その事件は突然に…2
その日、彼女は非番で珍しく本邸の私室の隣にある書斎にいた。
本条家本邸には、木造建築の母屋と洋館の二つの建物がある。ミヅキの私室と書斎は洋館に設けられている。
ミヅキの手元にはパソコンが一台あり、その画面には大量の文字の羅列が写し出されている。彼女はそれをすごい勢いで読んでいたが、普通の人が読もうとしても読めなかっただろう。なぜなら、それは暗号の類いのものだったから。別に仕事を持ち込んでいたわけでなく、とある国のスパイが本国に送ろうとしていた暗号文をハッキングして読んでいただけである。特に持って行かれたら困る情報は記されていなかったのでひとまずホッとした様子を見せた。
そんな時に来客の報せがあり、暗号文を読むのもひと段落していたのでパソコンの電源を落としてから、応接間に向かった。
そこには、美琴たち一族の巫女、数人と一人の男がいた。ミヅキは、男の顔を見て嫌な顔をしたのだった。
現在、応接間にいるのは、ミヅキ、美琴、あやめ、薔薇、男…慧だ。
あやめは、DVDプレイヤーで何かを見ているようだが、話を進めることにした。
「慧、お前が来たということはなんかろくでもないことがあったんだな?何があった?」
開口一番にそう言った、ミヅキ。それに対し、
「酷いなぁ。こっちも仕事で来てるのに。でも、まぁ、ろくでもないっていうのには同感ですよ。みなさん、一週間前に起きた社長令嬢誘拐事件についてどれくらい知ってます?」
と慧はやけに真剣な表情で言ったのだった。
「犯人はまだ見つかってないことぐらいです。」
と言ったのは美琴で、
「美琴様と同じです。」
と言ったのは美琴の隣に座ってた薔薇だ。
その向かいに座ってDVDプレイヤーで何か見ていたあやめが
「突然消えたって噂あったんですよ、お姉様方。この映像見る限り、本当のことのようです。久しぶりの事件です。」
と言って、くるりとDVDプレイヤーを半回転させ、皆に映像が見えやすくしたのだった。
「えーと、被害者の名前は清宮環奈さん。21歳。女性。清宮商事の社長令嬢です。婚約者とラブラブでリア充爆発しろな感じがデフォルトだったそうです。事件後、その婚約者さんの憔悴ぶりに捜査関係者がドン引きしてました。」
「最後の言う必要あるか?」
とミヅキが言うと
「まぁ、まぁ、あるかもしれないし、ないかもしれない。少なくとも俺は関係あると踏んでます。勘ですけどね。あやめちゃん、術式の解析結果お願いします。」
「はーい。結果ですけど、あれです。正妃召喚ばっかするアホな国でした。被害者さんに命の危険は当分ありませんよ。命はね。」
あやめはどんよりとした空気を発した。
ギリッ
「あの、横恋慕好きなどうしようもない性悪野郎な王が治める阿呆な国ですか。世代が変わってもその性悪さは、治らなかったということでしょうね。」
薔薇さんの目が据わっている。
「ふふふっ。神の加護が強すぎて呪詛がかの王と血族にかけられなかったのが悔やまれます。結局、前回は王を半殺しの上、散々罵って、脅して鬱憤晴らすぐらいしかできなかったとか。召喚の研究施設も破壊することは叶わなかったそうですし。」
美琴さん、目が笑ってないよ。
慧は少女たちにツッコむことができなかった。
周りで物騒な空気が発せられている中、ミヅキは一人、何か考えているようだった。そして
「あのさ、話変えるようで悪いんだが、一応確認しておきたい。清宮って安倍の分家の清宮のことじゃないか?」
陰陽師と接触したくない面々にとっては、その場を凍りつかせるには十分な一言だった。




