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二人っきりの夜

「なんでそんなカエルなんて食べさせるのよ!」

「いや、これはウシガエルって言って、別名食用ガエルなんですから食べられますよ」

「そんなゲテモノは食べられないわ」

「美味しいですよ。それに貴重なタンパク源なんですから」

「私はちゃんとしたモノが食べたいの」


 男と女が言い争っている。

 男は皮を剥いだ大きな蛙の死骸を片手にして器用に捌いている。女はそれを気持ち悪そうに横目で見ている。


「私はその玄米だけでいいわ」

「……もう残り少ないですから混ぜ物しますよ」

「なに混ぜるのよ! 変なもの入れないでよ!」

「変なもんじゃ無いですよ……」


 男は袋を開くと猫じゃらしを手いっぱいに取り出した。女は目を剥いた。


「まさか…… このぺんぺん草入れるんじゃ無いでしょうね」

「これは猫じゃらし。正式には狗尾草(エノコログサ)って言うんですよ。粟科の植物なんで食べられますよ。ちなみにぺんぺん草も食べられますよ」

「……美味しいわけ?」

「キヌアって米国のセレブに一時期流行った穀物があるでしょ? あれと同じようなもんですよ」


 男は蛙の処理を終えると、狗尾草に手を伸ばした。

 狗尾草の毛を焚火で焼き、ほぐして擦り合わせるように器に穂を落としていく。全て穂を落とし終えると、毛の滓をフッと息で吹き飛ばす。それを水を浸した玄米に混ぜあわせた。


「今日は玄米粥にしましょうかね」


 男が飯盒を火に掛ける。女は膨れっ面で焚火を見つめている。


「……もっとマシなもの無いの?」

「材料を持ってきてもらえれば美味しく調理いたしますが?」

「アンタ意地悪よね」

「ないものねだりするお姫様よりはまともかと」

「あと、何日分の食料があるの」


 男はバックパックの中を漁りだす。玄米が半合。ザラメとミルクパウダーが500mlペットボトルに入れてあるが、残りは3分の1程度。


「これだけですね」

「……あとはどうするの?」

「さあ? 自給自足しながら人里に辿り着ければ……」

「人里が無かったら?」


 男はそれに答えず焚火に木をくべた。


「何度も言いましたよね。植生は日本のようですけど、ここは日本じゃない。別世界だと思いますよって」

「……」

「自衛隊基地を見たでしょ? 基地どころか民家も道路さえもない。それどころか変な生物もいた。まあ、あのロボット? がいて助かりましたけど」

「ロボットじゃないわ。何度も言ってるでしょ? あれは戦闘用パワードスーツTAHS(タス)、Tactical Assault Hyper Suitよ」

「その(たす)でも(ひく)でも良いけど…… 直ぐに電池切れになるのはいただけないよね」


 男は人より一回り大きいサイズのパワードスーツを撫で回すように見た。肩口から紐のようなモノが空中に伸びている。


「あの充電装置も格好悪いし、コンセプトが良く分からん。戦闘用なのにあんなに目立つモノを空高くにあげたら直ぐに見つかっちゃうし」

「しょうがないでしょ。あくまでも緊急用の装置なんだから」


 空は既に暗くなっているし、かなりの上空なのでここからは見えないが、上空3000mぐらいのところに透明な気球が浮いている。そこで集めた水滴が紐を伝って落ちてくる落下エネルギーで発電しているらしい。

 女は手元の端末を見た。


「明日一杯は動かせないわね。雲が無いから充電効率が悪いみたい」

「そうですか。行く宛が無いから急ぎませんがね」

「……取り敢えず人里まで出るって言ってたじゃない」


 男は肩をすぼめると寝床を整えるためにタープを張った下に落ち葉を集め始めた。


「さっき鹿の食痕を見つけた。明日は鹿を狙ってみますよ。ライフル(MK16)の弾はまだまだ残ってるんでしょ?」

「ええ……」


 女は身動ぎもせずに焚火を見つめていた。

※MK16とはFN SCAR-Lが正式な呼び方です。

FN SCAR(FN スカー:FN Special operations forces Combat Assault Rifle:特殊部隊用戦闘アサルトライフル)は、ベルギーの銃火器メーカーであるFNハースタル社がアメリカ特殊作戦軍(以下SOCOMと表記)向けに開発したアサルトライフルである。 Wikipediaより



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