彼女は教育する2
「本条一佐は、未だに男装していらっしゃるんですね。」
と出会い頭に言う彼に私は、ニッコリと微笑んだ。
無事に元部下の上官の説得ができたので元部下…結城蒼一尉と合流した。合流していきなりの失礼な発言だったから、思いっきりどついてしまった。でも、彼の言うことはすごく正しい。入隊後、数ヶ月で男装生活を始めてうん十年。結城一尉は私の女装姿を知る数少ない元部下だった。
私の男装姿は「背の低い男性にしか見えない」と定評があり、誰もツッこまない。というか、初見で女性と見抜ける人がとても少ない。周りの誤解を解かないまま、職務を遂行していたら、男装を止める機会を逃した。
彼が入隊した時には私も男装していたけど、色々あって女装姿を披露することになった。その後からは、何かあるたびに男装云々の話をしてくるのでウンザリしていた。直属の部下でなくなってもこれである。変わりないようでちょっとは安心した。失礼な言動は謹んでもらいたいが。
さて、教育の助っ人として呼んだのだから、私の足をひっぱるなよ。と軽口叩くと彼はいい笑顔で頷いた。
一尉も私も元はそこそこ優秀な狙撃手だ。お互い視力は2.0以上あり、狙撃手の素質には問題なく、銃火器ならなんでもござれな感じだ。ただし、体格の問題で狙撃の技術がなかなか上がらず、お互い苦労することになったのは今ではいい思い出である。
今回教育する彼らの視力は平均1.0なので狙撃には向かなくとも、拳銃、サブマシンガンの使用には問題ないはず。急所ばかり当てるのは何か理由があるんだろう。
彼らには一尉の前でもう一度撃ってもらう。
「見事に急所ですねぇ。なんか、銃撃スタイルが完成されてる気がするんですが、直せますかねぇ、これ。本条一佐、一度見本見せました?見せてないなら、一度見せて下さいよ。急所外し得意でしょ?」
銃撃スタイルってなんだと思いながら、一尉の話を聞くと、そういえば見本見せてなかったと思い、おもむろに拳銃を手に取った。
銃声がすること数回、的の肩や両手足の関節部分にはしっかり銃創痕が残っていた。
「"これぐらい出来なくてどうします?"って顔してるとこ悪いんですけど、本条一佐、ちょっとやり過ぎっていうか、撃つの早すぎてあんまり参考にならないっすわ。それにいくら犯人を撃つこと想定するなら関節部分撃つのはアウトですよ。多分。本当にやったら始末書で済まない気がします。」
今度は俺がやります。と一尉が拳銃を構えた。
彼が撃った場所は強いて言うなら、二の腕と太もも辺りだ。中心から少しずらして撃ったようだ。
「犯人相手ですからね、大きな血管を避けて撃ったつもりです。人間、ちょっと多く血が流れただけで動けなくなるもので事件のことですぐにでもお話ししなきゃならない時にそういうのは困るでしょ?ってことです。できれば、ちなみに本条一佐の撃ち方は戦場でなら、有効です。ここは戦場じゃないので完全アウトです。犯人も元は一般人ですしね。」
と言って結城一尉はこちらを見た。
分かった、と頷いて補足説明をしていく。
戦場で敵兵に会ってしまった時にとる行動は三択、殺すか、生け捕りにするか、無力化して鹵獲をするだけして放置する。自衛隊としては一番目はありえない。今のところ。三番目は放置してる間に死なれたら、夢見が悪いからやっぱりない。実質、生け捕り一択だ。まぁ、捕虜の量産だな。そして、捕虜が解放されて国に帰った後、戦場に戻って来られないようにするため、積極的に関節を撃って壊す。今は、医療が発達してるから、時間稼ぎにしかならないけど。
と、まぁ、こんな感じで口頭で説明していたら、あっという間に一日が終わった。ので、本格的に癖を矯正する作業に入るのは翌日からとなった。
一尉を連れだって食堂に向かう。
「本条一佐、初日からこんな感じで大丈夫ですか?かなりグダグダでしたけど。」
「んー、まぁ、ちょっとダメかな。でも、そのための一尉だし。」
「はぁ、分かりましたよ。どうせ、そう長くここにはいられないんでしょうから、協力させていだだきます。」
「おー、いい返事だ。頑張ってくれたまえ。」
そんな会話をした翌日からは、二人は癖を矯正する作業に手こずった。あれこれ試してダメだったので、結局のところ教育される側に多大なトラウマを残すようなやり方で見事、矯正に成功したのだった。
その後、彼女は早々に練馬駐屯地を後にし、人事交流人員の教育の旅に戻っていった。ちなみに他の人事交流人員はすんなりと受け入れ、技術を吸収してくれたのでトラウマを植え付けられることはなかったという。




