とある神々の対談2
土地神がぼけっとしていると、半神が部屋に戻って来た。その手には、薄くもなく、厚くもない紙の束があった。
「まだ中途だが、とりあえず、読んでみてくれ。」
と半神から、紙の束を渡されたので土地神はそれに目を通し始めた。まぁ、内容を要約すると
・現時点での召喚されたと思われる行方不明者30余名(捜索願有り)
・内訳:女性15名、男性5名、その他数名。年代:10~30代。
・事件現場:東京都内が最も多く、次いで埼玉、千葉、京都、大阪etc…
・被害者出身地:規則性無し
・召喚頻度:バブル崩壊後より、増加傾向にあるもよう。(一族の巫女から証言有り)
・術式:特定の人物を召喚する召喚陣。解析により、複数の異世界に召喚された可能性有り。(備考:現時点で5つの異世界の関与を確認)
・召喚動機:世界危機、その他。
・召喚妨害成功率:60%強
被害者名簿の一部分を見ながら、土地神は口を開いた。
「僕の可愛い氏子たちは、まだ生きている可能性が高いんだね。これを見る限り…。」
土地神の手元にある紙の束は明らかに増えていた。そして、向かいに座る半神の手元にはノートパソコンと多量の古いメモ書き。それを元に過去の資料を作成しているようだった。数枚のメモ書きを土地神に寄越しながら半神はコクリと頷いた。
「彼らを召喚した国は、比較的に丁重に扱うようだし、時の流れもこっちとさほど変わらず、時間軸のずれもほとんどない。帰還の際にこっちに繋げる時間を間違えなければ、彼らは召喚されてすぐの時間軸に戻せる可能性が高い。・・・あくまで君の氏子たちの話だが。」
と言いながら、別の資料に目を向けて眉をひそめた。それは、2年前の被害者名簿と召喚した国の情報と救出活動の状況報告の一部だった。名簿の半数以上に死亡の文字が記されている。それを土地神に示しながら、言葉を続ける。
「この国に今回召喚された者は諦めた方が良いかもしれない。報復処置を考えた方が賢明だ。」
顔を顰めさせて土地神は言った。
「諦めるのが早いよ。まだ召喚されてからそんなに時間が経ってないじゃないか?」
ふるふると首を横に振りながら、半神は言う。
「言っただろう。本業優先だと。あいにく私も体が一つしかないのでね、そんなに手伝ってもやらないんだ。神具を扱える巫女たちに救出を任せることも考えたが、危険すぎる。特にこの国は…。」
と言って資料を叩いたのだった。
そんなこんなで話し合いは進められていった。
必要な資料を持たせ、いざ見送ろうというときに土地神が口を開いた。
「ありがとう。す「その名前を言うな。」…ごめん。」
「それは私の神としての名前だ。今、この場で出していい名前じゃない。この場にいるのは人としての私なのだから。分かったか?
若瑞輝彦尊。」
と不機嫌になりながら言う半神に「そういえば、本日初めて名前呼ばれたよ。名前ちゃんと覚えてたんだなぁ。」と妙に感動しつつ、苦笑した後、
「分かったよ。…ありがとう。ご協力感謝するよ。本条ミヅキ殿。またいずれ会おう。」
といい笑顔で若瑞輝彦尊は宣い、去って行った。
ミヅキは、見送りが終わるとすぐにどこへ電話し、マンションを後にした。向かうは霞が関、本業とは別に色々根回しするために勤務地に行く前に少し寄り道することにしたのだった。
某所にて
その部屋には、紙をめくる音が響いていた。そこには、神が一柱。若瑞輝彦尊である。
彼は資料を確認しながら、ミヅキの姿を思い出していた。黒髪、黒目の明らかに日本人然とした色彩を持ち、ちょっとつり目がちな瞳をした中性的な美貌…。そこまで思い出してから、あれっと首をひねる。
「あれ?ミヅキは女神だっけ?男神だっけ?今日は、明らかに私服じゃない緑の服着てたし、あれはあんまり体型が分かんなかったから・・・。あれ?でも性別とか隠してなかったはずだよね、ミヅキは。」
ともう一度首をひねりながら言うとカレンダーを見た。「ここは一度疑問を傍に置いて仕事した方が良さそうだ。」とひとりごちた。
カレンダーは9月を示している。
出雲入りまで後数日しかなく、若瑞輝彦尊はこれでも忙しかったのである。
こうして謎は、謎のままに残されたのだった。
その一ヶ月後、ミヅキの元に正式な協力要請の書類が出雲からもたらされた。もちろん、八百万の神々の連名である。
かくして、ミヅキは召喚という名の拉致事件の調査と救出に乗り出すことになった。