とある神々の対談1
「うん、知ってた。最近、いや、この数十年か、変な術式が展開されていたのは感じていたし、何より、我が一族の中にも、ら…召喚された者がいたからね。まぁ、しっかり報復してから帰って来た者がほとんどだけれど…。一般人は、まず術式に対抗できない。あっちに送還の術がなければ、帰還は難しいだろう。こっちには、"界渡り"の神具があるわけだし、術式の痕跡を辿ってなんとかイケるかってところだね。ただし、自然にできた時空の歪みに落ちてしまった者は追えない。あと、本業があるから、調査はその片手間になるがいいか?それでもいいというなら協力しよう。」
と、自称"隠居中の神"であるところの人に紛れて生活している半神が実に尊大に宣ったのだった。
目の前にいる半神を見やって、氏神あるいは鎮守、土地神と人から様々な呼ばれ方をする神は、小さくため息を吐きながら、言った。
「君たち、一族ぐるみでこのこと黙ってたのかい?神が神であるために人の信仰心が必要不可欠だと知っていただろうに。しかも、僕は氏子の少ない地方の弱小神なんだよ?氏子が1人減っただけでも、もう死活問題なのにぃ・・・うぅっ・・・ひっく。」
氏神…いや、土地神はもう、べそべそと泣いている。あまりに泣き方が酷いから、半神は、説明の前に土地神を泣き止ませることにした。
「私が悪かった。頼むから、泣き止んでくれ。」
そう言いながら、ティッシュ箱を土地神に差し出した。「うーん。ソファに座る、直衣姿の美男子ってかなりシュールだなぁ。」と検討はずれなことを考えながら…。
今更だが、彼らがいるのは、半神の住まうマンションの部屋の応接間である。この部屋は、特殊な結界が張られ、普段は力が弱くて自分の社から出られない某神のような存在を招く場となっている。それだけにかなり執拗に穢れが払われ、半神の神通力で満たされ、某神が長時間いても弱らないよう配慮がされているのである。そんなこんなで彼らは、会話中、テーブルを挟んで向かい合ってソファに座っていたのだった。
土地神が泣き出してから、数十分。やっと涙が収まって、会話ができるところまできた。
「何も言わなかったのは悪かったと思ってる。だが、…ここ最近は、特に忙しくて連絡が取れなかったんだ。…術式の破壊で。」
土地神は、目を見開いた。
「…知っているだろう?私や一族が持つ特殊能力を」
そこまで聞いて土地神は思い出した。かの一族が持つ能力は、
「…破魔の力かい?はたしてそれを破魔の力と一括りにしていいのかわからないけど。」
そう言うと、半神は自嘲気味に笑いながら、
「まさしくその通りだ。しかし、だいぶ力が変質しているのは確かでね、元が妖や霊をちょっと退けるものだったのが、今では、力を封じていないと無害なものまで粉砕してしまうほど物騒なものになってる。人に紛れている妖には、申し訳ないくらいだ。でも、魔力に対抗できると分かれば話は別だ。現在進行形で召喚を妨害しているよ。陣を踏みつける簡単なお仕事だしね。どうやら、魔力と破魔の力は相性が悪いらしい。あっちの神が一枚噛んでようが私たちが触れれば、陣が壊れて術式が破壊される。こちらとしては楽でいいよ。」
ペラペラと喋る半神を見ながら、土地神はから恐ろしさにかられていた。「今は、半神から神の力は感じない。神の力のようなものは感じるけど。あくまでのようなものだ。そんな力で妖を粉砕し、召喚を妨害するとは明らかに半神としても人としても過ぎた力だ。」とツラツラ考えていると穏やかな声がした。
「私が怖いか?まぁ、今更だが、こんな物騒な力でも役に立つのなら、使わない手はないな。今まであった被害についてできうる限り調べてまとめたものがあるから持って来る。」
と言って半神は一度部屋を出て行った。
土地神は、そんな半神の背中を見送った。