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帰る方法

「で、何持ってきたのさ」


 俺は不機嫌さを隠さずに夏木さんに聞いた。不信感の塊が胸に巣食っている。スパイっぽいことをしていると告白されたが、まだ隠していることが多いのでは無いかと斜に構えてしまう。


 あれから俺達はその場から逃げ出し、人の手が入っていなさそうな山中に入り込んだ。

 そこまで来ると夜も更け、疲れきっていたのでろくに見張りもせずに眠りこけてしまった。

 もちろん少なくなっていたTAHSの充電のための気球を上げている。見つかる可能性もあり、危険ではあるが、割り切りTAHSの警戒システムに頼むことにした。俺達に接近するモノが半径2kmに圏内に入ったところで警報が鳴れば、即座に起きて迎撃体制を整えられると信じよう。

 それよりも俺達の体調を崩してポカをしてしまうほうが問題だと思う。


 結局、何事も無く夜が明けた。早くに目覚めた俺は、ツェルトから抜け出し山肌から湧き出た水を見つけて身支度をしていると夏木さんも起き出してきた。あれだけ銃を乱射して大勢撃ち殺していたのに、全く普段と変わらなかった。そのことも夏木さんを今迄の俺の人生で関わったことのない、得体の知れない底暗さを感じてしまう。


 夏木さんが村から抜け出してきた時に、TAHSが持てるだけの荷物を担いで逃げてきた。それだけの荷物をよくまとめられるだけの時間があったと思ったが、走るのに必死で聞き咎めるのも(はばか)られた。


 夏木さんは俺の不機嫌さを諸共せず、脳天気な声色で「じゃーん」と言いつつバックパックや持って来た大きな麻袋を広げた。


「こ、これはお米じゃないですか……」


 数袋ある重そうな米袋を見せ付けられる。中からは玄米が鈍く光り輝いている。


 俺は顔が綻んでくるのを抑えきれずに手を伸ばした。

 それを見た夏木さんは手をパシッと叩いた。


「何すんだよ!」

「あら、これは私のよ。私が命を張って取ってきたのよ?」

「それを言うんだったら、あんただって俺が取ってきた食料を何も言わずに食べてただろ!」

「ふふーん。今持ってる人間が強いのよ」


 夏木さんはチラ見させた米袋をしまいこんだ。


「……食い物の恨みは怖いですぜ?」

「まあ、しょうがないわね昨日は何も食べてないから1食分だけは分けてあ、げ、る。 調理は任せたわよ」


 鍋に2合分を分け入れ、他に卵とベーコンのようなものも一緒に取り出した。

 俺はそれを宝物を触るように持ち上げる。


 ――卵はよく割れなかったな


 それはともかく久しぶりにアメリカンな朝食を食べられることに期待が膨らんだ。


「それって略奪なんじゃないの」


 久し振りのご飯を咀嚼しながら思ったことを口にした。

 水にさらさないで炊いた玄米は少し硬く糠臭かったが、ご飯には違いなく山盛りいっぱい頬張った。


 襲って? それとも襲われているところの食料を分捕ってくるのは古来から略奪と言われてる気がする。それとも徴発だっけ?


「でも、アレに襲われたら村は成り立たないだろうし、食べられる人がいなくなっちゃうからね。勿体無いかなって」

「襲われることを前提としてたってこと?」

「そういうこと」


 嘘っぽい。絶対にそんなことないだろう。

 そもそもあの巨大ミミズが襲ってくる気配すら無かったし。巨大ミミズを引っ張り出してくるまでが襲撃者達の計画だったってことか? その計画を夏木さんが知っていたと?

 んなバカな。


「あの襲ってきた奴らは日本軍ってことであってるのかな」

「そうね。その認識で正しいと思うわ」

「そうか…… 俺達はどうすれば良いと思う? 占領された地域があるとはいえ母国がある以上は日本に入ることは可能なのかな?」


 夏木さんはその言葉を聞くとノートPCを取り出した。


「そんなPC持ってたっけ」

「もらってきたの。それによると……」


 サラッと言うがどうせあの村からくすねてきたんだろう。俺がまた突っ込むと使える人がいなくなるとかなんとかって言い出すだろうし。

 そもそもこの世界の文明レベルってどんなんなのか。

 あの村を見た限りだと電気ガスは無かったようだし水道も見られなかった。でも、ノートPCはある。銃器もそれ程変わらない感じだった。

 ノートPCもセキュリティとか個人認証とかでログインできるのだろうか。夏木さんの小憎たらしい顔を見ているとそんなもの楽々と突破してしまいそうで怖い。


「ねえ。聞いてるの?」


 夏木さんが色々喋っていたが上の空で聞いていたら咎められた。


「ごめん。なんだっけ」

「私達が帰る方法があるかもしれないってこと」

「えっ! ……それって」

「それはね……」


 夏木さんはノートPCの画面を見ながら、まるで夏木さん自身がその場にいて見てきたように話を始める。


 それは俺達がこの世界に飛ばされた時から始まった。

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