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光学迷彩

 その夜。夏木さんは泣いて喜んでくれた。


「そ、そ、それ、ち、ち、近づけないで!」


 腰が痛いのか、腰が抜けたのか尻もちをついたまま後退りしている。

 俺がマムシの尻尾を持ってぶらーんとさせているのが気味悪いらしい。


「もう死んでますよ? 頭も落としてるし。ほら」

「キャー! ちょっちょっちょっとやめて。イヤー!」


 耳がキーンとする。

 カエルは食ったのに蛇は駄目か?


 蛇は皮引きが楽ちんだ。少し皮に切れ込みを入れて引っ張るだけで内臓も一緒に取れて綺麗に剥がれる。それを5cm程度にぶつ切りにして塩コショウして炙る。

 筍は1本を刺し身にして、1本は皮付きのまま焚き火に放り込む。


「ほら夏木さんも早く食べないとエグみが出てきちゃうよ」


 筍の刺身を差し出す。

 俺も醤油をつけて食べる。コリコリと歯ごたえは良いが多少エグみがある。舌がピリピリした感触が残る。これが良いという人もいるだろうがあまり好きにはなれないかな。

 夏木さんも眉間にシワを寄せて食べている。最近は好き嫌いも殆ど言わない。まあ、言われてもお互いどうしようもないが。


 マムシもそろそろ焼けた頃だ。蛇の中でもマムシは美味しい方だ。夏木さんはどう思うか知らないが……

 枝に刺したマムシを一つ夏木さんに渡す。

 流石に原型がほぼないので逃げ出さない。顔が引きつる程度だ。

 俺は当然躊躇なく口に入れる。骨が多いので歯でこそげ落とすように食べる。


「どう? ご感想は?」

「……思ったより生臭くないし、不味くも無いわね」

「おぉ、夏木さんも成長しましたね」

「はぁ? 何よ、偉そうに」


 小骨が取り除くのに忙しそうにしてるので憎まれ口は叩かないようだ。

 マムシが旨いとは言いつつも、叫ぶほど旨いわけではない。普段の生活で食卓にのぼっても積極的に手を伸ばすほどでもない。雀を食べるのと共通する点が多い。小骨とか味とか。

 もう少し塩を利かせたほうが美味しいような気もするが調味料も節約しないといけない。


 筍の丸焼きも焼けたようだ。周りの皮は真っ黒だが半分に切ると中はほっこりと焼けている。筍の節から水分がじゅわっと出てきて熱そうだ。

 醤油につけて食べるがこれもアクが強い。やはり採ってから少し時間が経ったのが行けなかったか。


 まあ、何はともあれお腹はいっぱいになった。筍は炭水化物やタンパク質が豊富なはずなので栄養素的には満足だ。

 明日の朝も筍を掘って食べるか。もう少し食べ方も改善の余地があると良いが……


「明日は人に出会えると良いですね」

「……」

「これだけははっきり言っておきますが、一人で勝手に動かないで下さいね。相手は武装してるんですから」

「分かってるわよ。何回も言わなくても。それに武装だったら私達もしてるわ」


 手元にもったMK16を見る。暗闇に向かって銃を構えてみる。


「そうですね。あんな化物がいるところだから銃を持ってても不思議じゃないのか」


 人がいる。希望はある。だが、それが俺達にとって助けになるかはまだ分からない。不安はある。あるがこの生活は長く続けられない。だから前に進むしか無い。


「さてと、夏木さんは寝て下さい。早く腰が良くなってもらわないとね」


 俺は焚き火に木を()べると火の粉が舞い上がった。


「うーむ。眠い」


 最近、慢性的に寝不足だ。しかも蚊が発生してきてるから余計にだ。

 木にもたれ掛かってうつらうつらしてると耳元でプーンと飛びやがる。


「菱木くんおはよう」


 夏木さんが起きてきた。

 最近は化粧もしない。色々と諦めてるようだ。

 そして、何かの錠剤を飲んでいる。


「おはよう。気になってたんだけど、いつも飲んでるその薬はなんなの?」

「これ? ピル」

「ピルってあの避妊薬?」

「そうだけど。生理があると面倒だし、私、重いのよね」


 そうか。ピルってそう言う使い方があるのか。

 てっきりあんなことやこんなことをするために使うのかと思ってた……


「何よ。その顔は……」


 夏木さんは不審者を見るような目で俺を見てくる。


「いや……女の人って大変だなって」

「ふーん。やらしいこと考えてたんでしょ。ヘンタイ!」


 ……軽口を叩いてくるのは腰が良くなってきたってことだろう。恐らく。


「じゃあ、準備してでかけますか」


 その日の昼にレーダーが反応した。人である。それも10人程度の集団だ。


「……2km先にいるわね」


 夏木さんが後ろを歩いている。


「どうしようか。正面から近づくか?」

「あっちから近づいてくるなら光学迷彩が使えるんだけど……」

「光学迷彩? そんな物装備してたのか!」

「まだ、試験運用中だし。動くとどうしても不自然さが際立つし音で気付かれるわよ」


 それがあるならもう少しやりようがあるはずだ。


「集団の進行方向は分かるか?」

「そうね。4時方向に進んでるわ」

「よし。上手く行けば先回り出来るぞ」


 集団で歩くならわざわざ藪を突っ切っていかないはずだ。歩きやすい獣道や平原を動くと考えるのが自然だ。

 歩きやすそうなポイントを探して待機すればそこを通る確率が増える。こちらにはレーダーがあるし。


 俺達は進路を変えた。

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