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緑の巨大ミミズ

 トレーラーを置いてある場所に近づくにつれ、銃撃の音が大きくなっていく。


「どうなってんの!?」


 夏木さんが慌てた声を出す。少々テンパってる気がする。

 レーダーを見るが依然として2つの点と紐っぽいものが映っている。


「この二つの点は人ですかね? だとすると何で3人分示されてないんですかね?」

「分からないわよ!」

「この紐っぽいのは? あの巨大ミミズですか? でもバイタルサインは登録してあるんですよね? なんで判別出来てないんですか?」

「知らないって言ってんでしょ!」


 夏木さんの声が震えたように聞こえるのは気のせいだろう。走っている振動でぶれているせいだと考えよう。

 道路がある場所までの土砂崩れの坂道を登ると惨状が表れた。


「……なによ、あれ」


 夏木さんが土砂崩れの山の上に立ち止まった。俺も追いつくと、緑色の巨大ミミズがのたうち回っている。以前に襲われた茶褐色の巨大ミミズとは違い毒々しい緑色で、触手も網状ではなく一本の触手が長く伸びた様になっている。


「うげっ! 気持ち悪り! 前とは種類が違うのかな」


 ダダダッと音が聞こえてくる。佐古田さんが小銃を振り回しながら撃っている。残念ながらミミズの頭上? のはるか上を撃っていて全然命中していない。


「夏木さん! 助けなきゃ」


 夏木さんは返事もしない。俺は放っておいて佐古田さんに近づく。


「助けてくれ〜!」


 佐古田さんがこちらに気付き銃から片手を離し、俺に手を上げてくる。


「あ! 危ない」


 俺は叫ぶが、TAHSの外に俺の声が響かないのか、佐古田さんはこちらに駆け寄ろうとする。緑のミミズはその長い触手をヒュルっと伸ばして佐古田さんを絡めとると、飲み込み始めた。


「クソッ!」


 俺は槍を振り上げて、ミミズに突き刺す。が、ニュルッとした感触で上手く突き刺せない。逆手に持ち替え、両手で上から下に突き刺す。

 ミミズは苦しそうに悶えるが佐古田さんをグングンと飲み込み、遂には体が見えなくなってしまった。ミミズの胴体がその分だけ膨らんでいる。

 俺は何度も何度も突き刺すと体液がドロドロと出てくるが、全然衰えない。

 気のせいか飲み込んだ膨らみがドンドン萎んでいくように見える。


「畜生!」


 槍の刃の部分である山刀を抜き、ミミズの口から割いていく。口の部分だけは固いのか抵抗があるが、それを抜けるとスッと刃が入っていく。ミミズは暴れるがTAHSのパワーで抑えこむと内蔵まで割けたのか佐古田さんが出てきた。

 ……いや、正確には佐古田さんだった抜け殻か。体液が搾り取られたようにペラペラになっている。

 ミミズはまだ尻尾? 部分が生きているのかまだジタバタとしていた。


「ふざけんな」


 俺は怒りに任せて尻尾の先まで割いていった。



 俺はミミズの動きが止まったのを蹴りながら確認した。


「……夏木さん。こいつは仕留めた。状況は?」

「えっ? えっと……」


 夏木さんは、やっと気付いたように動き出した。


「他にミミズはいるのかいないのか!?」

「はっ、はい! ……いないみたい」

「岩田さんと社長は?」

「えっと……!? バイタルサインない……」


 俺は急いで辺りを見渡した。岩田さんはベンツの中で、社長は小銃を手にしてトレーラーの側で息絶えていた。


「なんだよこれ。苦しそうな顔してるな」


 社長も岩田さんもこの世の終わりみたいな顔をしてる。夏木さんは放心状態でオロオロするだけで役に立たない。暫く立ち直るまで時間が必要かも。


 レーダーに反応が出た。ここからバイタルレーダーがギリギリ反応する距離で何かが動いた。


「……ん? またミミズ野郎か?」


 注意深くその方角を見るが何も見当たらない。ここから2kmは離れているので森に囲まれたここから見えるとは思えないが。

 その反応もすぐに消えた。


「夏木さん。レーダーに反応があったけどそっちは?」

「……なにもないわ」


 まあ、気のせいか。鹿かも知れないと思い込んでおこう。こんな気持ち悪いミミズを何匹も相手にしたくない。



 

