着替え
やっと登ったが足はガクガク。
いつもより多く踏ん張らないといけないので辛かった。
で、やっとこさ休憩場所に戻ってきた。
タープを張っておいて良かった。
夏木さんをマットの上に横たわせる。
「いつっっっ」
婆さんのように呻いている。が、呻きたいのは俺の方だ。
俺も腰に負担がかかって痛くなるし。湿ってるし。
着替えると夏木さんの様子を見るために顔を見た。寝転んだ状態から動けないみたいだがこのままではよくないだろう。
「動ける?」
「っ! 無理みたい」
濡れたままだと良くないからね。着替えさせるしかないか。
「夏木さんのバッグ開けるよ。着替えだすから」
「ちょっと余計なことしないでよ」
「そのままで良いの?」
「……バッグこっちに持ってきて」
夏木さんは体を横にむけてバッグをゴソゴソとやっている。腰が痛そうだが根性で補ってるのか。
そんなに俺に触られるのが嫌か?
チラッと見えるがパンツとかパンツとかブラが見える。しかし、残念ながら俺は下着に興味はない。
夏木さんは必死にかばんをひっくり返して気づいてない様子だったが、無事取り出してホッとしたのか俺に気付いた。
「ちょっとあっち行っててよ」
「お手伝いが必要かなと思って」
「貴方が変態なのは知ってるけどデリカシーが無いんじゃない?」
「変態ってなんだよ!」
ちょっと聞き捨てならこと言ったぞ?
「だって……人の体ジロジロ見てるときあるし今だって…… それに寝起きに膨らんでるの知ってるんだからね」
「あんただって見てんじゃねーか」
「あんたって言わないで! さっさと向こうに行って」
相変わらずムカつく女だ。すこーし可愛らしい部分を見せるようになったけど……
少し離れたところで辺りを見渡す。食えそうなものは無い。水もない。
ここで足止めを食らうのは正直勘弁してもらいたい。
「食料調達しくっからな!」
ぼけっとしてても腹は膨れない。水は水筒とペットボトルに入れたものしかないが今日一日は持つだろう。また、どこかで汲んでこなければいけないが近くに川もなさそうだ。
だいたい藪漕ぎして良いことはあまりない。今回のように突然崖になっていることも多い。獣道を歩いたほうが安全だ。ここは森林地帯なので下草はあまり生えていないので歩きやすいところを選んでいく。
「桑の実みーっけ」
桑の木が沢山生えてる。桑の実もたわわに実っている。鳥や虫にやられているのも多いがこれだけあれば可食できる実は多いだろう。
昔、小学生の時に学校で蚕を飼っていたが、生き物係のときに桑の葉を校庭から取ってくるのが仕事だった。ちょうど今頃に実をむしゃむしゃ食べてた記憶が蘇ってくる。黒っぽい実が美味しい。
つまみ食いしながら採取していく。
酸味はそれほどない。甘いがちょっと気の抜けた感じがする。しかし、大事な栄養源だし下手なものを食べるより断然美味しい。
桑の葉も少し摘んでいく。天ぷらにすれば食べられるのだが、小麦粉がないのでどう食べるかは思案のしどころだ。葉脈が少し硬いと思った。
ジップロックいっぱいに取ると手が真っ黒に。
木に手をなすりつけながら綺麗にするとカミキリムシの成虫を見つけた。丁度いいのでこれもついでに採取しておく。
あとはスズメ蛾の幼虫も大量に繁殖している。が、流石に気持ち悪い。俺でも二の足を踏む。たしか中国ではこれを養殖して食べてるって聞いたことがある。
まあ、毛虫ではないので精神的には楽だが。緑色のものや少し茶色に変色しかかっているものもある。
――背に腹は代えられん。これも持っていくか
昆虫類は採取して絶食状態にしておき糞を出しきらないと美味しくないので今日食べるのは無理かな?
ここにいるとスズメバチも多くいる。イモムシ類を狩ってるのか。蜂の子を食べたい気もするが危険か。いやTAHSを装着していけば問題ないか。ハイテクスーツを蜂狩りに使うのも忍びないが……
そろそろ戻っても大丈夫か。
腰が痛いのにお股を拭けるのか。
バカなことを考えつつ戻る途中にハート型の葉っぱを見つけた。
ヤマノイモだよな。
ムカゴを摘んでいく。ヤマノイモの蔓を伝っていくが藪に入り込んでいてどこがどうなっているか、すでに分からない。
諦めるか。あれと格闘するには時間も掛かるし。
一度、夏木さんの様子も見に行かないと。ずっと放っておくのもマズイ気もする。
「何? 菱木くん?」
俺がわざとガサガサ音を立てながら近づくと夏木さんが怯えたような声を出してきた。
「そうですよ。大丈夫ですか?」
一応、見えないところで止まる。タープを張っておいても周囲は見渡せる様になっているからだ。
やはり一人になるのは心細いのか。まあ、体が自由にならなきゃそれもそうか。
「どこ行ってたのよ〜……」
「えっと言いましたよね? 食料調達って」
「……腰が痛いの」
「えっと……判ってますけど?」
この察して頂戴アピールはなんなんだ。
「腰が痛くて履けないの」
「ズボンですか。履くのを手伝えってこと?」
「下着も……」
俺は老人介護者じゃないぞ。手伝ったところで色々と面倒くさいことになるのは目に見えてる。
だが、興味はないこともない。大義名分のもと……じゃない仕方なく、手伝えとお願いされたから。困ったときにはお互い様だな。
「分かりましたよ。手伝えば良いんでしょ? 手伝えば」
「ちょっと見ないでよ」
「痛て! 頭叩くなよ」
「ダメダメダメ! タオルがめくれちゃう」
「ちゃんと拭けてないですよ」
「っ! 手荒にしないで」
「こんなに小さいのに履けるんですかね」
「バカじゃない」
「石で殴るのはやめろ! 本格的に死ぬ」
「触らないでよ」
「だって…… あれ剃ってるの? うぐっ……今、首がぐきっていったぞ!」
「バカ! シネ!」
「なんでスカートなんですか」
「着替えが無いのよ」
「寝間着とか持ってなかたんですか……あれ? ブラもないの?」
「あっちいけ! 痛くてつけられないのよ! バカ! 変態! イタタタ」
「はうっ……ぐっ…… もう手伝わねぇ。ボコボコにされるわ、タマは蹴られるわ。自分のことは自分でしてくれ!」
ふん、でもしっかりと見てやったからな!




