救出のその後で
質問責めに合いそうになったミヅキだったが、待機組の警官たちにより、とりあえずはその場は解散された。
被害者の清宮さんはこれから形だけの事情聴取になるが、それも朝になってからになる。
とにかく、公職に就いているミヅキたちは彼らとはお近づきになりたくなかった。翌日も通常勤務があるのだから、全てなあなあにして誤魔化したかった。
で、実際に敵前逃亡よろしく、武器を全て一課の待機組に渡すと都外の駐屯地勤務の者はさっさと帰り、都内勤務の者も適当な場所に消えて行った。
ミヅキも、借りているマンションの方に帰ることにした。外泊届を出したのは部下たちだけでないということだ。
美琴たちは、慧が家に送ることになった。
夜が明けて、ニュースで誘拐事件が解決したことが報じられた頃には、ミヅキは駐屯地で書類の山を捌いていた。
部下たちが何事もなかったように出勤したという確認も取れたので安心して仕事に集中できると内心ホクホクしていたの・・だが。
ちょっと気味が悪い気がしてならない。
"清宮が大人しすぎないか?"と思わなくもないのだ。
あの家も相当な非現実的なモノに関わっているとはいえ、こっちはその斜め上をいく非現実的なことをしてしまったのだから、早い段階で追及される可能性は十分にあった。
まぁ、あちらも結構大きな企業を動かしているから忙しいとは思うけど、なんだか泳がされてるかも?と思ってしまうミヅキだった。
そんなことを考えながら、通常業務を行っていたその日は何事もなく終了した。
で、清宮が動いたのは事件が解決してから、約三週間後だったようだ。
ミヅキが最終的にそう判断したのは彼らが正規のルートでアポイントを取り、陸自の広報の応接室で再会してから、二週間後のことだった。
マスコミをそれなりに賑わせていた誘拐事件が解決し、人々の関心が薄れていくのを感じながら、その日も通常業務に勤しんでいたミヅキだったが、なぜか広報に呼ばれた。
お客様がお呼びらしい。ミヅキは広報官じゃないから、全く心当たりがない。ならば、なにかのお礼か?
……?
陸自がそうであるように海自も空自もお礼が言いたいとか、お礼でなにかしたい、という時は広報を通して行うのが原則だ。
よって、自衛官個人に対しての直接的なお礼はよっぽどのことがない限りはない。
だから、こうして広報官以外の自衛官が一般のお客様に会うというのは、なにかのイベントがない限り、ない出来事だ。
本当に誰だろう?
というか、広報もよく許したなぁ、なんてちょっと平和ボケした頭で考えながら、応接室に顔を出して一瞬固まってしまったミヅキだった。
……なんで彼らがここにいるのだろう?
回らない頭で考えたのはそんなこと。
目線を彼らから、広報官の一人、清宮の担当者の自衛官に移した。
私と同格が相手してるとか、どんな爆弾持ち込んだんだ?
ほら、担当者の助けて、な目線。
彼になに言って私をここに呼んだんだ?
言葉には出さず、礼儀正しく挨拶するが、目は笑わない。笑えるわけもないが。
そして、その場の空気だけがどんどん冷えていった。
なんせ、目の前には、清宮環奈さんの兄と従兄弟、どちらも現役の陰陽師だ。
彼らの手元に資料があることからして一応、広報に仕事で来ていたのは明白なのだが。
私、関係ないじゃん!
そう言いたいのを我慢していると、あっという間に担当者の自衛官…野村一佐が逃げるように出て行ってしまった。
おい!説明!!
目で訴えたのを無視され、顔には出さないものの、結構イラついた。
「……お客様は、すでにご用件がお済みのご様子ですね。私、"お客様がお呼びしている"としか伺っておらず、何が何やらと思っていたところなのです。申し訳ありませんが、ご説明願えませんでしょうか?」
精一杯、営業スマイルを浮かべたが、目が笑うことはなかった。
要は、はたから見たら結構怖い笑顔になっていた。まぁ、清宮兄たちはちっとも動揺してくれなかったけど。
さあ、吐け!
