第三章「密林と謎の少女」
「なあベルゼブよ」
「なんだ?」
「どこだココ」
「知らぬ」
意外と無知だな我がパートナーよ。
由愛が指をならして、そこから先がよくわからない。
気がつけばココにいた。
青い空。
白い雲。
緑の樹。
ってか樹ばっかだなココ。
「森・・・か?」
「密林の方が適切だな」
密林・・・ねえ。
俺は腕を組んで考える。
違和感。
む、胸かッ!?
それまで状況がアレだったから気にしてなかったが今俺女だったんだ。
胸に手が伸びる。
触ってみたい・・・。
・・・。
ベルゼブが見てるからやめよう。
誤魔化すために俺は胸ポケットに手を突っ込んだ。
「ん?」
何かある。
俺はソレを取り出した。
「どうした?」
「学生証・・・?」
「そのようだな」
名前の欄には「美奈」とだけ書かれている。
「・・・みな?」
「その姿の名であろう」
「美奈・・・ねえ・・・」
俺そんな名前だっけ?
芸名みたいなもんだと思っておこう。
ちなみに俺の名前は河合晃で間違いないよな。
「とりあえずお前のことは美奈と呼ばせてもらう」
「了解」
この姿で晃とか河合とか呼ばれるのは嫌だから承諾せざるを得ないな。
「で、由愛は俺たちを密林に飛ばしてどうする気だったんだ?」
「さあな」
「ゲームとか言ってたが・・・。何か関係あるのか・・・?」
「さあな」
そればっかじゃねえか。
ホント無知だな我がパートナーよ。
「お腹空いた」
「ココは密林だ。果物か何かがあるだろう」
「探しに行くか」
「そうだな」
とりあえず状況を整理。
まずココは夢幻世界と呼ばれる世界。
次にその夢幻世界を支配しているのが由愛という少女。
そしてココは密林。
やっぱわけわかんねえ。
「美奈。アレはどうだ?」
ベルゼブが指差した方向には赤い果実が樹からぶら下がっていた。
りんごのようだが巨大な苺にも見える。
結局なんだかよくわからないが食べられそうだ。
「んじゃ、一つもらうとするか」
俺は果実に手を伸ばした。
甘い匂いがする。
ガブッ!
「がぶ?」
「ベルゼブ、何か噛んだか?」
「いや。それより美奈。手が赤いぞ」
「果実の汁じゃね?」
「にしては鉄分を含んでいる気がするが?」
何で液体の成分がわかんだよ。
まあ。
血だもんね。
見りゃわかるよね。
「噛むッ!この果実噛むッ!何コレ!?噛むッ!」
勢いあまって三回も噛むと言ってしまった。
「落ち着け美奈。死にはせん」
「手がなくなるって!手が!俺の手!」
ブンブンと俺は手を振り回す。
ガン!
俺は噛まれたまま果実を樹にぶつけた。
果実はつぶれて俺の手は無事だった。
血は出てるけど・・・。
「ベルゼブ・・・」
「なんだ?」
「食欲なくなった」
「だろうな」
「由愛の奴・・・。果実で俺を奇襲しようとは・・・」
「それは違うぞ美奈」
「ん?」
「夢幻世界とは元々個人の想像が寄り集まってできた世界だ。その果実も密林も誰かの想像の産物だろう」
妙に納得できる。
それにしても由愛は一体俺に何をさせる気なんだろうか・・・。
ピチャ・・・
「ベルゼブ」
「何だ?」
「何か水の落ちる音しなかったか?」
「したな」
「1、雨が降り出した。2、化け物のよだれ・・・。どっちだと思う?」
「無論2だ」
「そうだな。だって後ろで唸ってるもんな」
グルルルル・・・・!
「次の選択だ」
「うむ」
「1、クマ。2、謎の怪物」
「無論・・・」
バッ!
俺は後ろを振り返った。
「2だな」
巨大な花だった。
しかし花と呼ぶには少し無理がある。
鮮やかな花びら。
長い触手。
そして、口。
「何でココの植物全員口があるんだよッ!」
ヒュッ!
触手が俺を捕まえようと伸びてくる。
俺は咄嗟にソレを避けた。
「危ねッ!」
「ベルゼブ!逃げるぞ!」
「うむ!」
「走るから落ちんなよ!」
俺は肩に乗っているベルゼブに落ちないよう注意した後すぐに走りだした。
ガッ!
「!?」
樹の根が・・・。
足に引っかかった・・・!
無論こける俺。
「痛!」
シュルルルルルッ!
足に触手が絡みつく。
「ちょッ!ベルゼブッ!ヤバいッ!」
「美奈ッ!」
「おわわわわわわわッ!」
怪植物は俺をそのまま持ち上げる。
宙吊りで・・・!
「わー!馬鹿馬鹿ッ!こんな服着てるのに宙吊りにされたら・・・ッ!」
ス、スカートがァーーーッ!!
俺のスカートなんて考えると死にたくなるけど今はそれどころではない。
「む!?」
ベルゼブは肩から落ちていく。
もうちょいでめくれる・・・じゃなくて喰われるッ!
そう思った時だった。
ザクッ!
触手の千切れる音がする。
「え・・・?」
そのまま地面に落ちる俺。
ドシンッ!
「いたた・・・」
俺の落ちたところにはちょうどベルゼブもいた。
良かった、つぶさなくて。
「さ、今のうちに逃げよ!」
いや、誰だよお前。
俺でも、無論ベルゼブのものでもない少女の声がする。
俺はとりあえず立ち上がってベルゼブを肩に乗せた。
「さ、行こ」
「うわッ!」
俺は謎の少女に手を引かれ、密林を駆け抜けた。
続く