女の息子の話
私の母はあのエスメラルダだ。
ユージェント伯爵夫人にして、王宮や国中に醜聞を流した女の息子が私である。
陛下には愛する王妃様がいた。
その寵愛は深く誰もが理想の夫婦と憧れていた。
そんな陛下に横恋慕していたのが私の母。
ましてや自身にも夫や私がいるといのに、それにもかかわらず母は陛下を求めていた。
いつもいつも周囲のことなど気にせず「陛下、陛下」とおもちゃを与えられた子供のように目を輝かせながら陛下を求めていた。
他人の批判も蔑んだ視線も母には届かない。
そんな母だったからこそ罰が当たったのか若くして急死した。
けど覚えている母は死ぬ間際まで『陛下のエスメラルダ』だった。
そんな母であったが家にいるときは私たちにとっては良き母だったと思う。
陛下のことさえなかったら私たちはどこにでもいるような家族だったのだ。
優しく頭をなでてくれたり、時には叱られたこともあった。
幼い私は母を愛していた。
だがそこに陛下が出てくるとすべてが覆される。
母はいつも陛下に会いに王宮に行く。
たとえ高熱であえぐ私でさえも目に映らなくなってしまうのだ。
「あら、陛下のところに行かないと」
そういってさっきまで優しい母の笑顔はもう失われている。
もう私のことなど忘れてしまっているのだ。
去りゆく母にのばしたては母に届くことはない。
必死で追いすがって「どうしていってしまうのですか!」とその背中に投げ返ると母は振り返ることなくいつもの返答を返した。
「だって私はエスメラルダですもの」と返すのだ。
母のその異常な行動は死ぬまで続くことになる。
そしてそんな母に父は何も言わない。
その母の行動が子供の悪癖だとでも思っているかのようだ。