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いつか見た空の下で  作者: めぐみ
Bar AQUARIUM
3/3

 金持ちの乗っている車と言えばベンツやポルシェ等有名どころが多いが最近は高級車やフォルムで選ぶより乗っているだけで善人に見える環境に配慮した物を選ぶことも多い様だ。まぁ買っても一生使えるわけではないから色々試すわけだが、所有車はその人間の個性が出やすいしある種のステータスにもなっているけれど俺は車には全く興味がない。こう言った車ひとつとってもやはり見た目と言うのは大切なのだ。

 一応愛車としては俺はフェラーリを使っている。メンテナンスにも金がかかるがそれを差し引いたとしてもあのエンジン音がたまらないと言う理由だけで購入したのだが、あのエンジン音のおかげで助手席に乗った奴は会話をするきをなくしてくれるいい音なのだ。もちろんフォルムなども気に入っているし座り心地は最高でスピードも日本車には出せない爽快感もある。

 やはり高級車なだけあり金目的の女が近寄ってくるが、あの音が嫌いと言って避ける女もいるからプラマイゼロと言ったところだと思う。だからこの車は女性用、実際に俺1人で乗るのは国産の環境に配慮したエコカーを使っている。

 もちろん善人ぶりたいわけで買ったわけではない。ただ日本車と言うのは性能がいいことに変わりはないのだ。俺が善人に見えてしまうのは逆に俺にとってはマイナスイメージになってしまう事だと思っている。俺は善人に見られようなどこれっぽっちも思っていなく、善人になることによって俺が人生をおくりずらくなってしまうことは避けたい。

 車にはそこまで興味や関心はなくただの足そして俺の薄っぺらい人間関係を作る為の道具だと思っているからそこまでこだわりもなく、数としても2台で充分だし実際乗っているのは昼間だけで回数としては少ない方だろう。夕食はいつもチェックをかねて自分の店で食べることにしているし、必ず酒を飲むことを前提として行動をしているから運転をすることが出来ないのだ。それでも仕事では必要不可欠な乗り物だから運転はうまい方だと自信はある。運転手を付けるのは会話に困るし、タクシーもその理由にプラスしてあの独特な臭いが嫌いなので使用しない。誰かが運転していて自分が助手席に座ることになれば会話を振ることもせずに手持無沙汰になってしまうので俺が基本的にハンドルを握ることになる。つまり運転がうまいのは必然なのだ。

 だがこの車の話は今は避けたい話題だった。俺にだって助手席に座らせる女を選ぶ権利があり、この2人は車に乗せるには香水が臭すぎる。臭い香りを置き土産にされるのは大いに迷惑なことで、今の時点で乗ることはないと答えは出ているのだ。そしてここで車について嘘をついたとしてもこの2人とは今夜以降もう会うことはないわけだから真実を知る由もないく、また真実を知る必要性もない。

「俺の運転は雑だからな、やめておいた方がいい」

「へ~龍也さんがそんな危険なことするなんて興味があるわ。危険な真似はしないタイプに見えるけど」

 ユリカはそういうと机に肘をついて下唇を何度か指でなぞった。グロスのせいでボリュームのある唇が妙にセクシーだが、これは指でなぞることによってそれに気付かせるための行為だろう。

 それにユリカの目を見ると俺に似ているところを感じずにはいられない。遠まわしに「お前は助手席には乗せない」と伝えていることをミサキは理解している様だ。俺の言葉を真に受けて少し顔をひきつらせたミサキと比べれば少しは頭が使えるらしい。

 ミサキよりはユリカは魅力的な女性だろう。ボディタッチは少ないがスタイルから言えばミサキよりはるかにセクシーで顔も綺麗だ。だが外見だけではなく頭もそれなりに使いながら話をしているし、俺が思っている以上に計算高い女なのかもしれない。

 俺の前でカクテルはまだ数口しか飲んでいない。美味しいからと言って何も考えずにどんどん飲んでしまっているミサキよりはるかにユリカは素面に近いだろう。酔って失態をしないようにしていること、頭も悪く尻軽そうに見えるミサキを横に置いて自分をよく見せようとしていることを考えると、後々面倒なでプライドも高い女だと言うことは間違いなさそうだ。そしてそういうタイプの人間は、馬鹿な尻軽女より嫌いだ。俺は駆け引きは好きだが面倒なことに巻き込まれることは嫌いだ。このご時世ストーカーに豹変する輩も少なくなく、こういった計算するタイプの人間はストーカーにならなかったとしても面倒なことに巻き込むパターンが多い。駆け引きをするとしたら男女間ではなく仕事や賭け事の方がはるかに精神的リスクが少ない。

 そうすると今日はハズレの日と言えるだろう。実際に彼女等の話では酒のつまみにもならず、聞こうとしても彼女達の声に耳を傾け様とするでも過酷な状態だ。もう体自体が彼女等を拒否してしまっていて、今ここに座っているのが苦痛の何物でもなく一緒にいるだけで謝礼がほしいぐらいだ。生理的に無理な部類の人間達とは一夜限りだとしても関係を作りたくないと言うのが俺のスタンスだ。

