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「一緒にエルフの国へ行こう」


「・・・ですが」


「そして、私と結婚し、子供を育てよう」


「・・・へ?」



リイム王女は、僕の顔を覗き込んでくる。


ぐぐっと腕を組んでいる力も強くなる。


香水の匂いなのか、甘い匂いも強くなる。






「しまった。ついクルトと腕を組めたからと舞い上がってしまった」


「・・・えっと」


「言ってしまったものは、しょうがない。回りくどいことは止めよう」


「・・・」


「エルフと人間の共存。それのさきがけとして、王族である私は人間の男と婚姻を結ぶことにした。その方が国民の理解が早いからな」


「・・・」


「だが、人間の男だから誰でも良いわけではない。私も女であるからな。好きな男と、愛し合いたいのだ」


「・・・」


「クルトのことは、アイネリアで初めて見かけたときから気になっていた。女王からも誰からも紹介されない王子。城内で見かけてもいつも一人でいる王子。いつも悲しい目をしている王子。それがクルトだった」



リイム王女はさらに体重を僕にかけてきて、支えきれなくなった僕はそのまま横に仰向けに倒れた。



僕にくっついていたリイム王女は、そのまま僕に覆いかぶさるようになる。



女性に押し倒されて、下から女性を見上げるなんて。


それも、絶世の美女といっていいほどの、エルフの女性。


潤んだ青い瞳は、僕を吸い込んでしまいそうだった。




「私は初めてクルトを見かけた日から、アイネリアに行くたびに思った。クルトが笑った顔が見たい。一緒に話をしてみたい。そんな気持ちが日増しに強くなり、気づけばクルトのことが好きなんだということに気づいた」


「・・・僕のことが、好き・・・?」


「そうだ。一目ぼれというやつかもしれん」


「・・・」



リイム王女は完全に僕と密着した。


僕より少し背の高いリイム王女の顔が、僕の顔の真横にある。


吐息が僕の耳を少し刺激したことから、こちらを向いていることが分かる。



リイム王女、軽いな。


完全に体が密着しているのに、重苦しさを全く感じない。


胸が僕の体で潰れているが、結構大きいのに、それでも軽いなんて。




「今日会いに来るのも、王や側近には止められたが。自分が好きな男を迎えに行くのに、本人が行かない訳にはいかないだろう?それで自分からきたのだ」


「・・・王女ですから、みんな止めますよ」


「ふふ。クルトが好きだと分かってから、私はハリボテの王女は止めたんだ。騎士団に入り、5年かかったが騎士団長レベルまで登りつめた」


「・・・5年で?・・・すごい」


「ありがとう。これもクルトのことを自信を持って迎えに行くためだった。だが、まさか16歳で城を出るとは思ってもいなかったがな。18歳の城を出る直前にアイネリアに交渉しに行こうと思っていたのだ」


「・・・」


「実はな、ここでクルトに声をかけるとき、かなり緊張した。エルフだと怖がられたりしないか、私を拒絶しないか、などな」



ふふ、と少し声を漏らしたときに吐息が僕の耳にかかる。


くすぐったさを感じたが、リイム王女の温もりが僕を包んでいたため、ささいなことだった。





「いきなりなことで、気が動転していることだろう。とりあえずでいいから、私の国に行かないか?そこでゆっくりと考えてもらい、答えを出してもらって構わない」


「・・・ですが」


「気を悪くさせてしまったら申し訳ないが、クルトがこのままのたれ死んでしまう可能性を、私は危惧している。ならば、私の国に来てもらい、私の目の届く範囲で生活してもらいたい。なんせ、愛している男だからな」


「・・・愛、してる・・・」


「また王族になるのが嫌なら、市民として暮らしてもらって構わない。結婚したらまた王族になってしまうからな。だが、クルトの決断に対して、私は強制しない。それでも、会いに行ってしまうと思うがな」


微笑まじりで言うリイム王女が、頼もしくも可愛くも思えた。


言っていることは、正しいのかも。


このまま外の世界にいても、僕は死んでしまうだろう。


金の使い方も何もかも分からないのだから。


世間一般の常識が分からないのだから。



それならば、エルフの国に行くのもいいのかもしれない。




リイム王女のことも、もっと知りたいと思った。


こんなにも僕のことを思ってくれていたなんて。


アイネリアでは、考えられないことだ。


愛情が真っ直ぐに、僕に向かっている。










「・・・」


「クルト、泣いているのか?」


「・・・」



僕は泣いていた。


これが、愛情なのだろうか。


こんなにも僕のことを考えてくれているなんて。


それが嬉しかったし、初めてのことだったし。




「クルトは一人じゃない。孤独じゃない。私がいる。」


「・・・はい」


「普通の生活を提供しよう。普通に生きよう。クルトにはその権利がある」



リイム隊長は体をずらし、僕の顔を胸に抱いた。


僕はそのままリイム隊長の体に腕を回し、抱きついた。


そして、泣いた。


こんなにも泣くのも、初めてのことだった。












「いいんだ、全て涙を出してしまえ。これからは、笑って暮らすんだ。これまでクルトはよく頑張った。よく耐えたんだ」


「・・・僕が、頑張った・・・?」


「クルトは普通の人間、普通の王族とはかなり違う生活を強いられてきたんだ。端から見れば分かる。クルトは頑張った」


「・・・うぅ・・・うぅ・・・」



頑張ったなんて言われたことも、初めてだった。


余計に涙が出る。


初めてのことばかり。


これが、外の世界なのだろうか。




僕は、涙が止まるまでリイム王女の胸で泣いた。


僕を優しく包み込むリイム王女の体温が、心地よかった。


頭を優しく撫でてくれる手も、すごく安心した。



これが、愛情ってやつなのかな。

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