死にたがりの旅人
青年は旅に出る
粗末な衣に身を包み
食糧さえも持たず
死に場所求めて
独りの旅に出た
道連れは不要
過度な悲しみはいらない
過度な憐れみもいらない
青年は一通の
別れの手紙を残し
誰にも告げずに
住み慣れた故郷に
別れを告げた
果てなき荒野
深き森林
腐臭の沼地
虚ろな瞳で視ながら
歩き続ける
己の死に場所を求めて
年月を刻むこともしない
不要なことだから
やせ細った身体
汚れきった粗末な衣
ふらつきながらも
歩みは止まらない
死への衝動が
青年を死に場所へと
導くように
駆り立てる
高き山々
獲物を求めて
彷徨う一匹の獣
青年は笑った
悲しむような笑顔で
泣き笑った
死への衝動は
青年を駆り立てない
そこが青年が望んだ
死に場所なのだから
己が死に場所へと
たどり着いた青年は
獣のもとへと歩む
獣の糧となるために
青年は獣の眼前に行き
両の腕を広げて言った
「さぁ、私の身体を喰らってくれ
己が糧にしてくれ
それが私の願いだ」
青年の言葉を理解した獣は
青年の身体に喰らいつく
青年は苦痛に
顔を歪ませながらも
泣き笑いながら
獣の糧となるために
身体を喰らわれる
腕も足も腹も頭部も
喰らわれながらも
青年は泣きながら
笑いながら
身体を巡る
紅い大量の生命の液体を
大地に染み込ませながら
果てていく
遺ったのは骨だけ
時が経てば
いずれ朽ちて
風化するだろう
形は遺らずとも
同化した風が
青年の想いを秘めながら
世界を翔てゆくだろう
ずっとずっと
永久に途切れることなく
様々な想いを秘めつつ
風は吹いていく
《終》