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戦闘用パワードスーツ

 俺は土砂崩れの山を超えて川まで水を汲みにきた。足元はあまり良くないが歩けないことはない。


 ――おっ! 魚発見。結構魚影が濃いのかも


 場違いではあるが山篭りをして渓流釣りを趣味とする俺としては見逃せない。

 気にはなるが、今はプラティパスの折りたたみの水筒に水を汲む。合わせてジップロック袋に水を入れてしっかり口を締める。これは発熱してる岩田さんの水嚢代わりに使う。

 辺りを見渡し、あまり濡れていない枯れ枝や松の枯葉を集めた。

 ベンツの近くまで戻るとアスファルトの上でタープを広げ、そこに座った。


「なにやってるっすか?」


 佐古田が手元を覗きこんでくる。


「麻縄をほぐしてワセリンを馴染ませてるんですよ。これを火口にします」

「ふ〜ん。それで?」

「焚火をしようかなと。救助で発見しやすいでしょうし、暖まることもできますしね」


 焚火を起こすと石で(やぐら)を組んで飯盒に水を注ぎ火にかけた。


「それはなんすか?」

「お湯を沸かしてチャイでも飲もうかなって。カ□リーメイトって喉乾くでしょ?」

「そうっすね。なかなかやるっすね菱木さん。でも水って川の水でしょ? お腹壊さないんすか?」

「だから煮沸するんですよ」


 湧き水では無い限り、川の水は動物の糞や死骸なんかで汚染されていて、そのまま飲むのはお勧めできない。

 社長が近寄ってきて焚火に手をかざしてきた。


「菱木は用意がいいな」


 俺は社長に岩田さんの状況と救助のことを相談した。




 社長は携帯電話を取り出し(もてあそ)


「そう言えば携帯のGPSを起動させてみたが反応しなかったな」

「山間部で衛星が掴めないんですかね……」

「菱木は大体の場所は分かるか?」

「そうですね。自衛隊基地まであと20km程度だと思いますよ」

「俺もそう思うっす」


 横から佐古田も口を挟んできた。

 社長が考えながらトレーラーを見つめる。


「夏木君。あれ動かせるか?」

「……あれをどうするんですか?」

「ここにいても埒があかない。状況も掴めない。あれで助けを呼びに行ってもらう」

「待っていれば救助が来る筈ですが……」


 社長は空を指さしながら続けた。


「今は11時。我々と基地との連絡が途絶えてから約10時間経っている。異常をを感じたらヘリが飛んでくるはずだが一切影も形もない。天候が回復してからもな」

「ですが……」

「君の言いたいことも分かるが異常事態だ。動かしてくれ。ここから基地まであと20km。道路があれば2時間もかからん」

「分かりました。でもトレーラーのバッテリーが上がってます。オペレーティングシステム用の電源も積んでいるので大容量な筈なのでこんなこと考えられませんが」

「手動で動かしてくれ」

「……分かりました。誰が乗ります?」

「君と菱木だ」


 夏木が信じられないといった感じで目を見開いた。


「えっ! 彼はただの運転手ですよ? それに私はエンジニアです。兵士ではありません」

「我慢してくれ。私は責任者としてここを離れられん。彼はこういった感じのことに強そうだし、道も分かる。ただあれに何かあった時に君がいないと困ったことになる


 夏木は不服そうな顔をしながらトレーラーに近寄っていった。

 何かのパネルを操作するとバクンとトレーラーの後ろの箱が開いた。箱はガルウィング状に横から開くと中から人型のものが2体、斜めに寝かされていた。


「社長、これなんすか?」


 佐古田が目を輝かす。


「これは自衛隊に試験導入する予定の戦闘用パワードスーツTAHS(タス)だ」

「うぉカッチョいい! 俺子供の頃からロボットとかに憧れてたんすよね」

「……これは機密事項なので見たことは口外しないように」

「まかしといてくれっす。俺は口固いっすよ。」


 佐古田がフラフラっとパワードスーツに近寄って触ろうとすると夏木がその手を(はた)いた。


「ちょっと勝手に触らないで」

「いや〜いいじゃないっすか。ロボットをよく見せてくれっす」

「これはロボットじゃないわ。戦闘用パワードスーツTAHS(タス)、Tactical Assault Hyper Suitよ」

「タスっすか。カッコイイっすね。でも背が高いっすね」


 TAHSを見ると2mちょいあり全身を覆うような感じの装甲とフルフェイスヘルメットになっていた。


「あれっすね。あのアイアン男とかに似てるっすね。いや、あのゲームのHEL◯を彷彿とさせますね」


 夏木は佐古田を無視して何かをいじくっている。


「菱木君。ちょっとこっちに来て」


 夏木が菱木を呼んだ。


「え〜。ズルいっす。俺も乗ってみたいっす」


 相変わらず夏木は佐古田を無視している。


「菱木君の手をここに置いて。登録するから」

「登録って?」

「このTAHSを動かすのに機体登録しないと動かせないのよ」


 ATMの機械のようなものに手を乗せるとピッと音がなった。


「登録完了したわ。乗って」


 TAHSのどこかを押すとカチャッと音がなり本体のの中心線から横に割れた。

 菱木は恐る恐るTAHSに触る。


「これ俺が乗るの? なんか怖い。ちゃんと脱げるの?」

「バカな事言わないで。誰が作ったと思ってるのよ」

「知らない。俺運転手だし。研究所のことは一切しりません」

「バッテリーが上がっても脱出ボタンを押せば勝手に脱げるわ」


 夏木が色々と説明していくが殆ど頭に入らない。

 TAHSを装着すると目の周りを覆っているガラスに色々な数字や文字が表れた。体の各部から細かい音が聞こえてきて適度に締め付けられていく。


「いい? 分からなかったら口に伸びているインカムに向かって喋って。TAHSのヘルプ機能が動くし、私が誘導するから。」


 夏木も準備を終えたようでもう一機のTAHSに乗り込んだ。

※チャイ

 チャイは茶を意味する言葉。狭義には、インド式に甘く煮出したミルクティーを指す。世界的には、茶葉に香辛料を加えたマサーラー・チャイを指す。なお、ロシア語、ペルシア語、トルコ語でも茶を「チャイ」という。 Wikipediaより

 作中では香辛料を加えたミルクティーの事を指します。また。ミルクパウダーは脱脂粉乳ではなく油分が入っているバターミルクパウダーです。普通のミルクパウダーだと味がすかッすかになります。


※プラティパス

 水筒を出しているブランドの一つです。折り畳めて手のひらサイズになります。湯たんぽにも氷嚢にもなり、ハイドレーションシステムにもなります。また高い耐久性もあります。欠点としては、口が細いので完全に乾かすのが困難で、手入れにはコツが必要になります。

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