第八章「オーガ」
「要!」
「美奈ちゃん!」
要が左肩を押さえながら走ってくる。
息も荒い。
「ベルゼブ。説明してくれ」
「私にもよくわからん。突然あの男が襲ってきたのだ」
俺が要の肩からベルゼブを自分の肩に移した。
ミントは「大丈夫!?」と要の方へ飛んでいった。
男が肩を押さえながら俺を睨みつける。
「貴様・・・!」
「何だよ?」
俺は男を睨み返した。
「タダで済むと思うな」
一瞬男の横で空気が動いた気がした。
「美奈!下がれ!」
ベルゼブが叫ぶ。
突然のことだったため、俺はすぐに下がった。
「出ろ。オーガ」
男がそう言うと男の横に黒く、巨大な影が現れた。
その影は少しずつ色をつけていく。
影だった時ほどではないが黒い肌。
ボサボサに伸びた髪。
鋭く、赤く光る瞳。
その瞳には狂気が宿っているようだった。
太い腕。
太い足。
太いと言っても勿論贅肉ではなく筋肉。
腰の布以外は裸という露出狂まがいの格好。
そして握られた棍棒。
勿論トロールの持っていた物よりも大きい。
「要、ありゃクマさんの仲間か?」
「ううん。ライオンさん」
落ち着け要。
ライオンは直立しないぞ。
「オオオオオオォォォォォォッ!」
「ライオンさん唸ってるぞ要。何か失礼なことしたのか?」
「きっと美奈ちゃんに唸ってるんだよ」
何故か納得した気分。
「やれ、オーガ・・・!」
ドォン!
オーガと呼ばれた怪物が一歩歩くだけでこの音。
「やってらんねえよ・・・・!」
俺は落ちていた刀を拾い上げ、構えた。
「来いよライオン。俺が相手だ・・・!」
「オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!」
さっきより余計に唸ってません?
トロールの時は刀で棍棒を斬れたが今回はそうは行くまい。
避け中心だな・・・。
さあ、来い!
俺は左に避けるつもりだった。
「オオオォッ!」
ブン!
だが奴が振ったのは・・・・
「横振りかよ・・・」
間一髪しゃがんで避けた。
後、0.5秒遅かったら死んでた・・・。
とりあえずこちらから攻撃しないと話にならない。
俺は奴に斬りかかった。
刹那。
ドゴォッ!
「かは・・・ッ!」
見事なまでの威力の蹴りだった。
口から血が出たのがわかる。
内臓の一部が吹っ飛んだような感触。
ヤバい・・・死ぬ・・・・・。
「美奈ちゃんッ!」
「美奈ッ!」
ベルゼブの声が下から聞こえる。
落ちたのかお前。
そんなことよりもヤバい。
意識が薄れる。
死に・・・そう・・・
「・・・う」
声が聞こえる。
小さな声。
今にも消えそうな声。
「・・・う」
最初が聞こえない。
大きな声で頼む。
「こ・・・」
「・・・・晃」
ああ、そうか。
俺の名前。
俺の・・・・名前?
晃・・・?
美奈・・・・?
呼んでいるのは誰だ・・・?
「・・・晃」
「・・・美奈」
「美奈ちゃん・・・!」
え・・・?
目を開けた俺の視界に入ってきたのは心配そうな表情の要とミント、そしてベルゼブだった。
「要・・・?」
「・・・うッ!」
起き上がろうとすると体に激痛が走る。
「無理しないで、まだ治りかけなんだから・・・」
要が倒れそうな俺を支える。
段々と状況がわかってきた。
洞窟。
謎の男・・・。
「そうだッ!アイツは・・・・!?」
俺はキョロキョロと辺りを見回した。
男も、化け物もいない。
「・・・。状況を説明してくれ」
「アイツ、美奈ちゃんを殺したと思ってどこかへ行ってしまったの・・・」
「目的は・・・わからなかったのか?」
「うん・・・」
要がうつむく。
「ベルゼブ、あの化け物は何なんだ?」
「恐らく奴のパートナーだろう」
「嘘はやめとけ」
「嘘ではない。奴は私と同じ感じがした。それに、パートナー以外では説明がつかん」
確かにな。
俺はゆっくりと起き上がった。
「そういえばなんで治ってるんだ?」
「それは、ミントが」
俺はミントの方を見た。
「要に頼まれただけなんだから!」
何故キレる。
「まあ、ありがとな」
俺は軽く礼を言うと、スカートについた泥を払った。
何か・・・慣れた。
この格好も体も。
「それとね、アイツ、コレを落としていったよ」
要が持っていたのはもう片方であろう宝石だった。
「何でアイツがそんなもん持ってんだ?」
「さあ・・・?」
都合が良すぎるのが気になる。
落としていったのではなくあえて落としたのでは・・・?
とも考えたがとりあえず今はどうでもいい。
「ミント、獅子の目にさっきの宝石を入れてくれ」
「うん」
ミントは獅子の右目に宝石を入れた。
「じゃ、こっちはあたしが・・・」
続いて要ももう片方を入れる。
ガコン・・・
何かが外れる音がして、扉が開く。
「・・・!?」
扉の向こう。
小さな人影。
「お疲れ様。お姉ちゃん」
続く