表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

ついに僕が城から出て行く日になった。


リムの態度がおかしくなってから、1ヶ月。


とうとう、この日がきた。



・・・僕はあのとき、リムに何もしなかった。


兄として、家族として、言葉をかけなくてはいけないのではと思ったが。












家族と思われていないのなら、それも意味がないことだろうと判断したからだ。












クルトの部屋



午前9時。


10時には城を出て行くように、と前日兵士の人に言われた。


・・・昨日の晩、母上と父上、結局最後も会いに来てくれなかった。


・・・少し期待していた自分が、馬鹿らしい。












30分ほどで準備は終わる。


元々、部屋には何もないに等しい。


小さな机に本棚、ベッド、衣装棚。


部屋も小さいしね。



一応、母上からということで、新しい平民の服や靴一式、護身用の剣、荷物を入れる大き目の麻袋、路銀をもらった。


・・・それも兵士によって手渡された。



最後くらい、来てくれてもいいんじゃないの。


僕は、あなたから生まれたんじゃないの。











どうして、どうしてこんなにも、僕は孤独なのだろう。












そして、なぜ、当たり前のように冷め切った感情で、客観視できるのだろう。











謁見の間



部屋を出ると兵士がいて、謁見の間に行くよう言われた。


最後の手続きがあるのだという。













部屋に入ると、玉座に母上、その横に父上、反対側にリムがいた。


僕は玉座のあるところより、10数段低い段差の前で片膝をついた。












「おはよう、クルト」


「・・・おはようございます」


「昨日はよく眠れた?」


「・・・はい」



母上はいつも通りの表情で、挨拶から話題を切り出した。


・・・そのいつも通りさが逆に、僕を悲しくさせた。


結局、「いつも通り」なんだね、僕が出て行くのは。





「今日でクルトとも会えなくなるのね。寂しいわ」


「クルト、強く生きるんだ」


「ふんっ・・・」



母上、父上、リム。


リムはそっぽを向いているが、手は握りこぶしを作っている。


何かを必死に我慢しているように見えた。





「最後にね、手続きをしなきゃいけないの」


「・・・はい」


「クルトがもう王家の人間ではなくなること、この国に生きている間は出入りできないこと、そして」











「私たちとは、家族ではなくなるということ」










「さらに、これらのことは他言無用。その旨を了承して、この書類にサインしなさい」


「・・・はい」



僕が返事をすると、側近の初老の男が書類とペンを僕の前に差し出してきた。


この人は、審議会の人だ。


女王制に固執し、王子を遠ざけるもの。



顔を見たら、心底嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


嬉しくてしょうがないのか。


僕が城から出て行くのが。











サインをしようと、ペンを取る。


迷いはない。


色々書いてあるが、母上の言ったことそのままだろう。


僕の名前を書くだけだ。


名前を。













手が震える。


なぜだ。


もう決心したはずなのに。


元々家族ではない人たちと、本当に家族ではなくなるだけだというのに。










震える手で、なんとか名前を書いた。


名前を書いた瞬間、大臣が僕から紙をすぐに取り上げた。


まるで証拠を押さえた瞬間のように、さらに嬉しそうな顔をして。











両脇から突然、兵士が僕を拘束した。


行け、というさらに嬉しそうな顔をした大臣の声が聞こえたかと思うと、僕は謁見の間から引きずり出された。













城門



城門まで辿り着くと、兵士は僕を投げ捨てた。


・・・そっか、王族じゃなくなったんだもんね。


それにしても、いきなり、だなぁ。





ご丁寧に僕の荷物まで引きずってくれていたので、傍らに同じように投げ出された荷物を掴み、立つ。



もう、終わりなんだなぁ。


本当はあと2年はいられた、アイネリア城。


僕の最初で最後のわがままで、16歳で出て行くことになったアイネリア城。



睨んでいる兵士の視線が嫌だったので、城門から立ち去ろうと歩き出した。












「兄上」


「・・・リム」










小さな声が、はっきり聞こえた。


振り返ると、リムが立っていた。


兵士は驚きの表情で立ち尽くしていた。












「兄上」


もう一度僕を呼んだ声は、最初と変わらなかった。


「・・・なんだい、リム」


僕はいつも通りの返事をした。


「兄上は馬鹿じゃ」


いつも通りの罵倒の言葉。


「・・・ごめんね」


いつも通りの返事。













「もう兄上ではないのじゃな」


「・・・そうだね」


「・・・」


「・・・」













沈黙。











「・・・リム、もう兄ではないけど、兄として一言だけ言わせて」


「なんじゃ」


「・・・もう少し、肩の力を抜いて、母上や父上に甘えてもいいと思うよ」


「それだけか」


「・・・うん」












リムは僕に背を向けて、城内に入っていった。


どうして、来たのだろう。


どうして。


・・・別れが惜しかったのかな。


・・・いや、そんなことはないな。


・・・ありえないよ。












僕は歩き出した。


城下町に出て、振り返り、城を見る。



そういえば、外から城を眺めるのは初めてだな、なんて思った。



・・・早く街を出なければ、くせものとして警備に当たっている城の兵士に追い掛け回されてしまう。




行こう。


これから、何が起こるのかわからないけど。













僕は城下町の入り口まで、もう振り返ることなく歩いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