第十八章「由愛の過去」
生まれなければ良かった
生まれさえしなければこんな思いはしなかったのに
私は何故生まれてきたの?
わからない
友達なんていない
親だっていない
あるのは毎日の食事と寝る場所
そして冷たい視線
みんな私を気味悪がってる
さようなら
私が死ねば良いんでしょう?
でも
ただじゃ終わらないから
由愛
ココは・・・・?
真っ暗だ。
何も見えない・・・。
っつーか俺ってホントに存在るのか?
変な意味じゃなくて・・・
この真っ暗な空間に俺は存在しているのかってことだ。
良いよ。見せてあげる。私の記憶
由愛から最後に聞いた言葉を思い出す。
じゃあこれは、由愛の過去?
「またココにいたのか?」
・・・。
「食事の時間だ。こっちに来てみんなと食べなさい」
「嫌」
「そんなことだからいつも一人きりなんだぞ?」
「私は、一人が良いの」
「・・・・。食事は残しておくから、後で食べなさい」
そう言って男はこの部屋から出て行った。
私はこの部屋が・・・暗闇が好きだった。
誰もいない。
私だけ。
一人だけ。
孤独な空間。
誰にも邪魔されない。
私だけの空間。
食事は後で、一人でしよう。
あんなやつらとは食べたくない。
私は、物心ついた時からこの建物の中にいた。
私が私について知っているのは由愛という名前と両親がいないということ。
苗字すら私は知らない。
この養護施設と呼ばれる建物の中には私と同じ境遇の子供達が沢山いた。
みんな仲が良かった。
私も最初は中に混じって遊んでいた。
ココには玩具も友達も、世話をしてくれる大人もいる。
その時の私にとってはまるで楽園だった。
家族を私は知らないけど、きっとココにいるみんなは家族にとても近いものだと思っていた。
ある日のことだった。
私が庭でみんなと野球をしている時のことだった。
外野を守っていた私は、相手チームの男の子が打ったホームラン級のボールを追いかけていた。
ボールは私より速く、かなり遠くで落ちた。
既に男の子は三塁からホームへ向かっている。
「由愛ちゃーん!急いでー!」
間に合うわけがない。
わかっていた。
それでも私は走って行った。
ふと思う。
ボールがこっちにくれば良いのに、と。
ビュッ!
何か白いものがこちらに飛んできたと思えばグローブの中にボールがあった。
「・・・」
私はボールをホームに向って投げた。
当然アウトには出来なかったけど私はさっき起きた不思議なことで頭がいっぱいだった。
ボールが自らこっちに来た。
あのボールは魔法のボールなのかとも思った。
それとも自分が魔法使い?
私は確かめるために食事の時、スプーンを呼び寄せてみた。
手が届かない位置にあったスプーンがひとりでに私の手に向って動く。
不思議・・・。
カシャーン!
その時、皿の割れる音がした。
「お、お前・・・今何したんだよ・・・?」
野球の時の男の子だった。
「私ね!魔法が使えるんだよ!」
私はその時うっかりその子に喋ってしまった。
「ば、化け物・・・」
「え?」
「みんな!化け物だぁぁぁッ!」
彼はひどく怯えていた。
混乱していたのだろう。
私のことを「化け物」と叫びながら逃げた。
その同様は他の子供達にも伝わった。
気づけば、私は一人だった。
親しかった友達も私を避けるようになり、優しかった大人達は私に冷たい視線を向けるようになった。
寂しくて寂しくて、私は一人で泣いた。
涙でも前も後ろも、右も左もわからなくなって、気がついたらあの部屋にいた。
暗くて、何もない。
逆に安心した。
ココなら誰にも会わなくて済む。
夜。
そろそろ夕食の始まる時間。
ガチャリと、ドアが開いた。
「こんなところにいたのか・・・。みんな待ってる。こっちへ来なさい」
違う。
この人は私を心配してない。
なんとなくだけどわかった。
この人の感情が伝わってくる感じ・・・。
イライラしてる。
私が来ないから。
「嫌」
「みんなが待ってるんだよ!?」
「待ってない。化け物の私が待たれるハズがない」
「何を言って・・・・」
「こっちへ来ないでッ!」
「・・・・。わかった。じゃあ勝手にしなさい」
言われなくてもそうする。
あんなに寂しい思いをするくらいなら、最初から誰もいない方が良い。
こうして過ごすようになってからどれくらいが経っただろう。
最近では食事の時間に大人も来なくなった。
私は好きな時にこの部屋を出て、食事だけはする。
後はずっとこの部屋で過ごす。
何も楽しくないけど、何も辛くない。
そんな私の唯一の楽しみは、夢。
夢を見ている時だけは幸せになれる。
あの頃に帰れる。
いつも見るのは楽しかったあの頃の夢。
みんな仲が良くて、毎日が楽しかった頃の夢。
そして、唐突に現実に戻される。
ああ、夢が現実ならどんなにか・・・・。
次第に夢を見る時間は伸びていく。
食事もほとんどとらなくなった。
現実何ていらない。
そうだ。
いっそ死んでしまえばずっと夢の中にいられる。
死のう。
死んで夢の中に行こう。
そうすればきっと私は幸せになれる。
そう思った翌日、私は目を覚まさなかった。
楽になったんだ。
そう思った。
でもいたのはいつもの夢の中じゃなくて、白い世界。
何もない。
これじゃ色が違うだけで現実と同じ・・・。
「君は不思議な力を持っているね?」
「誰?」
「僕は君のパートナー」
「ぱーとなー?」
「そう。この夢幻世界では僕は君のパートナー」
「ふーん。興味ないわ」
「それより、君のその不思議な力で君を虐めた現実世界の奴等に復讐しないかい?」
「そんなことできるの?」
「できるさ。君の力なら」
私はこの時、コイツの口車に乗せられたのだろう。
この忌々しい力はこの支配無き世界、夢幻世界を支配するのに最適だったそうだ。
そして奴の言うようにあっさりと、私はこの世界を支配した。
というよりは、操れるようになった。
そして一つの世界を創ったり消したりできるようになった時、私はこの世界を支配したことを実感した。
「すごいじゃないか由愛。君の力はこんなに素敵なんだよ」
「ありがとう。あなたのおかげよ」
「ふふ・・・」
「そういえば名前を聞いてなかったわ」
「僕かい?僕はリベリア」
「そう、リベリア。これからもよろしくね」
「ああ。由愛、後はこの夢幻世界と現実世界を混ぜて素敵な世界にするんだ」
「素敵な世界?」
「そう。君の支配する素敵な世界。でもただ創るだけじゃつまらない。ついでにゲームをしようよ」
「げーむ?」
「そう、かくれんぼさ。昔よくやっただろ?現実世界か二人ほどこの世界に連れてくるからさ。そいつらと君がかくれんぼするんだ。君が見つかれば現実世界はそのまま。君が見つからなければ夢幻世界と現実世界は融合。面白いゲームだろ?」
「でも負けたらどうするの?」
「心配はいらない。不安なら君の力で殺し屋でも創って追いかけさせれば良い。それに、見つかっても融合させれば良いだろ?僕が見たいのは必死で頑張ってた奴が敗北して絶望するところさ」
こうして私は要と、美奈に出会った。
続く