっちの世界に来てました。
その後は、他の子供たちと一緒によくわからない建物に連れて行かれまして。
そこには魔法使い達と、研究者みたいな人達が大勢いました。
そこでこっちの言葉を覚えたり、体の検査をしたりとか色々させられましたね。
で、その途中で私が全然魔法が使えないことがばれちゃいまして。
あわや処分されかけたところを、ザックに助けてもらったんですよ。
まぁあの人たちも別に私に興味は無いみたいで、それ以降は特に何も無いですけど。
そんなわけで、私は今はザックと二人で暮らしてるわけです。
6
「つまり、君は他の魔法使い達とは無関係ってことか?」
「そういうことですね」
一気に話し終えたリーシアはグッとコーラを飲む。
「あの人たち……確か『ギルド』って名前でした……彼らがどういう団体なのかは正直わかりませんけど……もう私とは何年も関わりがないですね。向こうもロクに魔法が使えない魔法使いなんて必要無いんでしょう」
「……いや、でもちょっと待って」
首をひねりながら疑問を口にする。
「君のハッキング技術は、魔法を使った物なんだろう? 魔法はロクに使えないんじゃなかったのか?」
「だから、私の唯一使える魔法、解析魔法ですよ。私は解析魔法と、師匠から教えてもらったこの世界の技術を掛け合わせて、ハッキングしているんです」
解析魔法? それは宝箱の罠を感知するための魔法じゃなかったのか?
ハッキングとはあんまり関係無さそうなんだが。
「そうですね。えっと、こう……」
と言って、ポケットから自分の携帯端末を取り出して、それに手を当てるリーシア。彼女は小声で何かぶつぶつ言うと、手が淡く光だした。
「こう、端末に対して解析魔法を使うと、中身のデータが頭に浮かんでくるんです。ネットワークが通じていたら、そこからこう、洞窟に潜り込んで探索するイメージで、色んな情報にアクセスできるんです」
驚いた。……そんな使い方、ありなのか。解析魔法なんてファンタジーの世界だとあんまり使い勝手のいい魔法じゃなさそうだけど、こっちだととんでもなく便利じゃないか。
「魔法も、世界が違えば使い方も変わって来るものですからね。ほら、火を出す魔法だって、私の世界だと火を起こすのにすごく重宝しますけど、こっちの世界だとライターでいいわけじゃないですか」
所変われば品変わる、と言うが……魔法もそうだったとは思わなかった。
「これが、私の知ってる全部です」
彼女は、うつむいて震えていた。
「私、こっちの世界に来て、本当によかったと思ってるんです。向こうでは私を必要としてくれる人なんていませんでしたけど、こっちではハッカーとしての私の力を必要としてくれる人たちがいる。ザックも私に優しくしてくれていて、二人でこれからも暮らしていきたいんです。だから、だから……!!」
その姿は、ただの小さな女の子だった。なんだか小学生をいじめてるみたいに思えて、罪悪感が芽生えてしまう。
「……悪かったよ。そんな怖がらせるつもりはなかったんだ」
俺は素直に頭を下げる。
「俺はマオ姉から頼まれて、魔法使いについて調べてるだけで、別に君をどうこうするつもりはないんだ。だから、心配しなくていい」
涙を浮かべてこっちを見ているリーシアに向かってメニューを差し出した。
「なんか頼むか? お詫びに何か奢るよ。と言ってもだいぶ食ってたから、もう食えないか?」
彼女はおずおずとメニューを受け取ってしばらく凝視した後、店員さんを呼んで注文した。
「すみません、デラックスジャンボストロベリー&チョコバナナパフェゴージャスプリンセススペシャル(4800円)ください」
「ちょっとは遠慮しろ!? っていうかまだそんなに食うのか!?」
今度は俺が店員さんから白い目で見られる羽目になったのだった。
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「いやー食べました食べました。渡さんとタクミさんには感謝ですねー」
さっきまで涙目だったリーシアは、バケツサイズのどでかいパフェを平らげて満足したのか、ファミレスを出る頃にはすっかり元の元気を取り戻していた。
ちなみになぜリーシアが俺に感謝しているかと言うと、最後のあのとんでもないパフェのせいで、渡さんが残してくれた2万円を少しオーバーしたので、俺が多少出す羽目になったのだった。ファミレスであんだけ食うやつ、初めて見たわ。
「そういえば、タクミさんのお姉さんってどういう人なんですか?」
