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主人公、死にます

一話はつまらない、と思う

 主人公、死にます。


「ふう、やっと終わった。疲れたー……」


 今日の仕事が終わり、宗は帰路についていた。

 空は既に暗く、今通っている道には街頭なんてものはなく、照らすのは空に浮かぶまん丸の月だけだ。

 

 宗は黒いスーツを着ていたが、彼の気持ちを表しているかのように、よれよれだった。

 左腕には仕事で持って行く鞄を持ち、右手にはコンビニで買った夕食の弁当が入った、ビニール袋を持っている。

 宗は、不細工といわれるような顔をしてはいない、平凡な顔だ。

 しか、今の宗は仕事の疲れで、顔が少し垂れさがって不細工のように見えた。

 

 疲れの溜まった身体を引きずるように、彼は家に向かって歩く。

 その足取りは非常に重かった。

 歩く中、今から家ですることを思い出す。

 家に帰ったら、風呂入って湯上りのあとに飯食ってテレビを見ながら酒とつまみを食べ、そして、寝て。

 

 それが宗にとっての日常だし、仕事帰りに行う楽しみだ。

 家でやることを考えていると、やっとアパートが見えてきた。


「やっと家か……」


 今までの疲労から解き放たれることに、宗は楽になることで深いため息を吐いた。

 すると、後ろから走って来る足音が徐々に聞こえてくる。

 この道は人通りが非常に少なく、まして走って、足音からはランニングのように一定ではなく、全力で走っているようだ。

 

 普通なら、気になることなんてない。

 だが、宗はいつもとは違う気持ちを、足音が迫って来るたびに徐々に高まってくる。

 心が不安な、落ち着かないような、嫌な感じだ。

 宗が振り向こうとした時、後ろから誰かがぶつかって来た。

 その体当たりはそれほど強くはなく、踏ん張ることが出来た。

 首だけを振り向くと、そこには黒いフードを深く被った男が、こちら見ながら震え、ひどく小さな声をずっと呟き、その声もまた触れていた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 ぶつかった男と目が合うと、その男の瞳は揺れ、急いで去っていく。

 その後ろ姿を見ると、途中でこけそうになったり、焦っていることが分かる。

 なんでぶつかってくくるんだよ、と心の中で愚痴を言うと、そのぶつかった所を右手で触ると、濡れるような感触があった。

 

 水を掛けられたか、と思って自分の右手を見ると、その手は赤く濡れていた。

 あれ? これってもしかして、血?

 背中から流れているものが血だと気付いた時、景色がぼやけ、気が遠くなり、倒れる。

 

 地面に倒れた時の痛みはそれほど感じず、身体が麻痺しているみたいだ。

 あれ、だんだん眠気も……

 宗は地面に倒れると、誰も通らない道で息絶えた。

 その死体は血と共に消え、最後の彼のことを知る者はほとんどおらず、その肉体もどこにあるか知る者もほとんどいない。

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