「なんだよこれ」


 TAHSを脱いで3人の遺体を並べて調べると、岩田さんと社長のそれぞれ一つ、何かを刺したような跡が見つかった。

 皮膚を見ると紫色に変色している。


「これどう思います?」

「……毒かも」


 夏木さんは青い顔をして傷跡を見る。夏木さんはさっきからゲーゲー吐いている。特に佐古田さんの体液が抜かれてペラペラになっているのが衝撃的のようだ。


 親しいとは言えなかったが、雇い主である社長や運転手仲間の佐古田さんの死を間近で感じると、怖くなってくる。本当は寂しいとか悲しいとかの感情が人としては正しいのかもしれないが、もしかしたら、生きている人間は俺と夏木さんだけかもしれないのだ。そう気付くと震えてきた。


 こんな時には体を動かして気を紛らすしかない。


「夏木さん。遺体を埋めましょう」


 夏木さんは道路の端で吐くのに忙しそうだ。

 俺は、何故か「勿体無い」と思った。




 穴を掘るのはしんどい。

 最初は人力で掘っていたが埒が明かないのでTAHSで掘ることにした。TAHSの大柄な躯体で小さな折りたたみ式ショベルを使って掘るのは滑稽さがつきまとう。

 しかも力加減が上手く行かずに少し曲がってしまった。デリケートな作業には向かないようだ。


 3人分の墓穴を掘ると、それぞれを安置していく。

 抱き上げるときに社長の足をミミズが開けた穴を中心に折れてしまったのは内緒だ。これも力加減が上手くいかないロボットのせいにしておこう。


 土を被せていく。力加減を学習するように丁寧に作業していく。


「……なんだ?」


 折れてしまった社長の足に違和感を感じた。


「ちょっと夏木さん来てくれ」


 TAHSを脱いでいる夏木さんが歩いてきた。何時の間にか着替えている。ヒールも運動靴になっている。……この女の人の精神が強いのか弱いのか良く分からない。


「なによ」


 ちょっと憔悴した感じではある。それには触れずに社長の折れた足を指差した。


「足の折れたところ。なんか変じゃない?」

「変って何よ」

「……白くなったブツブツが見える。骨の周りに」


 山刀を取り出し、その部分を切り開いていく。


「ちょっとそんなもの見せないでよ」

「我慢して下さい。俺だって見たくないし、亡くなった人にこんなことしたくないですよ」


 ブツブツに見えたものはピンポン玉のような物体が20個近く着いていた。


「……卵?」


 夏木さんが目を見開いた。


「やっぱりそう見えます? あのミミズの卵ですよね」

「……それ以外には見えないわね」


 念の為に岩田さんの刺しあとも切り開くと同じように卵がビッチリと着いていた。


「寄生虫の一種なんでしょうか。 ……燃やしたほうがいいですかね? このまま埋めると孵化しそうじゃないですか」

「そうね。 ……でもどうやって燃やすの?」

「ベンツからガソリンを抜きましょう。 ベンツを持ち上げるので底についてるドレーンボルトから抜いてもらえますか?」

「……私が持ちあげるから貴方が抜きなさいよ。汚れるでしょ」


 ――この女いつかぶちのめす!


 そろそろ俺の我慢も限界に近づいてきた。社長に押し付けようと思ったがそれも出来なくなったし。

 俺は深呼吸を数回して気分をなんとか落ち着かせるとベンツに向かった。

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