そんな思いで彼らを見ていると、いかにも、お腹が黒そうな清宮兄が口を開いた。
「いやだなぁ。分かってるくせに。環奈のことでお礼に来ただけだよ。表向き、自衛隊は動いてないから、広報官の方にお礼は言えない。だから、ちょっとお願いをしてあなたをここに呼んでもらったんだ。こうでもしないとあなたは…いや、あなた方か。僕らに会ってはくれないだろうから。」
「私には、見覚えがありません。あの誘拐事件から、すでに半年ほど経過しておりますが、その前後の期間中、公式にしろ、非公式しろ自衛隊が出動するような案件は発生しませんでしたので。それに事件は、捜査一課が解決したのではないのでしたか?」
………なるほど、本当に自衛隊は動かなかったのか。
ということは、動いたのは一個人、さしずめ一般市民による捜査協力で通したい(願望)…か。無理があると思うけど、捜査一課も一般市民からの捜査協力うんぬん言って誤魔化そうとしてたしね。
……仕方ない。彼女は口を割……胸の内を話してくれそうにないし、今日はここまでか。
でも、僕たちはまたどこかで、合間見えると思うんだ。多分。
古から陰陽師を輩出してきた一族とその力故に表舞台から姿を消さなければならなかったという書物の中にしか出てこない一族は現代で運命が交差する……なんてね。
清宮兄こと、清宮湊は笑顔の下でそんなことを思う。
あの時、待機中の警官たちのところにかなり強引に行ったけど、何も見えなかったんだよなぁ。
結界が張ってあるのは感じてたし、何枚か破ったけど、肝心なところは破れなくて、その中も濃霧が発生しているようにしか見えなくて文句を言おうにも、どこにツッコめばいいのやら。
結局、帰ってきた妹を連れてすごすごと引き下がるしかできず、今に至る。
何度か、妹に尋ねたけど"警察が助けてくれた"としか言わないし。
あんなガタイの良い警官なんてそうそういないし、安倍本家の情報網に彼らは引っかからなかった。
つまり、彼らは警察組織の人間ではないということ。
警察と連携が取れて、銃火器が扱える職業なんて一つしかないじゃないか。
※そこはバッチリ見ていた。
色々と理由を作ってここに来たけど、彼女は手強いなぁ。妹がどこに誘拐されてどうやって帰って来たのかを知りたいのに誰も教えてくれないから面白くない。
それに彼女が"件の一族"の人間かどうか分からずじまい……。でも、確認するまでもない気はするんだよね。
まぁ、しばらくはここに通うことになるから、彼女との繋がりが完全に切れるわけじゃない。
ちょいちょい、ちょっかいを出して見ますかね。
「……誘拐事件を解決したのは確かに捜査一課だそうですが、どうやら捜査協力してくれた方がいたそうなのです。こちらにいらっしゃるようだったので理由を作って伺ったのですが、あてが外れたようです。
お忙しい中、僕たちに会っていただきありがとうございました。これで失礼します。」
そう言い、僕たちはその場から離れた。
「良かったのか?何も聞かなくて。」
そう言ったのは、僕の従兄弟の要だ。
「いいんだよ。また聞く機会はあるだろうからね。それに彼女は、多分、件の一族の人間で間違いないと思うんだ。なんでこんなとこにいるのか気になるけどね。」
僕はそう言い、すっごくイイ笑顔を浮かべた。
「……。なんだったんだろうなぁ。突撃訪問にしては押しが足りない気がするが……。」
そう言い、グタリとソファにもたれかかる。
また、来るんだろうなぁ。あぁ、来るだろうさ。あの似非紳士。
とりあえず、野村一佐に事の次第を聞けるだけ聞かなければ。
そこで分かったことは、彼らはコマーシャルでなぜか陸自のヘリを飛ばすべく、熱心に売り込んできたということと野村一佐があっさりOKしたことだ。
そのコマーシャルはシリーズ化される予定だから、定期的に広報に顔を出すらしい。
なるほど、ちょっかいを出さない選択肢はないということか。
スッゲー、面倒なことになった。
思わず、遠い目をしてしまったミヅキだった。




