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推論

 途中で見つけた小川でパワードスーツを洗っていた。


 ここに来るまでは緊張感から解放されたのとショッキングな出来事で思考が追いついていかいことで、言葉少なく歩いていた。無骨なパワードスーツ二体でトボトボと歩く姿は、第三者的に見ればシュールな光景だったと思う。だが、問題はそれをみる第三者がいないことが重要だった。


 スーツごと小川にざぶざぶと入りヌルついた体液や、網目状の触手のような粘膜を洗いはがしていく。白い粘膜は川の流れにのりどこかへ消えていく。張り詰めていた思いが弛緩していくと口が軽くなっていく。


「……夏木さん。このロボットは丸洗いOKなんだよね」

「そうね。 ……いい加減ロボットって言い方を改めてくれない? TAHS(タス)と呼びなさい。あと馴れ馴れしく喋らないで下さい。貴方とは便宜上一緒にいるだけですから」

「左様ですか。」


 夏木さんは俺に喋るときは刺々しい口調になる。


 ――社長には猫なで声になるくせに


 巨大ミミズに襲われている時の悲鳴を録音しておいて聞かせたいぐらいだな。

 夏木さんも同様に洗っていくが腕の可動が背中まで回らないので背中に付いている粘膜は上手く剥がせないようだ。操り人形のように不器用に動いているのが滑稽だ。


「それよりどうなってると思います? 俺はこの世界は日本じゃないと思いますよ。あんな生物見たこと無いし…… 地形は日本の酷似してますが、道路どころか人工物すら見当たらない。夏木さんの見解は?」

「……そうね。貴方の足りない頭ではそれくらいしか思いつかないかしら」


 夏木さんはここに歩いてくる途中にあるものを発見したようだった。それはコンクリートが風化した構造体のようなものが地中に埋まっているのを見つけたらしい。


「どうしてそれを早く言わないんですか? 掘り返してみましょうよ」

「このヌルヌルしたものを一刻も早く落としたかったからよ! 何よりもTAHSのセンサーに生体反応が近づいてきたの。 ……形状やパターンを読み取ると例のヤツよ」

「例のって…… あの巨大ミミズ?」

「そう。半径3kmにかなりの数の生体反応が表れてるけど、人間では無いようね。幸いにもこちらに接近してくる個体は無いみたいだけど」


 俺は急に周囲が気になりだしキョロキョロと見渡した。ただ、可視できたのは目の前を流れる小川と平坦な大地に生える雑草ぐらいなものだけだった。


「あの巨大ミミズは何なんですかね? あんな気持ち悪い生物、生まれて初めて見ましたよ。朝日が登った時にマジマジと見ましたけど目のようなものもついてましたね。ミミズじゃないんですかね?」

「……さあ」


 夏木さんは自分で処理できる範囲を洗い流して俺に背中を向けた。


「菱木君。背面を清掃してくれない? ……それでさっきの続きだけど」

「続き? コンクリートが風化した後がどうのって」


 夏木さんが考えるには、恐らくここは日本であるが、時間軸がずれているのではないかとの推論を述べてきた。つまり、なんかの拍子に未来へ飛ばされたのでは? とのことだ。


「風化した痕を地中レーダー探査を行ったところ人工的な空間や鉄筋が確認されたわ。それは、事前に教えてもらった自衛隊駐屯地の建物と同じ配置。ただ、崩落している感じのところも多いので恐らく廃墟、遺構ってところでしょうね。 ……考え難いし、あり得ない話だけどそれぐらいしか考えられないのよ」

「本当に!?」

「……分からないわよ。もっと細かく調査してみないと」


 信じられないが、目の前に広がる光景や今までの出来事を考えるとそれも納得してしまう。

 夏木さんはボケっと歩いているようで、(せわ)しなく調査しながら歩いていたようだ。デキる女の違いを見せ付けられるようだ。

 ふと、TAHSのインジケータに目をやるとバッテリー残量が40%付近になっている。前夜のうちに充電していたので少しは戻っているが、残量は心許ない。このままここにいても埒があかないな。


「取り敢えず社長と合流して善後策を考えるとして…… バッテリー保つ?」

「厳しいわね。帰り道は登りも多いし、あの崖も迂回しないといけないから」

「ここでビバークですか? 参ったな。あのミミズさんと(たわむ)れるのは遠慮したい」

「少し戻りましょう。ここに来るまで沿って歩いていた川がいいわ。バッテリー残量20%になるまで安全そうなところを探しましょう」


 夏木さんはTAHSの左腕に付いているコンソールパネルをいじりながら周囲を見渡す。

 俺は山刀をざぶざぶと洗い、洗い残しが無いか太陽の光を反射させて確認する。同じく粘膜まみれになったツェルトを洗いTAHSにマントのように引っ掛けて移動中に乾かせるように準備を整えた。


「じゃあ行きますか」


 俺達は行動を開始した。

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