第九章「由愛の目的」
「由愛・・・!」
俺の目の前にいるのは紛れもなく由愛。
俺をこの世界に呼び寄せた(と思われる)少女。
「何でココに・・・」
「頑張ったお姉ちゃん達に会いに来たの」
屈託のない笑顔。
「丁度良い。俺もお前に聞きたいことが山ほどある」
「良いよ。教えてあげても」
由愛は意外とあっさり答えた。
「・・・え?」
「何?聞きたくないの?」
「いや・・・」
あまりにあっさりし過ぎている。
俺は呆気にとられてしまった。
「もっとこう・・・条件とかあるんじゃないのか?」
「ううん。ないよ。欲しいの?」
「いや、いらないが・・・」
後ろを見れば要までもが呆けている・・・。
ってコイツはいつも呆けてるようなもんか。
「では私から質問させてもらおう」
俺の肩から聞こえる野太い声。
「何故貴様が支配している?」
「簡単な話だよおじさん。私のそれだけの力があってこの世界がそれを認めた」
由愛は特に表情を変えるでもなく、淡々と話した。
「私でもわかる簡単な理屈だよおじさん」
流石のベルゼブも黙っている。
「これだけ?」
「いや、俺が聞きたいのはそんなことじゃないんだ」
そう。
俺が聞きたいのはそんなことじゃない。
ぶっちゃけ夢幻世界がどうのこうのなんて俺にはどうでも良い。
どこを誰が支配しようと俺の知ったことじゃない。
自己中心的かもしれないが今の俺の素直な意見だ。
俺が聞きたいのはただ一つ。
「いつ元の世界に帰してくれるんだ?」
「だから、げーむで勝てば良いんだよ」
「そのゲームと言うのがわからない。勝利する方法も、ルールさえわからないゲームにどう勝てと言うんだ」
「しょうがないなぁ」
こっちの台詞だ。
「これはね。私を・・・。由愛を探すげーむ」
「実はね、参加してる人はお姉ちゃんだけじゃないの」
要を見ればそれはわかる。
「何人もの人が参加してる。夢幻世界の中の様々な世界を廻って私を探すの」
「ココにいるじゃないか」
「ココにいる私は私じゃない。今私が喋っているのは本物の由愛の考えと同じだけどこの私はげ、げ・・・げ・・・」
「鬼太郎か?」
「そうじゃなくて・・・・げ・・・」
「幻想か」
ベルゼブが答える。
「そう!げんそう!」
ゲが三つと言えば鬼太郎だろう。
という俺の考えは間違っていたようだ。
「とにかく、今の私はげんそうなの。本物じゃない」
「だから、本物を探し出せば良いんだよ?」
「様々な世界って言ったよな?夢幻世界には幾つも世界があるのか?」
「そうだよ。色んな人たちのイメージが集まってこの世界は出来てるの。でも全部のイメージは一つの世界には収まらないから小さな世界がいっぱいあるってことなの」
この娘は馬鹿なのか賢いのかわからない。
「簡単でしょ?」
突飛なところを除けばな。
「世界には絶対に一つは他の世界に移動する方法があるからそれを使って私を探してね」
一応理解。
しかし良く出来た話だ。
まるでテレビゲーム。
セーブとコンティニューは出来ないけどな。
「それと最後に一つ」
「何?」
「目的は何だ?」
「もくてき?」
「暇つぶしだよ。私が・・・」
「私がこの世界を現実にするまでの」
「!?」
この世界を現実に・・・。
っつーことは元の世界が消えるってことか!?
「私の準備が整った時、夢は現となるわ」
無駄に難しい言葉知ってるな。
由愛の姿は薄れていく。
「おい!待て!」
「あ、一つ言い忘れてたけど。私を見つけたらこの世界で願いが一つ叶うんだよ。私の力で」
「だから、いずれ消える世界に戻るって願いはやめた方が良いよお姉ちゃん♪」
かなりヤバいことをサラッと笑顔で言うと由愛は消えた。
「マジか・・・」
俺はついさっきまで由愛がいた場所を見つめる。
「なんということだ・・・。奴にあのような目的があったとは・・・」
「夢幻世界の住人としてはたまらないわね・・・」
と、しばらく黙っていたミントが口を開く。
「何でだ?」
「バランスが崩れるのよ」
「バランス?」
「そう。この世界は元々現実世界の人たちのイメージで成り立ってるのよ。この世界でも当然破壊は起こるし、寿命が来れば世界の一つくらい簡単に壊れるわ。でも、この世界で起こせるのは破壊だけ。建物や武器を作ることは出来るけど、世界は作れない。創造の役目を持つ現実世界が消えるってことは創造と破壊のバランスが崩れちゃうのよ」
かなり長い説明どうもありがとう。
大体はわかった。
「つまり、由愛は止めなきゃいけないってことだな」
「そういうこと」
「こうなりゃやるしかないな要」
「え?あ、うん・・・」
ぎこちなく返事する要。
「どうした?」
「ううん。何でもない。頑張ろう!」
微妙に様子がおかしい気もするがまあいい。
呆けてただけだろう。
「んじゃ早く他の世界に移動しないとな」
「そうだね」
「美奈」
「ん?」
ベルゼブは俺の右を指差した。
機械のようなものが置いてある。
二人くらいは入れるかな。
「あの中に入れば良さそうだな」
「うん」
ゲームみたいに都合の良い移動方法。
例えこれが本当にゲームだとしても。
俺達がそのゲームの中のキャラクターでしかなくても。
「今はココが俺のいる世界だ」
「え?」
進むしかない。
「どうしたの?」
「なんでもない。行くぞ」
「うん」
俺の考えは、夢幻世界に来たばかりの時とは大幅に変わっていたようだ。
今自覚した。
続く