プロローグ
無償に眠気を感じる。身体はとっくに動かせなくなっていた。温度も感じることができす、冬の外だと言うのに寒くすらないのだ。
「ああ、これは死ぬんだなぁ……」
特に意味のない独り言が漏れてしまう。まだ辛うじて喋ることができるのか、喋ったつもりなのかもわからなくて、やっぱり意味のない笑みがうかんできた。
「■■か、■■ひ■■た■■■く■■■!」
近くで誰かが叫んでいる。残念ながら耳は確実に正常ではないようだ。結構な声量だろうに飛び飛びにしか聞こえないのだから……
ふと、目の前に影が落ちる。そうして初めて自分が仰向けに倒れていることに気付いた。我ながら鈍いんじゃないかと落ち込んでしまいそうだ。目も霞んではいるが、見えなくはないので影の正体を探る。
最期の瞬間に目にするのは誰だろうと言う感傷だ。目の前にいたのは悲痛な表情を浮かべる母親に連れられた幼い少女だった。まだ、誰かが死ぬのに慣れてはいないような年齢だろうに、周りの雰囲気からか、少女は泣きそうな顔をしている。
「……笑って、くれないか?」
それが、自分の命を犠牲にしてでも助けた俺への報酬だと、細やかな願いを口にする。言ってからちゃんと伝わるのかが心配だったが、暫くして少女は笑顔を見せてくれたので結果オーライだ。
「■■■■■」
ああ、眠い……人生の最期が、助けた少女の笑顔とお礼の言葉に送られるのも悪くない。
それが、若くして命を落とした少年の最期だった。後日、少年は通り魔から少女を助け逮捕に貢献したとして本人死亡のまま表彰された。