陛下の最後の話
エスメラルダがいなくなってから、このような穏やかな日々を過ごせるとは思いもしなかった。
ジーナがいてくれたこともあり、俺はお前がいなくて一歩ずつ後退することもあるが、進むことができた。
まさかここまで俺が見ていた世界が狭かったとは…
お前のおかげで俺はそれを実感することができた。
たとえ死が忍び寄っていようとも俺は幸福だ。
悲しむ妻娘に声をかけ躊躇することなく、その柔らかな髪を自身の手で梳くことができた。
心の底から俺を心配する臣下たちにも今後に対して告げておく。
部屋の片隅にはジーナが人から見えないように俺に微笑みかけてくる。
俺はもう残された時間がほとんど残されていないことがわかっているように彼らもわかっているのだろう。
だからこそまだ日が昇らない時間からこうして俺のもとに集っているのだ。
窓の視線をやれば遠く地平線から日が昇ろうとしている。
もうすぐで春が来る。
今日も穏やかな日差しがこの部屋を包むのだろう。
そう思った瞬間俺は激しい感覚に襲われた。
『王子様、初めまして。私はエスメラルダ…貴方のエスメラルダです』
初めて会ったときお前がこれほども俺にとって大切な存在になるとは思いもしなかった。
『私はエスメラルダ。王子様、今日もご機嫌いかがですか?』
『私が一人になんかさせませんよ。寂しいこともつらいこともなんだって二人で分かち合いましょう』
誰よりも俺を気にかけ俺を裏切ることのない存在。
『私たちはずっと一緒でしょ』
その通りだ。
部屋に差し込む光にお前の存在を強く感じた。
あんなに探していたというのに…
「ああ、エスメラルダ。そこにいたのか」
こんなにも俺の近くに、近すぎて気が付かなかった。
エスメラルダ、お前に伝えたいことがたくさんあるんだ。
お前がいない間にたくさんのことがあったんだ。
これは一日二日そこらで話し終えれるような話ではないんだ。
俺が幸せになる話だ。
お前なら笑って聞いてくれるんだろう?
「なぁエスメラルダ、俺のエスメラルダ…」
そういえば、いつもお前ばかりが言ってくれていたな…
俺はゆっくりとエスメラルダに手を伸ばす。
心地よい眠りにもう目を開けているのがつらくなる。
遠くで俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
その声にも心惹かれるが俺はエスメラルダの手を握った。
もう離さないようにしっかりと…
エスメラルダ、もしまた生まれ変わって巡りあうことができたならば、どうか俺を見つけ出してほしい。
そしてまた俺だけのエスメラルダになってくれないか?
もうすぐで春といえる穏やかな朝に陛下はなくなった。




