側近の話
俺は陛下が王位継承したときより一番近くにある。
戦争であったり、内政であったりといろんな苦労を共にしてきた。
王位を継いでからも困難続きの陛下だが、そんな陛下が隣国の王女と結婚し安らかな平穏を得たことはとても喜ばしいことだった。
優しい王妃様がそばにいることで誰もそばに寄せ付けない陛下が優しく微笑む姿など感涙ものだ。
愛し愛されているその姿はとても微笑ましいもの。
だというのに…
一人で何でもこなすことのできる完璧な我らが陛下には、たった一つ悪いとことがある。
それはあの女、エスメラルダの存在を黙認していることだ。
それがお優しき王妃様を不安にさせているというのに…
俺が初めてあの女の存在を認識したのは陛下に使え始めたころ。
陛下の執務室を訪れるとそこにはエスメラルダがいた。
一人黙々と執務をこなす陛下のそばに座ってにこにこ笑っている。
最初は陛下の恋人か何かかと思ったが、すぐに彼女がだれか思い立った。
見違えるわけがない!
女は最近結婚した友人の妻だった。
なぜ人妻である女がここにいるのか?
すぐに陛下に問いかけるが書類から顔を上げることなく「エスメラルダだから」とそれだけだ。
俺はその意味をなさない返答に首をかしげながらも女に詰め寄った。
「君は伯爵夫人だろう?なぜここにいるのだ!伯爵にも陛下にも迷惑がかかるだろう。いらん噂で傷がつくぞ」
だというのに女は笑うだけで意味が分からないとでもいうように視線をそらせてきた。
その態度に俺はいら立った。
そんな俺たちに陛下もうるさそうに書類から顔を上げると女の名を呼んだ。
「エスメラルダ」
陛下に呼ばれると女はしっかりと陛下と視線を合わせた。
「なあに?」
「今日は帰れ」
その一言で女は椅子から立ち上がり綺麗な礼を一つするとそのまま出て行ってしまったのだ。
意味が分からず陛下を見ればもう仕事に戻ってしまっている。
これは何を聞いても無駄なようだった。
しかし、それから陛下が結婚しようともエスメラルダの訪問が途切れることはなかった。
それどころかとがめることさえ陛下はしなかった。