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花と約束
一つ目の断片
「……花が見たいな。色とりどりな花」
彼はそう言って微笑んだ。
どこか、夢見るような笑顔で。
「どんな色の花?」
あたしは聞いた。
この辺りに咲くなら、摘んでこれるから。
「うんとね……赤と青と、白と黄色」
全部、この辺りには咲かない色だ……。
「紫とか、だめ?」
この辺りに咲くのは、紫ぐらいしかない。
「……紫でもいいよ」
どこか、泣きそうな顔で彼は言った。
多分、あたしは困ったような表情をしていたと思う。
「なんとかするから、君は休んでいて。ね、約束だよ?」
あたしはそう言って、小指を彼に差し出した。
「……うん、約束する」
指切りげんまんをして約束すると、あたしは彼の部屋を出た。
「よし、これなら大丈夫だよね」
あたしは彼との約束を果たすためのアイデアを、思いついた。
本物の花だと、いづれ枯れてしまう。
でも、枯れない花ならいつまでも咲いていられる。
あたしにとって枯れない花は、紙に描いた花。
「(本物じゃないけれど、一生懸命描けば喜んでくれるかな?)」
あたしはそう思いながら、画用紙に花の絵を描き始めた――。
まだ物語の断片はありますよ?