メイドの話
またあの女がやってきた。
「ここをあけていただけますか?」
そう言ってほほ笑むエスメラルダに私はいら立ちを覚えた。
エスメラルダは毎日陛下に会いに来る。
たとえ陛下が何をしていてもだ。
王妃付メイドである私たちは悪びれることのないエスメラルダを毛嫌いしている。
今日だってそうだ。
多忙な陛下は数日ぶりに休みを取り王妃様と過ごされているのだ。
王妃様は今日が来るのを指折りに数え楽しみにされていたのだ。
そんな姿を見てきた私たちメイドは何としてもエスメラルダを止めなくてはいけなかった。
ほほを染めて喜ぶ、王妃様の邪魔はさせられない。
「本日はお帰りください。陛下は今王妃様と過ごされているのです」
きっぱりとそう告げているのにエスメラルダはうんうんとうなづくだけだ。
ニコニコ笑いながらどこ吹く風である。
「そのようですね。では私もご一緒しようかしら。ねぇ、早くここをあけてくださいません?私と陛下との時間が短くなってしまうでしょう」
この女は聞いていなかったのか!
伯爵夫人とはいえメイドたちはいっせいに敵意を見せるが、開けろと要求するだけだ。
ここではエスメラルダの味方などいない。
むしろどこを探してもいないだろう。
なのにエスメラルダは余裕だ。
「そんなに怒らないで、大丈夫です。陛下に会ったら帰りますから、私は陛下以外に用はないですもの」
どこまでも苛立たせる女だ。
エスメラルダの存在自体が邪魔だというのに…
どうしても動かない私たちに業を切らしたのか、エスメラルダは隙を見て勝手に扉を開けた。
「ご機嫌いかが、陛下?私はエスメラルダ。今日も会いに参りましたよ」
そういって陛下と王妃様が仲睦まじく座るソファへと近づいていく。
エスメラルダの視線は陛下一人に注がれており、王妃様の姿は見えていないかのようだ。
悲しそうに顔をゆがませる王妃様に私たちは心が痛んだ。
今日もエスメラルダの訪問を許してしまった私たちはどうにか早く彼女が帰るように努力するしかない。