作戦
「菱木くん、次はあの家の脇に置いてある箱を狙って」
夏木さんは俺に複数の狙撃ポイントを指示を出してくる。
ここから目標までは約900mある。隠してあったブローニングM2重機関銃で狙いをつける。M109対物ライフルはオーバースペックのようだ。
照準はTHASに任せっきりだ。俺がマニュアルで狙っても絶対に当たらない自信がある。風や威力の減退なども計算して当てるなんて芸当は訓練もしたことがないので土台無理な話だ。
それに夕日が邪魔をして視認も難しい。山間部だから日もすぐに落ちて更に狙いにくくなる。
「狙撃地点の入力終わった? じゃあ、私は村に近づくわ。作戦開始時刻は1730ね」
夏木さんはよれよれになったスーツとタイトスカート姿で足元はスニーカーとチグハグな格好で小走りで俺から離れていった。
「行動開始予定時刻ヨリ10分前」
TAHSの無機質なナビゲーションの音声が聞こえてくる。
「ターゲットロックシマシタ。ターゲット周辺デ爆発ガアッタ場合、爆風デ弾道ガソレル恐レガアリマス。ヨロシイデスカ」
よろしいもよろしくないもどうしようもない。
村にいた中国人と村人は村の中心の広場に集められて襲撃した人々がその周囲を固めている。手足が縛られているのか身動きしない。
中には小さな子どもや女性も混じっているようだ。
見張り台には中国人たちと入れ替わり襲撃者達が詰めているようだ。
「又、煙幕ヤ夜間ニ入ルコトニヨリ視界ガ遮ラレルコトガアリマス。着弾観測二ヨル自動修正ガ利カズニ予メロックオンサレタ座標ニ向ケテ発砲スルコトニナリマス」
抑揚がない女性音声は眠気を誘うな。
「美玲ガ作戦配置ニ着キマシタ。作戦開始時刻5分前。作戦ヲ続行シマスカ」
夏木さんの呼称を美玲にしたら本当にそのまま呼んでる。まあ他の名前で呼ばれても困るのだが。
TAHSのフェイススクリーンに映し出されているタイマーがカウントダウンを知らせている。
「作戦開始マデ1分前 ……3、2、1、作戦開始」
TAHSの無機質な音声を聞きながら第一目標に向かって引き金を引いた。
セミオートになっているのでタンッと甲高い音が聞こえかと思うと、標的が爆発して火を吹いている。
――なんだあれ。すげー燃えてんぞ
だが、考えている暇は無く、次々に目標に向かって撃っていく。夏木さんのいる地点から離れていくように順序良く撃っていく。自動照準でTAHSが予め決められた座標に銃口を向けるので振れようもなく、目標に弾が吸い込まれていき、爆発炎上していく。
あの箱は夏木さんが仕込んだのか? それとも爆発物があることを把握してただけなのか。
村のあちこちから火の手が上がり、村の襲撃者達慌てている。一箇所にいる村人達はこの気に逃げ出そうとして撃たれているのが見える。
夏木さんを識別するマーカーは村にスルスルっと入っていき何処かの建物の中に入っていった。
TAHSから警告音がなった。
かなりのスピードで村に向かってくる物体がある。
「ミミズか」
俺がいる方向とは逆方向から近づいてる。
「菱木くん、二号機を見つけたわ! これから離脱する」
「ミミズがその村に近づいてるみたいだけど……」
「了解」
了解じゃねぇ。ミミズが出たら駆除しないと村が危険になるだろ?
村の襲撃者達は身を潜めて周囲を警戒している。ミミズが来るって知らないだろう。
レーダーに映るミミズの影が一匹二匹と増え、相当な数になっている。
昼間の戦闘によるものか今の爆発かが、ミミズ達を引き寄せたのかもしれない。
「俺はそこに行くよ」
「なぜ? ここにもう用はないわよ?」
「村が危険に晒されてる」
「それは、ここにいる村人達がやるべき仕事だわ」
それでいいのか。確かに俺達がいてもいなくても同じ状況に陥った可能性は高いのだが……
夏木さんは建物から出てくる。
目の前には村の襲撃者達がいた。
二号機の手にはブローニングM2があった。夏木さんはそれを構えると思いっ切りぶっ放す。
TAHSのレーダーに映し出された生体反応が次々となくなっていく。
なんでM2を持っているかは良しとしても、そこまで割り切れるって。
襲撃者達は不利を悟ったのか総員退却の様相を見せ、村から出て行った。
それを見た村人達がTAHSを着込んだ夏木さんにまとわりついたが、それを相手にせず何かを手に持ち悠々と村から出てきた。追ってきた村人もいたが発砲し排除していった。
「菱木くん、聞こえる?」
俺は夏木さんの所業に恐れて声が出ない。
「荷物をまとめてそこから離脱できるように準備して。ここもアレが来るし危険だわ」
「あ、ああ。……分かった」
俺は辛うじて言葉を返す。
その数分後には巨大ミミズがその村を襲った。




