視野狭窄
辺りは粉塵がもうもうと立ち込め視界が効かない。
俺自身は爆発で横倒しになっている。体の上に乗っているコンクリートガラを押しのけて立ち上がる。落下したようなショックを感じて頭がくらくらする。TAHSのボディーアーマー越しでも衝撃は酷い。
「……夏木さん! 何したの?」
「SOHGを2連で放り投げただけよ」
「SOHG?」
「要は収束手榴弾よ。破砕型と焼夷型を連結させたの」
元よりボロボロだった建物だったが爆撃を受けたかのように崩壊している。2階建だった建物は跡形も無い。ついでに階下にひしめき合っていたミミズたちも体液をぶちまけ下敷きになっている。
――女は怖い。視野狭窄に陥った女は何するか分からん。女だけとは限らんかもしれんが
粉塵が落ち着いてくると建物の外側にいて爆風から逃れたミミズたちがこちらに近寄ってきた。
「マズイよ。逃げるぞ!」
俺は丁寧に話す余裕が無くなり地の言葉を使い、上半身を起こしただけで倒れている夏木さんの腕を引っ張り駆け出す。
進路上のMK17を撃ちまくる。包囲は先程よりも落ち着いているみたいだ。
「川に逃げるぞ。川を渡ればもしかしたら追ってこないかもしれない」
「……え、えぇ」
左足のギミックがおかしい。関節が上手く曲がらずにびっこを引くような感じでしか走れない。
夏木さんから取り残されるように走る。
MK17を撃ち、横から襲うってくる奴には銃剣を突き刺す。厄介なのは投網状に放出される触手だか粘膜だ。俺の想定進路にブワッと広げてくる。
俺は立ち止まったり緩急をつけて回避するが、すればするほど包囲されていく。
夏木さんは包囲を抜けたようで逃げていくスピードが増していく。
「な…… ちょっと援護して!」
俺の声が聞こえない筈が無いのに猛ダッシュしていく。
――あの女……
左足の不調が響き上手く動けない。
粘膜がなんども放出されて俺の上半身を絡め取られていく。右手を振るいで避けながら走るが動かなくなっていく一方だ。
――もう少し
銃を撃ちまくるとポッカリ穴が空きそこ目指して転がり抜けると、ようやく包囲を抜けた。
レーダーを見ると最遠部からどんどん赤い影が湧いてくる。あの爆発に反応してどこからか集まってきてるようだ。
びっこを引きながら可能な限り早く走るが夏木さんは視界にいない。相当遠くまで逃げてるようだ。TAHSのデータリンクで現在位置が分かる。すでに川沿いまで到達しているみたいだ。
幸いなことにここ一帯のミミズたちは爆破した建物に集まっていたようで川までの間には影はない。
川につくと夏木さんはすでに渡り終えていて川向うでこちらに向けて銃を構えている。
「置いてくなんて酷いだろ!」
「……グズグズしてるのが悪いわ」
「アンタがM2ぶっ放して俺を撃ったからTAHSの調子が悪くなったんだよ!」
「えっ! ……本当ね」
ちょっと落ち込んだ声をしている。二号機で俺の状態を確認したのだろう。これで修羅場のときに落ち着いてくれれば良いのだが……
川の流れは早い。足が取られそうだ。しかも、左足が上手く踏ん張れないので徐々に下流に押されていく。
「ん? ……あれ? 足が濡れてる。夏木さんこれ防水仕様なんだよね?」
夏木さんを呼び出すが応答しない。なんか念仏のようにボソボソとなにか言っている。インカムの故障じゃないよね?
そうこうするうちに左足が本格的に水没してきた。どこか装甲板ごと傷ついて漏水してるっぽい。
川の水位は胸のところまでなので窒息することはなさそうだがTAHS内部が濡れたらどうなるのか。漏電とかしないのか。
後ろを見るとミミズは水際には近づいていない。
――水は苦手なのか?
川さえ渡ればとりあえず安全を確保出来ると思う。後ろを気にせずにグイグイと渡った。
※SOHG(Scalable Offensive Hand Grenade)
モジュラー式新型手榴弾のことです。爆風効果を追求したデザインで、連結式に出来るため、二連、三連で投げることができ、敵の効率的に排除が可能となります。現在はフィンランド軍で採用されていて、米軍も採用されるのではと噂されてます。
作中では自衛隊も採用していることになっています。
※サーメート(Thermate)
テルミット焼夷弾の一種で短時間に狭い範囲に集中する非常に高い温度を爆発的に生み出すことができる兵器である。燃焼するのに酸素を必要としないため水中でも使用できる。 通常の手榴弾などに比べて加害半径はきわめて狭く、そのため信管の遅延時間も短い。 燃焼温度は約4000~5000度にもなり、鉄骨などを溶かすことが出来る。 主な用途は鉄条網やバリケードなどの構築物の破壊である。(Wikipediaより)
作中ではSOHGのバリエーションの一つに焼夷手榴弾があることになっています。




