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そういえば。


城下町に出たのも初めてだ。


ていうか、城から出たことが。



街の景色。


本に描いてあった景色と、同じだ。


午前中から活気が溢れている。


それだけ、この国が栄えているということだ。


せわしなく動く人たち。


平民の人たち。


そして、平民以下の僕。



誰も僕が元王族だったなんて、知らない人たち。


僕のことなんて目に入らない人たち。


みんな、生活しているんだ。


生きているんだ。














アイネリア城下町入り口


城下町の入り口まできた。


兵士が二人立っていたが、僕が通っても何も言わなかった。


・・・僕が元王子だって知っているはずだから、かな。













城下町を出ると、草原が広がっていた。


通行路には草は生えていなかったけど。



歩く。


目的もなく歩く。




目に見える、生きた世界が、目に痛かった。














しばらく歩いていくと、分かれ道の前まできた。


看板に書いてある地名が、分からない。


・・・しまったな、地図くらい街で買ってくれば良かった。



とりあえず、右に僕は向かって歩いた。
















気づいたら、森に入っていた。


森か。


これも絵でしか見たことのないものだ。



今日は天気が良かったから、太陽の光がまぶしかったけど、森だと木がさえぎるから、目に優しかった。


木の匂いというか、自然の匂いも、心地いい。















川があった。


僕は川の前までくると、しゃがんで水をすくってみた。


冷たい。


それに、透き通ってる。



2時間くらい歩きっぱなしだったので、喉が渇いていた僕は川の水を飲んで、喉を潤した。













川の近くの大木に寄りかかって座った。


小鳥のさえずりや、風が木の枝を揺らして鳴る葉の音を聞いていた。


自由なんだ、今の僕は。


もう城の中だけの生活じゃない、今の僕は。




でも、こんなんでやっていけるのか。


対人関係なんて、隣国のナル姫くらいだったし。


そんな僕が、やっていけるのだろうか。













すぐに悪い方向に考えるのは僕の悪い癖だ。


思考ループに陥るし。


・・・ふぅ、と小さくため息をつくと、人の気配を感じた。












「クルト王子だな」


「・・・」


気配の目をした方に目を向けると、女性の騎士と思われる姿を見つけた。


どこの国の人だろう。

見慣れない服だった。



その人は僕に近づいてきた。


僕は、立ち上がった。













「もう一度確認するが、クルト王子だな」


「・・・違います」


「そうか、クルト元王子だったな」



この人、エルフだ。


耳が長くて、異様に肌が白い。


おまけにすっごい美形だ。


本で読んで知っている知識しかないが、エルフって滅多に人間に姿を見せないものなんじゃないのか、という疑問を感じた。






「警戒しなくてもよい。まぁいきなりエルフが現れたら警戒するのも止む無しだが」


「・・・」


「こんな格好をしているが、私はエルフの国の王女、リイムだ」


「・・・王女?」



リイムと名乗ったエルフの女性は、手を伸ばしてきた。


あまりにも自然で、僕は避けようとなど全く思わなかった。


敵意が、感じられなかった。












「私はクルトのことを知っている」


「・・・」



リイム王女は、僕の手を握ってきた。


滑らかで綺麗で長い指は、僕の手をしっとりと包み込んだ。


今まで、女性に手を握られたことは無い。


それだけで、僕の心臓の鼓動は少し早くなった。






リイム王女は、エルフとアイネリアの親交の深さから、なぜ僕を知っているかを話してくれた。


人間と共存する計画を進めているため、何年かに一度アイネリアを訪れていたらしい。


そのときに僕のことは紹介されなかったが、何度か城内で見かけたらしく、それで僕のことを知っていた、と。


今日城から出て行くことは、諜報部の兵士から聞いて知っていたこと。




・・・僕はリイム王女が城に来ていたこと自体、知らなかったわけだけど。


・・・女王制の王子じゃ、そんなもんなのかな。











「・・・大体の状況は分かりました。では、なぜ僕に声をかけたのですか」


「城を出て、行くあてはあるのか?」


「・・・考え中です」


「良ければ、エルフの国に来ないか」


「・・・え」



確かに行くあてはない。


このまま何も出来ずにのたれ死ぬ確立の方が高い。


一般市民の生活がどのようなものか分からないし、狩りの仕方、火の起こし方、料理の仕方、金を稼ぐ方法、何も知らない赤子のようなものだ。



もう王族ではない、ただの人間。


世間知らずの、ただの人間。


それならば、いっそ、違う種族の国に行くのも良いのかもしれない。


そこで、一から始めるのもいいかもしれない。













「座ろうか」


「・・・」



リイム隊長に促され、一緒に大木に背を預けて、並んで座り込む。


リイム王女の問いに対して黙っていた僕に、気を使ってくれたのかな。












「・・・あの」


「なんだ?」


「・・・初対面にしては距離が近いのですが」


「私は何度も顔を見たことがあるぞ」



普通に肩があたっていた。


何が問題なんだ?と、さらに腕を絡めてくるリイム王女。


その豊かな胸の感触が、僕の腕を誘惑する。


やわらかい。


そして、暖かい。


・・・いや、考えることはそんなことではない。

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