リーシアを店に送って帰る途中、例の薄暗い路地に入った辺りで、そんな質問をされた。
「一言で言うのは難しいな。あらゆる意味で普通の人じゃないことは確かなんだが」
「掛橋真桜さん。タクミさんと同じ庭園高校の3年生で生徒会長を務めてる。カケハシカンパニーの現社長、掛橋相真の娘で、学生でありながらカケハシの要職についている」
どうやら姉についてもしっかり調べているらしい。
「表向きのプロフィールはそんな所なんですが、色々わからないことがあるんですよね。なんでタクミさんがマオさんのことを姉と呼んでいるのか、という事と、どうして魔法使いのことを知っていてそれについて調べているのか、ってことなんですよ」
まぁ前者はただの興味本位かもしれないが、後者はこの子にとって重要なことだろうな。
「俺がマオ姉を姉と呼んでるのは……まぁ色々あの人に世話になったからだよ」
その辺りは俺の黒歴史に関わるから、正直あんまり触れないで欲しい。
ただ、俺はあの人には絶対服従を誓った哀れな弟というだけだ。
「なんでマオ姉が魔法について知ってるかは、俺も知らない」
「え、知らないんですか?」
リーシアは思わず足を止めた。
「俺は魔法使いについて元々知ってたけど、姉さんがなんで知ってたかはわからないな」
「え、え、ちょっと待ってくださいよ」
どうやら混乱してるようだ。
「タクミさん、元から魔法使いを知っていたってどういうことですか!?」
どういうことって言われてもな。
俺は肩をすくめて、事も無げに言う。
「俺、両親を魔法使いに殺されてるから」
「……はい?」
ぽかんとした顔をしているリーシア。
顔は可愛い方だと思うが、そんな顔をしてるとマヌケに見えるぞ。
「余計なお世話です!! っていうか、え? タクミさんの両親って確か3年前に火事で亡くなられたんですよね?」
確かに、警察の資料とか報道ではそうなってるはずだ。
「八剣鋼児40歳、当時カケハシの技術部門所属のプログラマー。八剣泉40歳、専業主婦。共に焼死。原因は放火で、家は全焼。犯人は連続放火魔で、未だ捕まっていない……って書いてますね」
自分の携帯端末を見ながら情報を読み上げるリーシア。
さすがだな。だが、彼女が調べられたのはあくまで表向きの内容だけだ。
実際には、ただの連続放火魔の仕業なんかじゃない。
「俺が14歳の時、夜中に強盗が入った。そいつは俺の両親を手から出した炎で焼き殺して、その時の炎で家も全焼したんだ」
俺はその時の記憶があまり無い。覚えているのは、黒いローブを着たその男の姿と、その男の狂ったような笑い声だけだ。どうやって助かったのかも分からない。気がついたら病院のベットの上だった。
「魔法使いがこの世界にいるってのはその時知ったよ。他の世界から来たってのは、後になって姉さんに教わったんだけど」
「……そうですか」
暗い顔をしていた。まぁ他人に聞かせるにはちょっとヘビーな話だったかもしれない。
「タクミさんは、その犯人を探しているんですか?」
「探しているよ。でも、今は両親の仇より大事なことがあるからな」
「大事なこと?」
首をかしげるリーシアに、俺は胸を張って答える。
「マオ姉の役に立って、恩返しすることだな」
俺にとってマオ姉は、ただの他人じゃない。恋愛対象ってわけでもない。一番適切な言葉を選ぶなら、俺をどん底から更正させてくれた、恩人なのだ。そんなマオ姉に恩返しすることが、今の俺の使命なのだ。
「シスコン……」
が、そんな俺の壮大な使命の尊さなど伝わらなかったようで、リーシアには冷たい目で見られた。そんな言葉に俺はひるまず、
「ありがとう。最高の褒め言葉だ」
堂々と礼を言ってやった。その言葉にリーシアがドン引きしてるのがわかったが。
「俺も一つ聞きたいんだが」
「なんですシスコンさん」
褒め言葉だとは言ったが、その呼び名はやめろ。
「リーシアの師匠ってどんな人なんだ?」
「師匠ですか?」
彼女は意外なことを聞かれた、というような驚いた顔をしていた。
度々リーシアが話題に出していたので、気になっていたのだ。
「変な人でしたよー。ある日私のパソコンに突然メッセージが送られてきて知り合ったんですよ。当時ザックに引き取られたばかりの頃で、引きこもりがちでやる事も無かったこともあって、暇つぶしでお話してたんですけど、なんだか気が合って仲良くなっちゃいまして、それからハッキングについて教えてもらうようになったんですよ。おかげで、私はこうしてハッカーになれたわけでして。いやーいい話ですねー」
いい話……なのか?
