もう一回
火星のドームシティで暮らしていた私は、友だちとバギーでラリーをしているときに事故にあってしばらく意識が戻らなかった。
生命保険金が高額おりて、目覚めたら成金になっていた。
友だちは私のお金を使って、ギャンブルや火星上空を飛ぶ太陽電池式の飛行艇乗船や貴金属の買い漁りやありとあらゆる「遊び」を私とした。
「お金は無限にある訳じゃないよ」
他の、忠告してくれる友だちもいた。
地に足がついていない状態の私は、「遊び」に誘われるままに毎日振り回されていた。
頭が現状についていけない感じで、流されていた。
そして、やはり、お金が足りなくなる時が来た。
「遊び」回っていた友だちはつまらなそうに私から離れていった。
「美嘉ちゃん」
いつか忠告してくれた友だちと再会した。
「尚ちゃん。私のこと笑いに来たの?」
ひねくれた私はまっすぐ尚ちゃんの目を見ることが出来なかった。
「美嘉ちゃん。今、きついよね?」
「・・・うん」
「本当に生きてるっていうのがどういうことなのか、今だったら感じるんじゃない?」
「・・・どういうこと?」
「苦境に立っているときに自分の本当の姿が見えると思うんだ」
私はよくわからなかった。
「火星の貧困層の生活は、本当に生きるか死ぬかが現状で、美嘉ちゃんたちがやっていたことは雲の上の出来事だって思ってる人たちが沢山いるわ」
「よくわからないけれど、今、まだお金に余裕があったら、そんな人の願いを叶えてあげるんだけどなぁ」
「ものすごい傲慢なんだね」
「そんなつもりじゃないよ!ただ、できるならお金の使い方を間違えたくないって思ってる」
「後悔してる?」
「後悔はしてない。『遊び』だけじゃなく、火星の軌道エレベーターの建設にカンパしたり、お金がなくて進学できない人のために募金したり、誰かがこれが欲しいなって思っていたことで賛同できるものにもお金を使ったから」
「もう一回」
「?」
「もう一回お金持ちになったら、やっぱり同じことをするのかな?」
「それは・・・」
私には自信がなかった。
尚ちゃんは自分の通帳を私に見せた。
そこには天文学的数字が記載されていた。
「私もお金の使い方を間違えたくないけど、どうしたらいいか途方に暮れていてね」
「この金額、どうしたの?」
「地球に住んでた祖母が亡くなって、土地や建物の処分した分が入ってきたの」
「すごいね」
「私も、知り合いとかに贈り物をしたら、逆に疎遠になったりして、本当にお金の使い方って難しくて」
「ないほうが幸せなのかな?」
「それは一概に言えないよ。本当に考え抜いて使ったらきっと素晴らしいことができるはず」
私たちはしばらくおしだまって考え込んでいた。
「もう一回」
「?」
「もう一回、お金がなかった頃の生活をして考えてみたらどうだろう?」
「そうだね。そして、地に足を着けてしっかりと考えられるようになってからどうするか決めようか」
尚ちゃんと私は、たった今から元の自分に還ろうと誓いあった。
〈fin.〉