伯爵の話
妻が死んだ。
私の友人たちはよかったという。
醜聞をまき散らした彼女の人生は呆気なく終わった。
世間は彼女を蔑んでいたが私は彼女を愛していた。
政略結婚であったがそこには穏やかな愛情が存在していたのだ。
だからこそ二人の子宝に恵まれたと思っている。
彼女の陛下に対する行動は結婚以前からの物で少し嫉妬を感じることもあったがなぜか他人が言うほどに関心がなかった。
その日も彼女は笑いながら戻ってきた。
そしてそのままベッドから起き上がれなくなった。
死の間際彼女は幸せそうに笑うのだ。
医師が言うには毒を飲んだためだという。
息子は母のそばを離れない。
幼いながらに母の死を分かっているようだ。
苦しいだろうに彼女は穏やかにしゃべるのだ。
「どうしましょう?これでは明日は陛下に会いに行けるかしら」
死のうとしている彼女から漏れるのはやはり陛下のことだ。
私は知らずの苦笑する。
「どうだろう?でも君なら明日にはケロッとしていそうだね」
そんなはずはないのにそう言葉が出た。
彼女もわかっているのだろういつものような笑い方ではなく小さく噴き出した。
そして微笑みを消すと真顔で私の顔を見つめた。
「旦那様、私は良き妻ではありませんでしたね。そこだけは謝っておきますね…」
「貴方からそんな言葉を聞けるだけで私は驚きですよ」
「貴方たちにはとても迷惑をおかけしていたというのは分かっておりますの。けど私はエスメラルダですのでご容赦くださいな」
やはりその口癖は健在のようだ。この口癖は何を意味するのだろう?
「お母様、お母様!」
息子は必死で母にすがっている。
そんな息子をみつめる彼女の瞳には愛情があふれている。
「幸せだけど、もうすぐここをお暇しないといけないなんて残念だわ」
そういった彼女の瞳に嘘は見いだせなかった。