 そしてこうなると大変なのは帰り方だ。既に終電は終わってしまっていて彼女等は恐らく俺と夜を共にすることを望んでいるだろうが、俺は1人で家に帰りたい。だが勝手に横に座るような奴は勝手に帰るのにもついて来ようとするものだ。こういう時はこの2人を他の男に押し付けて帰るか、気付かれないように従業員専用の裏口から出るしかない。

 まぁ彼女等と夜を共にしたいと思うような男はカウンターに数人いる。酒を飲みながら彼女らの胸元をちらちら見ている男や足をなめるように眺めている男、そして俺を羨むような目で見ている男は俺の代わりになってくれるだろう。だがその男達は俺より外見や金銭的に劣っている人間で、彼女等にしてみれば彼らは俺がいる限り蚊帳の外の存在なのだ。俺は彼等のことはよく知らないが、心の綺麗さで言えば俺よりはいいだろう…つくづく人間と言う生き物は中身を見ないと実感させられる。

 店もいつも通りに人が入り、従業員の接客や酒とつまみの味そして店内設備について特に問題もないし今日この店にいる必要はすでに無くなっている。後は帰るだけだが、帰り方としてはもう裏口から出るしかない。

 裏口から逃げるのが手っ取り早く、黙って帰られてしまっては今後もしこの店であったとしても彼女らの方から声をかけてくることもないだろう。俺が「黙って置いて帰る=お前は俺の対象外」と言っていると馬鹿でも答えが出せることなのだから。

「さて、それじゃぁ俺は仕事に取り掛かるかな…」

 この言葉は従業員への合図になっている。これは「俺は裏口から出るからな」と従業員に伝えているのだ。別にこちらからそのことを教えたわけではないが、席を立つ口実として何時もこの言葉を使っているから自然と合図になってしまったのだ。

 俺は自分の店でも飲食をすれば必ず代金は払っている。これは従業員へのマナーでもあると考えていてそれにプラスしてチップとして数千円渡している。裏口は勝手に外から入られないように何時も鍵が閉められていて、もちろん俺は合鍵を持っているがその鍵は使ったことがない。俺のこの合図を聞くと誰かしらその裏口で待ち構えて食事の代金とチップを受けてっとそのまま鍵も閉めてくれるのだ。つまり今の俺の言葉は「チップのほしい奴は裏口に行っておけ」と言う合図にもなっていて、従業員にとっては嬉しい言葉になっていると聞いたことがある。

 俺が彼女等への態度が冷たく俺自身がこの場の雰囲気を楽しんでいない事に鼻の良い従業員は気が付いて、俺の合図を聞く前からそわそわしていたそいつががスッと裏口の方へ向かっていった。

「え~!龍也さんいなくなっちゃやぁだ~。仕事なんていいじゃ~ん」

 ミサキはそういうと俺の腕に絡みついた。俺の二の腕がミサキの柔らかい胸に当たったが俺に何の感情も湧きあがらないと言うことは、やはり俺の体がミサキを拒否しているという証拠なのだろう。何度も胸を押し付けてくるということは、ミサキにとっての最大の武器はやはり胸だと思っているのだろう。そんな武器は俺には何の役にも立たない。はっきり言って外見も内面も俺の好みではないのだ。

「残念だが俺もちゃんと仕事をしないとここに来た意味がないんだよ。ちょっと見まわすだけだからすぐ帰れる」

 この言葉を聞くとミサキはスット腕をほどいた。「すぐ帰れる」と言う言葉がポイントなのだ。俺にとってこの「帰る」と言うのは1人で家に帰ると言う意味だが、ミサキは「一緒に帰る」と言う意味で捉えている。俺は一緒に帰るのか1人で帰るのかは特に明言していないから嘘にはならないが、騙していることにはなっている。そして「すぐ一緒に帰る」為に彼女は腕をほどいたのだ。

「ありがとう」

 そう言って俺が少し微笑むだけでもう勝負はついていた。ミサキの頭の中はすでに妄想でいっぱいになっているのが簡単に分かってしまうぐらい瞳をうっとりとさせてしまっているし、ユリカは自分は選ばれなかったと確信したのかそれとも一緒について気なのか残りのカクテルをさっきとは違うハイスペースで飲み始めて帰り支度に取り掛かっているようだ。結局この言葉一つで2人は騙されてしまう、そんなレベルなのだ。

 俺が後することと言えば、店内を見回すという仕事をしているように見せかけて裏口に向かうと言うだけだ。既にこの見まわすという作業は開店前後含めて数回しているので必要はないがこの作業にやりすぎと言うことはない。彼女等に見せる演技として時間を潰すのはもったいないので一応最後の点検をすることにした。

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