謎の人物が一人の少女を悪の道に引き込んだだけとも言える気がするが。
「師匠、今頃何してるのかなー」
「あんまり会ってないのか?」
師匠と言うからには、随分親しい関係だと思ったのだが。
「ここ2年ぐらい連絡無いんですよねー。そもそも1回も会ったことはないんですけれども」
どうやらネット上だけの繋がりだったらしい。まぁこのご時勢だとそこまで珍しいことではないが。
「まぁあの人、相当なイタズラ好きだったから、そんなに気にしてないんですけどね。これも何かの仕込みかもしれません。最後に話した時に、私の卒業試験を用意してやるって言ってましたし」
イタズラ好きねぇ。
「ええ。昔、ザックの携帯から『ケーキを注文してあるから取ってきてくれ』ってメールがあって、取りに行って家に戻ったら『そんなメール送ってない』って言われておかしいと思ってケーキの箱を開けてみたら、ケーキに『誕生日おめでとう 師匠』って書いてた事があったりしましたよ。いやーあれはびっくりしましたねー」
それは結構いい話だな。師匠とやらの評価を改めた方がいいかもしれない。
しかしマスターの携帯からメールがあったのに、当のマスターが知らないってのはどういうことなんだ?
「ああ、たぶんザックの携帯をハッキングして、そこから私にメールを送ったんですよ」
なるほどな。凝ったイタズラだな。
「他にも、私の携帯のカメラをハッキングして、私の下着姿の写真を取って送ってきたこともありましたねー。あれもビックリしましたよー」
やっぱりロクでもない奴じゃないか?
「『男は度胸、女は愛嬌と胸。お前はどっちも無いからダメだ。もっと牛乳を飲め』ってよく言われてましたね」
絶対ロクでもない奴だ! タダのセクハラ野郎じゃねぇか!
「あとはそうですねー……『世界の掛け橋となれ』てよく言ってましたね。私にワールドワイドに活躍しろってことだったんだと思いますが、私日本語を覚えるのに必死で、英語までは喋れないんでまだ無理なんですよねー」
……ん? なんかその言葉は聞いたことあるような気がする。
俺がどこで聞いたか思い出そうとしていた、その時だった。
「ああ、やっと見つけたぁ」
目の前が突然光に包まれ、即座に轟音が鳴り響いた。
「きゃあ!?」
悲鳴を上げてうずくまるリーシア。俺も驚いて思わず体が硬直する。
光と音の正体が、目の前に落ちた雷だと気付くのに一瞬時間がかかった。
「まったくめんどくさい。どうしてあたしが人探しなんかしないといけないんだろう。こんなの先輩が自分でやればいいのにぃ」
雷が落ちた所は地面が真っ黒に焦げていて、ケムリが充満していたが、そのむこうから一人の少女が歩いてきた。
一見金髪ツインテールという、ツンデレのテンプレートみたいな姿をしていたが、目つきが非常に悪く、目の下は隈だらけだった。良く見ると髪もぐちゃぐちゃでまったく手入れされていないようだった。
「そう思わない? 思うよね? 正直めんどくさいから、連れて帰って来いって言われてるけど間違えて殺しちゃっても仕方ないと思わない?」
「いや、思わない」
仕事はきっちりした方がいいぞ。現場の判断で勝手なことをすると大変なことになるのだ。前にマオ姉にイチゴのアイスを買ってくるよう頼まれて、売ってなかったから代わりにチョコのアイスを買っていったらブチギレられたことがあるしな。
俺はそれ以降、姉さんの欲しい物が売っていなかったら見つかるまで何十軒でも探すことにしてる。
「いや、それは正直どうかと思いますけど」
下から声が聞こえたと思ったらまだ地面に伏せた状態のリーシアからツッコミが飛んできた。
「でも、殺されるのは私も勘弁して欲しいです」
「そろそろ起きろよ」
リーシアは手を貸してやってようやく立ち上がった。
「ああ、やっぱりそうなのかぁ。めんどくさいなぁ。めんどくさいなぁ。あたし、殺す方が得意なんだけどなぁ」
そう言ってこちらにビリビリと電流が走る両手を向ける金髪少女。
「じゃあ、死なないように気をつけてくださいね?」
ケタケタと不気味に笑う姿は、正直恐ろしかった。
その姿を見たリーシアは、
「え? ラ……ライちゃん?」
ふいに、突然驚いたような声を出した。
ライちゃん? 確かライちゃんってのは……。
金髪少女は肯定するようにニカッと笑って、
「雷閃姫、ライカ・ヴァルデック。いきますねぇ。……久しぶりに遊んであげるよ、リーちゃん」