エスメラルダの話
ごく平凡な子爵家に生まれた私はごく平凡な幸せな暮らしを送っていた。
そこに何ら不満はなかったけれど、なにか、何かが足りないと思って日々を過ごしてきた。
そんなある日転機が訪れた。
王家主催のパーティーに参加した日だ。
きらびやかな王宮でひときわ目についたのは王子たちだ。
第一王子はまじめで優秀な方。周囲には多くの家臣や貴族たちに囲まれている。
第二王子は耽美な方。目を輝かした貴族のお姫さまたちに囲まれて笑顔を振りまいている。
第三王子は孤独な方。王位継承が遠いためあまり注目されていなかった。
だからといって魅力がないわけではない。
幼いながらも端正なその顔は遠巻きに見ている令嬢たちの視線を集めている。
だがそのまとう雰囲気がいけない。
誰にも近づかせない殺伐とした雰囲気に誰もが近づくのをためらっている。
そしてそんな彼に私は目を引かれた。
彼を一目見た瞬間分かったのだ。
私にかけていたものは彼だったのだと…
たとえ彼にとってはそうでなくても…
その日から数日後私は行動に移した。
貴族の子供たちだけが集められた庭園で噴水のふちに腰を掛けている彼を見つけて、すぐに彼の隣に座ったのだ。
「王子様、初めまして。私はエスメラルダ…貴方のエスメラルダです」
その言葉に私はすべての気持ちを込めた。伝わらなくたっていい。
何が起ころうとも私はあなたを裏切らない。
傷つけたりもしない。
私はあなたを選びます。
だからあなたも私を選んでくれませんか?
私の挨拶に彼は不審な視線をよこした。
それだけで私の心は喜びに満ちた。
それと同時に私は彼のすべてがわかっていた。
なんでもできる優秀な彼はだれも信用していない。
誰も信じないし、周囲におびえていた。
なのにそれに反して彼は一人が嫌だった。
だから私は彼に隣に座り続けた。
そんなあなたを私が守りたいそう思った。
初めは疑心暗鬼な彼に噴水に突き落とされた。
そんなことをされても会わたしは笑って許せた。
近づけば、近づくだけ彼との距離は離れて行ったが、そんなことで私が彼を離すわけがない。
そしてあの噴水に突き落とされた時から半年ほど過ぎたころ。
ふいにまた噴水に落ちそうになった時彼の方から私の腕をつかんだ。
だがそのまま二人して噴水の中に飛び込んでしまう結果になったが、二人顔を突き合わせて笑ったのは初めてのことだった。
欠けた心に彼が埋まった瞬間だった。
ここから私たちの関係が始まる。
そう私が死ぬ瞬間まで…