彼女は偵察に向かう
一条警視が警視庁 捜査一課に突撃訪問をかますニ週間ほど前、一族の巫女たちとミヅキの間でこんなやり取りがされていた。
「偵察ですか?」
「そう。偵察。今回は必要な気がしないか?あの国は、特に神の加護が強い。前回、それが証明されてる。それに私たちが持つ巫女の力に対抗する術を持ってても不思議じゃない。今まで偵察なしで救出を成功させてたのが正直、本当にすごいというか、奇跡まではいかないんだろうが。行き当たりばったりでよくやったよなぁ。」
「まぁ、確かにそうですね。そういえば、あちらにも転移の術があると記憶してます。それを封じられてしまうとこちらも救出が難しいかもしれなせん。」
「あっちの王城ってやたらと魔法使用の禁止区域が多いんですよね?なんか道具使って物理的に封じてるとかなんとか。」
「前回の時、転移無効の術式がかけてあったとか。その術式を無理矢理、抵抗させて転移したので体力、気力ともに消耗が激しかったと記録にありました。今回も抵抗できるかも分かりませんし、要注意ですね。なるほど、確かに偵察する必要がありそうです。他の能力も……となるとさらに厳しいですね。それに前回もそうでしたが、今回も警備が多く配置される可能性が高いです。敵戦力を確認した方が救出できる確率は上がるはずです。」
「そういうことだ。まぁ、私としては術式うんぬんの確認よりか、敵戦力の確認を中心にしたいところだ。おそらく、警察から何人か救出に参加する者がいるだろうが、そう何人も連れて行けないし、あんまり敵が多いと囲まれた時が厄介すぎる。銃火器をこっそり持って行ったとしても数が多いのでは意味がない。帰った後の弾薬の減りの言い訳も面倒だ。ここは敵戦力の配置を調べて、できるだけ戦闘を避けるのが妥当なところだろう。というわけで行ってくる。」
で、偵察が行くことが決まった一週間後、ミヅキは"狭間の番人"に手引きしてもらって被害者女性のいる異世界にやってきた。
ちなみにいつもの救出では、術式のを解析して詳しい場所と時間を割り出すのだが、やつ……召喚を行なった者たちがさっさと術式の痕跡を消してしまったため、それができなかった。なので、"狭間の番人"に手を借りる必要があった。まぁ、今回は彼もこちら側だし、界の干渉が違反にならないとかなんとか。とにかく、界を渡る分には問題なさそうだ。
さて、現在、この世界では被害者女性が召喚されてから、四日目に入ったところだという。彼が被害者女性に内密に手紙を送ってから、さらに時間経過速度を落としていて、ミヅキたちの時間稼ぎをしてくれている。
ミヅキがいるのは王城から、一キロほど離れた道路の脇道である。もう日が落ちているので周りに人がいても怪しまれていない状況だ。
周りを見渡して結界や転移無効術式の様子を確認していくとなんとまぁ、
「……ずいぶんと頑丈にできてるなぁ。王城内では、抵抗できないか。被害者女性を連れて王城の敷地から出ないと界渡りもできないな、これ。あの神の嫌がらせか?それとも、界渡りも転移の範疇なのか。いずれにせよ、救出の難易度が上がったのは確かだ。」
結界は干渉すればなんとかなる。ウチは結界の干渉は得意だから。転移無効が厄介すぎる。王城は敷地がとても広い。東京の某野球スタジアムが何個入るのやら。直線距離で突っ走ったとしても結構な距離を走ることになりそうだ。被害者女性は社長令嬢で明らかに運動していなさそうな体型をしている。それを走らせるのには気がひけるし、絶対足手まといになる。となれば、
「いっそのこと、救難員を引き入れたい。……でも、無理だな。陸自の管轄じゃない。被害者女性を担いだまま数キロ移動するなら、それなりの体格がないと。機動隊員でもなければ、一課の人間では荷が重いな。うちの部下でも呼ぶか?」
ぶつぶつ言いながら、移動を開始する。とりあえず、王城を城壁沿いに回ってみる。怪しまれない程度、離れたところを歩いているから、目算でしか分からないが、だいたいの距離が分かる筈だ。
それから、高い塔の上に転移してみる。王都内全域に転移無効の術式はかけられているが、王城ほど強くなく、さほど苦労せずに抵抗できた。
ここから、城壁から王城の建物までの距離を目算する。やはり、少なく見積もっても、二キロ以上はあるようだ。
さらに転移して城壁のギリギリの距離まで接近する。そこから、王城内の人の気配を探っていく。うーん。多いは多いが、必要以上に多くしているわけではないようだ。多くしすぎても、統率ができなくなるから。でも、統率できるギリギリまで警備を多くしているのは確かで、救出する以前に侵入方法を考えないとこちらが危ないかもしれない。負ける気などさらさらないが、可能性の話だ。
警備の薄いところを探しておく。本当は、時間をかけてじっくり偵察して、警備の交代時間なども調べたいのだが、そこまではできそうにない。
あぁ、でも被害者女性はどうやら後宮らしいところにいるようだ。状況はあまり良くないな。警備の薄いところの正反対の場所だ。後宮の警備はだいぶ厳重になっているようだ。やはり、銃火器は持ち込んだ方が良さそうだ。
「さすがに結界内まで侵入するとあっちにバレるからなぁ。侵入経路も調べたいところなんだが、難しいな。あぁ、本当に贅沢を言えば、一個中隊は動員したいが、一個小隊が限界か。ままならんな。」
しかも、一個小隊と言っても、警察と自衛隊の混合編成だ。しっかり連携取れるか心配だ。やるしかないが。
しかし、王城の敷地は本当に広い。野球スタジアム二、三個は余裕で入るだろう。こっちに怪我人出さないようにするためには被害者女性にたどり着くまで慎重にかつ、迅速に行動しなければならないだろう。
私が前衛で敵をぶっ飛ばして、他の全員が援護に回るのが望ましいか。あとは帰ってから、作戦を練ろう。とひとりごちたミヅキだった。ここにきて時間切れとなり、大人しくまた"狭間の番人"の手を借りて元の世界に帰った。




